第31回 闞沢、待中の職を加官される
孫権は、合肥新城への二度の侵攻の失敗をし、失意の中にいた。その孫権に闞沢は呼び出しを受けた。孫権が言う。
「徳潤よ。私は、二度の合肥新城への侵攻を行い、何の成果もなく、国益を害してしまった。そこで、お前に頼みがある。」
「何でもおっしゃってください。」
「お前には今、中書令として私に仕えてもらっているが、更に待中も兼任してもらいたい。」
「私に待中を・・・。」
「そうだ。今まで以上に、私に対する諫言や、今後は太子の教育などにも関与し、より一層私を助け、批判するべき時は批判してほしい。どうも最近、自分の判断は絶対に正しい、と思ってしまう節があり、これは皇帝として非常に危険な兆候だと自覚した。徳潤、今まで以上に私に尽くしてほしい。」
「・・・わかりました。ご期待に沿えるように致します。」
孫権のいい所は、家臣の直言、諫言を聞く度量があったことだが、最近やや、その良さが薄れつつあり、家臣も発言を控える節があった。それを、闞沢に正してほしい、という願いがあり、待中を加官したのである。
そして、孫権は太子である「孫登」を非常に可愛がっていた。周りからも優秀であると評価され、孫呉の将来は明るい、と思われていたのだ。
孫登は丞相の顧雍を心から尊敬しており、それを孫権はわかっていたので、太傅など正式な役職は就けなかったが、事ある度に指導してほしい、ということは顧雍に伝えており、顧雍は快く引き受けていた。
孫権はそこに、闞沢も加わる様にお願いをしたのである。
孫権にその話をされたのか、孫登が闞沢に挨拶にやってきた。
「先生、太子の孫登でございます。若輩者ではありますが、私への薫陶、よろしくお願い申し上げます。」
「太子、ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。大使は既に丞相の薫陶を受けていると聞き及んでおり、私如きに何ができるのかわかりませんが・・・。」
「丞相は本当にご立派な方です。その丞相が、事ある度に闞沢先生のこともお褒めになっておられました。」
「丞相が・・・。わかりました。精一杯、つとめさせて頂きます。何か聞きたいことなどあれば、時間など気にせず、自邸へお越しください。もちろん、お呼び頂ければこちらから駆け付けます。」
「弟子が先生を呼びつけるなどは、ございません。私の方から伺わせて頂きます。」
太子は拝礼し、退出した。
「流石は、丞相の薫陶を受けているお方だ。言葉に真心があり、決して上辺だけの態度ではない。私も、心してお相手せねばなるまい。」
闞沢は、心の中で誓ったのだった。




