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三国志・闞沢伝ー孫呉を内側から支えた漢ー  作者: 涼風隼人


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第2回 闞沢、県長として励む(前)

 闞沢が着任した翌日、県丞と県尉は闞沢の所に向かった。

 

 向かう途中、県丞が言う。

 「昨日の様子だと、まるで本当に農民そのものであったな。」


 「ああ。しかし、あれで稀に見る秀才と専らの評判だ。」


 「とてもそうは見えなかったがな・・・。」

 二人は笑いあった。

 

 ほどなくして、県令の執務室の前に到着した。県丞が言う。

 「県令殿、県丞、県尉、参りました。」

 

 「お入りください。」

 

 県丞が扉を開けると、その正面には、毅然とし、凛とした表情で闞沢が待っていた。昨日と、同じ人物とは思えないほどの変わりようであった。闞沢が言う。

 「昨日は、遅くなり申し訳ありませんでした。早速ですが、仕事の話といきましょう。」

 

 闞沢は二人を座らせてから話し出す。

 「まずは、県丞殿。県丞殿には、この県の人口や税に関することを詳しくお話頂きたい。」

 

 県丞は、現在把握している人口や税の事について、かいつまんで話をした。闞沢が言う。

 「あらましは大体、わかりました。城外などに、まだ開墾可能な土地などはありますでしょうか?最近は流民も多い故、そういった者を積極的に取り込んで、人口も税収も増やしたいと思うのですが・・・。」

 

 「はい。ここは小さい県でございますが、まだ開発の余地、流民の受け入れは可能かと存じます。」

 

 「流民が盗賊や山賊になり、治安が乱れるのが一番厄介です。県丞殿の方では、早速、流民の調査や受け入れをお願いしたい。」

 

 「かしこまりました。仰せの通りに致します。」

 

 「次に、県尉殿。治安維持などで、今お困りのことはございますか?」

 

 「そうですね・・・。流民が盗賊や山賊に転じているということは、今のところないと考えています。城内の治安も比較的落ち着いているのと、城壁の不備などもありません。」

 

 「豪族や、そういった者たちはどうでしょうか?」

 

 「豪族に関しましては、軒並み協力的ではございますが、城外に大邸宅を構える、“文一族”が自警団と称して、私兵とも思える様な輩を囲っており、賭場も定期的に開いているようです・・・。」

 

 「それは、問題ですね。前任の県長殿は、どの様な対応をしていたのでしょうか?」

 

 「はい・・・。税はしっかり納めていることから、あの一族の事は気にしなくてよい、と命じられておりました。」

 

 「なるほど。それで、県尉殿のご意見は?」

 

 「私自身は、民もいささかその存在を恐れていることと、私兵を囲うのは法に反しますので、何かしらの対策を打つべきだと思っております。」

 

 「具体的には?」

 

 「まずは、自警団の解散を命じること、賭場の開催を禁止することかと思います。」

 

 「わかりました。それでは県尉殿、文一族の所に案内して頂けますか?」

 

 「県長殿・・・。一体、何をするつもりですか?」

 

 「まずは、話し合いから。それでも駄目なら、それなりの対応が必要になりましょう。」

 

 「それなりの対応、とは?」

 

 「言うまでもありません。力の対応です。」

 

 「しかし、力の対応を行うには、それなりの兵も動員しない事にはどうにもならないのではと思いますが・・・。」

 

 「それに関して、兵を動かすつもりはございません。私一人で、解決致しますから、ご心配なく。」

 

 県尉は、闞沢の意図をつかめずにいたが、案内することを催促されたので、供の兵士数人を引き連れ、文一族の邸宅へと向かった。

 

 文一族の邸宅には、ならず者や罪を犯した者が匿われていると噂をされており、博打好きの人間以外は、誰も近付こうとはしなかった。

 

 噂では、私兵と言える者の数も、一〇〇人を超えると言われている。

 

