第6回 闞沢、張羨の本心を知る
闞沢は朝から憂鬱であった。
昨晩の張羨をはじめとした、責任ある者たちの痴態を目の当たりにしたからである。
「あまりにも、ひどい」
闞沢は心の中で呟いた。
しかし、自分の上官であり、郡太守にいきなり意見するのもはばかられるため、しばらくは我慢が必要だ、と闞沢なりに覚悟を決めた。
闞沢は、張羨の執務を行う中央庁の部屋まで来た。
闞沢が言う。
「太守様、闞徳潤参りました。」
「入れ!」
たった一言であるが、昨日のあの乱痴気騒ぎをしていた者の声とは思えない力強さと張を闞沢は感じた。
中に入ると、張羨の他に、昨日いた郡丞、都尉、県丞、県尉も揃っていた。闞沢は、改めて挨拶をしようとしたところ、張羨がそれを手で制した。そして、張羨が言う。
「闞徳潤よ。昨日は済まなかった。」
張羨をはじめ、全員が頭を下げた。
闞沢は面食らったが、張羨は続ける。
「実は昨日、申し訳ないが闞徳潤という人物は如何なる者か試させてもらった。もちろん、友である呉景が紹介してくれたのだから、それなりの人物であるとは思っていたが、昨日の立ち振る舞い、実に見事であった。」
「あれは、演技だったということでしょうか?」
「ああ。もし、酒の誘いに乗るようであったら、信用できる人物ではない、理由をつけて呉景の所に戻そうと思っていたのだ。」
「何故、その様なことを・・・。」
「私には、私なりの理想の政がある。それを実現できる器量のある者を今、集めているところなのだ。」
「太守様の理想・・・。」
「ああ。理想と言っても、そんな大げさなものじゃなく、当たり前のことだ。民のために我々が尽くし、民が幸せであること、これが私の理想だ。」
闞沢は、驚いた。まさに闞沢が常日頃から考えていることであるが、それを口に出して、正面から言う人間をはじめて見たからである。闞沢の心は震えた。張羨は続ける。
「そのためには、まず、志を同じくした有能な人材が必要だ。ここにいる四人は私の志を理解してくれた者たちだ。」
郡丞が言う。
「太守様の国造り、是非とも闞徳潤殿の力をお借りしたい。」
闞沢が言う。
「国造り、でございますか。」
張羨が答える。
「そうだ、国造りだ。この桂陽郡は、名目的には荊州牧の劉表様の支配化であるが、劉表様も色々お忙しい故、こちらには目配り、手配りが無い状態が続いている。それは、郡太守である私に、自由に政をせよ、という言葉なき言葉であると、私は理解している。」
「自由に政を・・・。」
「ああ、まさに国造りの様ではないか?この桂陽郡はまだまだ豊かになれる。そして、桂陽郡を理想の国にできた暁には、その範囲を広げたいと考えている。」
「範囲を広げる・・・。軍事行動にて、いずこかに攻め込むということでしょうか?それは、劉表様から見れば反乱、ではないでしょうか?」
「反乱と言えばそうかもしれんが、それで民が幸せに暮らせるのなら、私はいくらでも反乱者の汚名は受けようと、覚悟している。」
「そこまでのお覚悟を・・・。」
「ああ。会ってすぐにする話ではなかったが、我々の思いを知っていてもらいたい、と考えて話をさせてもらった。頭の片隅でいいので、覚えていて欲しい。当面は、通常の県令として、その政の腕前を存分に発揮してほしい。必要なものがあれば、遠慮せずに言ってくれ。」
「かしこまりました。まずは、県丞殿、県尉殿の力をお借りし、県令としての責務を全うします。」
「頼んだぞ、徳潤。」
こうして、闞沢は全く意図していなかった話を張羨からいきなり聞かされて驚いたが、その瞳はまっすぐであり、語った思いも、本心であることがよくわかった。
「まずは、自分の仕事だ。」
闞沢は、自分に言い聞かせたのであった。




