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『恋物語のあとしまつは、モブメイドの仕事です。』  作者: てぃな


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12/22

11

昼過ぎ。


マーサから新しい仕事を頼まれた。


「庭園の東屋を見てきてくれるかい?」


「花びらが風で飛んでいるかもしれない。」


「はい。」


庭園は春の花でいっぱいだった。


白、桃色、薄紫。


風が吹くたびに花びらが舞う。


私は東屋へ向かう。


すると、人影が見えた。


一人の小さな女の子。


五歳くらいだろうか。


真っ赤なリボンをつけて、しゃがみこんで泣いていた。


「どうしたの?」


声をかけようとした、その時。


もう一人の誰かが先に近づいた。


銀色の髪。


昨日会った令嬢。


ロゼッタ・ヴァルディスだった。


「転んでしまったの?」


女の子は涙をこらえながら頷く。


ロゼッタはドレスの裾が汚れることも気にせず、その場にしゃがんだ。


「少し見せて。」


小さな手の擦り傷を、そっとハンカチで包む。


「泣いても大丈夫。」


「でもね。」


「泣き終わったら、一緒に立ちましょう。」


女の子は少しずつ泣き止み、小さく笑った。


ロゼッタも安心したように微笑む。


その笑顔は、昨日よりもずっと柔らかかった。


私は思わず、その場から動けなくなっていた。


見てはいけないものを見てしまったような気がしたからだ。


少しして、女の子の母親らしき女性が駆け寄ってくる。


「申し訳ありません!」


「娘がご迷惑を……!」


ロゼッタは首を横に振った。


「迷惑ではありません。」


「お怪我がなくて何よりです。」


それだけ言うと、静かに立ち上がり、その場を後にした。


女の子は、その背中に向かって大きく手を振る。


「おねえちゃん、ありがとう!」


ロゼッタは振り返らなかった。


でも、歩く速さがほんの少しだけゆっくりになった。



仕事を終えて休憩室へ戻る。


ルルが聞いた。


「今日は何かあった?」


私は少し考えて答える。


「……花を大切にする人は、きっと人も大切にするんだと思う。」


「え?」


「ロゼッタ様がね。」


ルルは驚いた顔をする。


「また会ったの?」


私は頷いた。


「でも、この話は誰にも言わない。」


「どうして?」


私は窓の外を見る。


夕日に照らされた庭園。


そこにはもう、ロゼッタの姿はなかった。


「たぶん、あの方は。」


「見返りが欲しくて優しくしたんじゃないから。」


ルルはしばらく黙っていた。


そして、小さく笑う。


「リアって、そういう子だよね。」



その夜。


私は仕事記録を開いた。


あとしまつ記録 第005号


担当者:リア


業務内容


・庭園巡回


・東屋清掃


・花壇点検


備考


花は、誰かに見られるためだけに咲くわけじゃない。


人の優しさも、きっと同じなんだと思う。


手帳を閉じる。


明日もまた、王宮では誰かが笑い、誰かが泣く。


そのあとを整えるのが、私たちの仕事だ。


私はランプの火を消し、小さく呟いた。


「今日も、お疲れさまでした。」

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