第20回 闞沢、山越王に会う
闞沢は、山越出身の兵三名を伴い、山越王に会いに行くことにした。闞沢は兵に聞く。
「顧雍様がお会いした山越王のご長男が今の山越王となられたとのことだが、どの様な御仁か、知っているか?」
「直接お会いしたことは無いのですが、聞いた話によりますと、先代同様、大きな体躯を持ち、先代よりも戦いを好むようです。毎日、自ら兵の調練を行っているとのことです。」
「なるほど。兵の調練を、それも自ら行うとは、本当に戦うことが好き、ということか・・・。このままだと、その相手として我らが孫呉に向かってくる可能性は高いな・・・。」
「はい。今のところ、先代と顧雍様の盟約が辛うじて生きている、と言ったところだと思います。」
「そうか。いずれにしても、まずは会ってみない事には何も動かん。それでは、案内を頼む。」
兵たちが闞沢を先導して、山の中を分け入って行く。道らしい道はない。闞沢は、顧雍がよく、山越兵の案内も無しでたどり着けたものだ、と感心するほど、山奥へと向かって行く。
どれくらい進んだのであろうか。ようやく、視界が開ける場所にたどり着いた。山越王の居所である。
すぐに数名の者に取り囲まれた。こちらの兵と山越の者が話をしている。兵が言う。
「闞沢様。彼らは、我々三人が裏切り者だ、すぐに去らないなら殺す、と言っております・・・。」
「なんと・・・。わかった。私が話すことを山越の言葉に訳してくれ。」
闞沢は言う。
「私は、呉の孫権の代理としてきた闞沢である。以前、こちらの王と顧雍が交わした盟約について確認しにやってきた。顧雍から、山越王宛の書状も預かっている。まずはこれを、山越王にご一読いただきたい。」
兵が訳して伝えると、山越の者が書状を出せ、と言わんばかりに手を差し出してきた。
闞沢は書状を差し出した。
しばらく待たされたが、今度はこちらの言葉を理解できる者が出てきた。そして言う。
「闞沢、入れ。残りの者はここで待て。」
闞沢は、その者の後に続いた。
すると、高い所に体躯の大きい男が悠然と座っている。
年齢的には、かなり若く見えるが、その眼光は鋭い。
その男が言う。
「俺は本当のところ好きではないが、人を介して話すのは面倒だ。俺が、平地の言葉で話してやろう。私が、山越王だ。闞沢と申したな。先ほどの書状は読んだ。先代と顧雍の約束は私も知っている。しかし、先代はもういない。しかも、顧雍ではなく、闞沢、何故、お前が来るのだ。」
「まず、先代の山越王が亡くなったこと、お悔やみ申し上げる。顧雍ではなく私が来たのは、現在、この会稽郡の全ては私に任されているからだ。」
「先代は、顧雍だけは信用しても良い、と俺にも言い残した。俺は闞沢、お前を知らないし、お前も俺の事は知らないわけだ。だから、先代と顧雍の約定は、もうすでに効力を失っていると思うが。」
「たとえ約定を交わした者が亡くなったとしても、直ちにその一事をもって約定が無効になるわけではない。これは、個人の約束というより、国と国の盟約だ。」
「闞沢、お前たち平地の者は、俺たちを異民族、といって自分たちと違う扱いにしているではないか。お前の言う通りならば、我ら山越を国の一つに認めるのか?」
「それは私には答えられる話ではない。ただ、国同様に認めていなければ、私が使者で来ることは無い。」
「なるほど・・・。お前たちは、我々との共生を引き続き望むということか?」
「そうだ。無闇に平地の民を苦しめないで欲しい。我々も無意味に、山越の民を苦しめるつもりは毛頭ない。」
「そうすることにより、我々に利益はあるのか?」
「無い。あるとすれば、お互い、民に平穏な生活が保証されるということだ。」
「・・・。それだけか?」
「そうだ。しかし、民にとっては、それが一番大切なことだと私は思う。」
山越王は黙考する。そして、おもむろに口を開いた。
「わかった。新たな誓いを俺と闞沢、お前で立てることとしよう。そしてその誓いを年に一度確認する、ということでどうだ?」
「年に一回・・・。わかった。私が必ず、年に一回、こちらに来るようにする。」
「もし、来なかったら、この盟約はなかったこととし、こちらとしては自由にやらせてもらうぞ。」
「・・・わかった。約束する。」
こうして、顧雍と山越王の交わした盟約は、今後も続くこととなったのである。
山越王が言う。
「闞沢よ。顧雍といい、孫権という者の下には優秀な者が大勢仕えているようだな。」
「もちろん。まだお若いが、その器量はいずれ天下を狙える器だと私は感じている。」
「天下とな・・・。その時は、この山越を駆逐するのかな?」
「そんなことはしない。この約定、命に懸けて守ることを私は誓う。」
「くくく・・・。闞沢、お前の事が気に入った。何かあれば、年に一回と言わず、気軽に来るとよい。」
こうして、闞沢の働きにより、山越との約定は再び有効となったのである。




