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三国志・闞沢伝ー孫呉を内側から支えた漢ー  作者: 涼風隼人


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第5回 闞沢、張羨と会う

 銭唐県から郴県への距離は、かなりある。

 

 まさしく、山を越え、川を渡り、馬を飛ばして、順調でも一〇日くらいはかかる場所である。

 

 闞沢は何とか日の入り前の夕刻時に郴県に着くことが出来た。郴県は郡治であり、太守の張羨も郴県にいる。

 

 闞沢は早速、張羨がいるであろう郡府の中央庁へ向かった。

 

 門番に、闞沢は呉景からの書状を渡した。

 

 門番は言う。

 「あなたが、今度の県令殿でございますか。今後とも、よろしくお願い致します。太守様ですが、本日は既に退庁しており、ここにはおりません。」

 

 「ご不在か・・・。よろしければ、どこに行かれたかお教え願いたい。着任のご挨拶は、すぐにするのが礼儀故に。」

 

 「はい・・・。しかし、今頃はお酒もかなり召し上がっているのではないかと・・・。」

 

 「お酒・・・。この時間からですか?」

 

 「はい。おそらくは、いつもの遊郭だと思います。重職であられます、郡丞、都尉、県丞、県尉の皆様もご一緒かと・・・。」

 

 「もし、まさに今、反乱などが起きた場合、どうされるのですか?」

 

 「・・・。中心となって指揮を採られる方がいないので、混乱すると思います。」

 

 「なるほど・・・。これは困りましたな。ただ、いずれにしても着任のご挨拶だけでも済ませたいので、その遊郭の場所を教えて頂きたい。」

 

 闞沢は、教えられた道を歩いていった。

 

 ほどなくして、馬車が繋がれた遊郭を見つけた。

 

 闞沢は中に入る。

 

 すると、店の者がすぐ出てきた。

 「お客さん、初めての方ですね。お一人ですか?」

 

 「いや、ここに太守の張羨様はいらっしゃるか?」

 

 「お客さん、一体、誰です?」

 

 「私は、この度、この郴県の県令を仰せつかった闞徳潤と申す。先ほど到着した故、まずは着任のご挨拶をと思い、やってきた。」

 

 「・・・。新しい県令様ですか・・・。少々、お待ちください。」

 

 店の者はそそくさと中に入っていった。

 

 しばらくすると、別の者がやってきた。どうやら、この遊郭の店主であるとのことだった。店主が言う。

 「県令様、お待たせいたしました。張羨様が、是非、中にお入りくださいとのことで、私がご案内致します。」

 

 「・・・。わかりました。お願いします。」

 

 闞沢が案内されたのは、一番上の階の一室であった。

 

 男女相まみれての、大騒ぎであった。

 

 店主が、耳打ちをした男がいる。それが張羨であろう、と闞沢は思った。その男が言う。

 「おお、県令殿。よくぞ、参った。私が太守の張羨である。」


 「私は、呉郡太守の呉景様から命じられて参りました、闞徳潤と申します。」

 

 「徳潤よ。堅苦しい話は明日にして、今日はちょうどよい、ここで歓迎の宴としようではないか。幸い、徳潤に関わりのある者も、全員揃っている。」

 

 闞沢は当たりを見渡した。

 

 本当に、皆、心から酒を楽しんでいるようだ。

 

 闞沢も酒はたしなむ。しかし、この様な狂態を晒すほどまで飲んだことは無い。闞沢にとって、ここは、非常に居心地の悪い場所であった。

 

 闞沢が言う。

 「せっかくのお言葉ですが、ここで私まで酒を飲んでしまうと、緊急時に適切な決断をできる者がいない状態になってしまいます。まことに残念ですが、本日はご遠慮させて頂きます。」

 

 闞沢は深々と頭を下げた。その言葉に興ざめしたのか、張羨が冷たい声で言う。

 「そうか・・・。わかった。それでは、下がるとよい。詳しい話は、明日だ。」

 

 闞沢は拝礼して、その場を去った。

 

 帰り道に闞沢は思った。

 「あの人が、本当に呉景様のご友人なのか。」

 

 闞沢にとって、呉景は尊敬のできる人物であった。

 

 その友人であるということから、張羨との対面も楽しみにしていたところがあった。

 

 もっとも、「反乱を起こす可能性がある」とも聞いているので、どれだけの度量か測ってみたい、というのも闞沢の本音であった。今日見た限りでは、張羨が反乱を起こしても、すぐに鎮圧される様子が、容易に想像できた。

 

 ただ、闞沢は郴県県令を任された以上、まずは己のできるところで民のために働こう、と決意を新たにしたのである。

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