第7回 闞沢、県令として励む(前)
張羨の熱い気持ちを聞いた後ではあるが、闞沢は自分が県令であり、まずは県令の職分を全うする、と改めて自分に言い聞かせた。その後に、県丞と県尉に尋ねた。
「お二人にお聞きしたい。この郴県の当面の課題とは何でしょうか?」
県丞が答える。
「ここ最近、大きな問題は無いのですが、やはり異民族の動向というのは、桂陽郡全体として、注視すべきことだと思います。」
「異民族とは、具体的にお教え願いたい。」
「はい。通常、蛮族、と一緒くたに呼んでいますが、五渓蛮と武陵蛮のことでございます。」
「なるほど。最近問題はない、とおっしゃりましたが?」
「はい。最近は、民と蛮族の中でお互いの欲するものを物々交換する商取引が盛んに行われており、以前の様な略奪行為は無くなりました。しかし、それがいつまで続くかは不透明なので、桂陽郡としては蛮族をいかに扱うか、問題になっております。」
「そうですか・・・。蛮族に我々の言葉は通じるのでしょうか?」
「はい。全員ではありませんが、商取引を行う者や、立場が上の者は、ある程度、こちらの話を理解することが出来るようです。」
「そうですか。ならば、ここは太守様に動いてもらうのが得策かと思います。」
「太守様を・・・?」
「はい。蛮族には、あちらの族長を出してもらい、こちらからは太守様に出向いてもらう。三者が会談をして、今後、無用な争いはせずに、問題があれば、話し合いをする様な仕組みをつくればいいかと。」
「しかし、太守様直々の必要性はありましょうか?」
「私が出ても構わないのですが、私は郴県の県令ですから、族長と比較すると格落ちすることになります。そうならないのは、唯一、太守様だけです。」
「おっしゃることは、わかりますが・・・。」
「この話は、私自ら太守様にお願いしに行きます。」
闞沢は、張羨のいる中央庁に向かった。
張羨は快く出迎えてくれた。張羨が言う。
「徳潤、早速の頼み事か?」
「はい。少々厄介な話ですが・・・。」
「聞こうか。」
闞沢は、蛮族との話し合いの必要性を説明し、それに直々に出て欲しい旨を伝えた。
張羨は腕組みをして目を瞑りながら考える。
しばらくして、闞沢に言う。
「この話し合いが成功すれば、蛮族の危険性が低下するのだな?」
「はい。更には・・・。」
「更に?」
「もし、来るべき時まで、太守様が蛮族との関係を良好に保てれば、その“力”を借りることもできると思います。」
「なるほど、そういうことか。わかった。私は、いつでも臨めるようにする故、手配は頼むぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
闞沢は拝礼して、退出した。
そして、闞沢は蛮族と取引している集落の者たちに、族長宛の書面を渡すように依頼した。
しばらくすると、五渓蛮、武陵蛮から、会って話をするのはお互いによきことである、といった旨の返書が届いた。
会合の場所としては、郴県の西方で、両蛮族が出入りしている集落に決まった。
闞沢は、張羨の従者として随行した。
それぞれが従者一名と、通訳の者のみ帯同を許すという小規模な会談である。
内容的には、三者で不可侵条約を結び、問題があれば力ではなく、対話で解決することが正式に確認された。
そして三者で文書を交わし、盃を合わせて終了となった。
張羨と闞沢は最初に退出した。
その退出を確認後、五渓蛮の族長が武陵蛮の族長に言う。
「張羨も中々の人物であったが、その後ろに控えていた従者もただものではないな。」
「そうだな。俺も、そう思った。平地の民も侮れないな。」
こうして、異例の三者による会談は無事終了し、当面の平和が約束をされたのである。




