13
しばらくして、お茶会は終わる。
扉が開き、貴族たちが次々と退出していく。
リアたちは一礼して見送った。
その中に、銀色の髪が見えた。
ロゼッタ・ヴァルディス。
王子レオンハルトと並んで歩いている。
二人は何かを話し、穏やかに笑っていた。
リアは思わず見とれる。
まるで一枚の絵画のようだった。
「リア。」
マーサの声で我に返る。
「仕事だよ。」
「あっ、はい!」
⸻
室内へ入る。
ティーカップを片付け、椅子を戻し、テーブルクロスを整える。
いつもの仕事。
その時だった。
椅子の足元に、一冊の本が落ちているのを見つけた。
紺色の布張りの表紙。
角が少しだけ擦れていて、大切に読まれていることが伝わってくる。
リアは両手でそっと持ち上げた。
「落とし物ですね。」
マーサは頷く。
「持ち主へ届けよう。」
⸻
客室を訪ねると、侍女がリアを迎えた。
「少々お待ちください。」
ほどなくして、ロゼッタ本人が姿を見せる。
「どうなさいました?」
リアは本を差し出した。
「迎賓の間に落ちていました。」
その瞬間。
ロゼッタの表情がふっと和らいだ。
「……ありがとうございます。」
本を抱きしめるように受け取る。
「祖母から譲り受けた本なんです。」
その言葉に、リアも自然と笑顔になった。
「見つかってよかったです。」
「ええ。本当に。」
短い会話だった。
でも、その優しい声はリアの耳に残った。
⸻
部屋を出ようとした、その時。
廊下の向こうから足音が聞こえる。
「ロゼッタ嬢。」
レオンハルト王子だった。
リアはすぐに壁際へ下がり、頭を下げる。
「殿下。」
ロゼッタも美しく礼をする。
王子は穏やかに微笑んだ。
「先ほどはありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
二人は笑う。
とても自然な笑顔だった。
けれど。
どこか少しだけ、距離がある。
友人とも違う。
恋人とも違う。
その空気を、リアはうまく言葉にできなかった。
王子は軽く一礼すると、そのまま廊下を歩いていく。
ロゼッタも静かに部屋へ戻った。
リアは二人の背中を見送りながら、小さく首を傾げる。
(不思議だな。)
笑っているのに。
どこか、少しだけ寂しそうだった。
⸻
夕方。
休憩室で紅茶を飲みながら、ルルが尋ねた。
「王子様って、かっこよかった?」
「うん。」
リアは素直に頷く。
「ロゼッタ様も、とても素敵だった。」
「お似合い?」
少し考える。
そして笑った。
「……まだ、これからなのかもしれないね。」
マーサは紅茶を一口飲み、何も言わず微笑んでいた。
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その日の仕事記録。
あとしまつ記録 第006号
担当者:リア
業務内容
・迎賓の間 あとしまつ
・落とし物 一冊返却
備考
人との距離は、不思議だ。
隣にいても遠い日があれば、
離れていても近く感じる日もある。
今日のお二人は、きっとその途中なのだと思う。
手帳を閉じる。
窓の外では、夕日に染まった白百合が風に揺れていた。
明日もまた、誰かの物語が始まる。




