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昼過ぎ。
マーサから新しい仕事を頼まれた。
「庭園の東屋を見てきてくれるかい?」
「花びらが風で飛んでいるかもしれない。」
「はい。」
庭園は春の花でいっぱいだった。
白、桃色、薄紫。
風が吹くたびに花びらが舞う。
私は東屋へ向かう。
すると、人影が見えた。
一人の小さな女の子。
五歳くらいだろうか。
真っ赤なリボンをつけて、しゃがみこんで泣いていた。
「どうしたの?」
声をかけようとした、その時。
もう一人の誰かが先に近づいた。
銀色の髪。
昨日会った令嬢。
ロゼッタ・ヴァルディスだった。
「転んでしまったの?」
女の子は涙をこらえながら頷く。
ロゼッタはドレスの裾が汚れることも気にせず、その場にしゃがんだ。
「少し見せて。」
小さな手の擦り傷を、そっとハンカチで包む。
「泣いても大丈夫。」
「でもね。」
「泣き終わったら、一緒に立ちましょう。」
女の子は少しずつ泣き止み、小さく笑った。
ロゼッタも安心したように微笑む。
その笑顔は、昨日よりもずっと柔らかかった。
私は思わず、その場から動けなくなっていた。
見てはいけないものを見てしまったような気がしたからだ。
少しして、女の子の母親らしき女性が駆け寄ってくる。
「申し訳ありません!」
「娘がご迷惑を……!」
ロゼッタは首を横に振った。
「迷惑ではありません。」
「お怪我がなくて何よりです。」
それだけ言うと、静かに立ち上がり、その場を後にした。
女の子は、その背中に向かって大きく手を振る。
「おねえちゃん、ありがとう!」
ロゼッタは振り返らなかった。
でも、歩く速さがほんの少しだけゆっくりになった。
⸻
仕事を終えて休憩室へ戻る。
ルルが聞いた。
「今日は何かあった?」
私は少し考えて答える。
「……花を大切にする人は、きっと人も大切にするんだと思う。」
「え?」
「ロゼッタ様がね。」
ルルは驚いた顔をする。
「また会ったの?」
私は頷いた。
「でも、この話は誰にも言わない。」
「どうして?」
私は窓の外を見る。
夕日に照らされた庭園。
そこにはもう、ロゼッタの姿はなかった。
「たぶん、あの方は。」
「見返りが欲しくて優しくしたんじゃないから。」
ルルはしばらく黙っていた。
そして、小さく笑う。
「リアって、そういう子だよね。」
⸻
その夜。
私は仕事記録を開いた。
あとしまつ記録 第005号
担当者:リア
業務内容
・庭園巡回
・東屋清掃
・花壇点検
備考
花は、誰かに見られるためだけに咲くわけじゃない。
人の優しさも、きっと同じなんだと思う。
手帳を閉じる。
明日もまた、王宮では誰かが笑い、誰かが泣く。
そのあとを整えるのが、私たちの仕事だ。
私はランプの火を消し、小さく呟いた。
「今日も、お疲れさまでした。」




