第35回 闞沢、顧雍の死を見届ける
顧雍は、七六歳となった。
体力的に引退したいと何度も考えたが、孫呉のため、役に立つ間は働き続けようと決心してここまでやって来た。
そして、いつもの様に夜更けまで仕事をし、さすがに疲れたので床に就いた。しかし、顧雍は目覚めることは無かった。
眠ったまま、その天寿を全うしたのである。
その顔は、全てをやり切ったといった穏やかなものだったと闞沢は聞いた。
沈黙の宰相と言われた顧雍らしく、何ら言い残すことなく静かにこの世を去った。しかし、顧雍も自らの寿命に気付いていたのか、子供達にはそれぞれ遺言書を残していた。
しかし、内容的には謙虚であれ、無駄なことは話すな、といった、顧雍の生き様を改めて伝えるものであった。
そして、もう一通。闞沢宛の遺言書もあった。そこには一文のみ、記されていた。
「あなたと上大将軍に全てを託します。」
これだけであった。闞沢は若き時より、顧雍の事を尊敬していた。その言葉数は少ないが、その英知と人柄は、孫呉の丞相たるにふさわしいものがあった。
闞沢は、顧雍の死を知ると、その日はずっと哭泣した。
儀式としての哭泣ではなく、真心からの哭泣であった。
そして、闞沢は顧雍が死に際まで気にしていたのは太子の問題であると理解し、何とかしようと動き出そうとした。
しかし、その時を天は闞沢に与えなかったのである。