 文一族の邸宅の門に到着すると、県尉が大声で言う。

 「この度、着任された県長殿が是非、こちらの族長にお会いしたいとのことだ。門を開けよ!」

 

 すると、門の脇の戸口から、如何にもという連中が出てきて言う。

 「県長様がお越しの様ですが、申し訳ございません。族長は所用で、外出中です。日をお改め下さい。」

 

 闞沢が言う。

 「私が今度、県長に就任した闞徳潤だ。お留守とあらば、出直そうとしよう。明日は、ご在宅か?」

 

 「さあ、どうでしょう。細かいことはわかりかねますわ。」

 

 「ならば、わかる人を出してくれ。」

 

 「その様な者はおりませんなぁ。」

 

 「そうか、わかった。ひとまず今日は帰ることにしよう。明日は在宅している様、族長に伝えてくれ。」

 

 こうして、闞沢たちは一旦戻ることにした。

 

 県尉が言う。

 「県長殿。どうせ明日行っても、居留守を使われるだけですぞ。」

 

 「明日は、場所もわかりましたから、私が一人で行きます。」

 

 「お一人とは・・・。それはさすがに危ないのでは・・・。」

 

 「ご心配には及びません。明日中に、問題を解決して見せましょう。」


―翌日―

 早朝に、闞沢は一人で文一族の邸宅に向かった。


  門の前で、呼びかける。

 「族長殿!この時間ならおいでになるでしょう。県長の闞沢が、ご挨拶に参った!」

 

 しばらくすると、脇の戸口から、昨日の男が出てきた。

 「県長殿・・・。こんなに朝早くから来るとは、礼を弁えていらっしゃらないのでは?」

 

 「ほう、礼という言葉をご存知か・・・。それならば、県長自ら挨拶に来ているのに家人に対応をさせる、あなた方の族長の方が、よほど礼を弁えていないのでは?」

 

 男は黙り込んでしまった。ほどなくすると、威厳を感じさせる風体をした目つきの鋭い男が出てきた。その男が言う。

 「あなたが、今度の県長殿か。ご挨拶が遅れ申し訳ない。この辺りを仕切らせて頂いている文一族の族長です。朝早くにどういった御用でござろう?」

 

 「情報によれば、あなたはならず者や罪を犯した者を匿い私兵としている上に、禁じられている賭場を開いていると聞いている。即刻、解散を命じるとともに、罪を犯した者に関しては、こちらに引き渡してもらう。そして、賭場に関しては、中止を要請する。」

 

 「どの話も、噂ではないでしょうか?確たる証拠は、お持ちなのかな?」

 

 「中を改めさせて頂きたい。さすれば、私が見たものが証拠となろう。」

 

 「くくく・・・。それは、出来ませんな。前の県長殿は、非常に物分かりのいいお方で懇意にしていたのですが・・・。」

 

 「私は、残念ながら、そなたたちに篭絡されることは無い。さあ、中を見せてくれ。」

 

 「・・・。しつこいお方ですな、お帰り下さい。私は、もうひと眠りします故に・・・。」

 

 族長が背を向けると、闞沢は帯刀を抜いて、一閃、族長を斬り倒した。族長は、その一撃で絶命した。周りの者たちは、一瞬、何が起こったかわからないような様子で、誰も動くことなく、その場に固まっていた。闞沢が言う。

 「県長である闞徳潤が文一族の族長を処断した!彼が今まで犯してきた罪は死罪に値する。同じ目にあいたい者は前に出よ!」

 

 闞沢のこの言葉に、反応する者はいなかった。まだ、あの族長が処断された、という事実が認識できていなかった。

 

 もし、ならず者が全員で闞沢に立ち向かえば、闞沢はここで命を落としたであろう。しかし、闞沢から発せられる「威」に圧倒され、全員が力なくしゃがみこんだ。

 

 闞沢は、敷地内の全員、外に出るように命じ、その後、火を放った。

 もくもくとした煙が、文一族の邸宅の方から登っている。そのことに気付いた県尉は、兵士数名を連れて急行した。


 そこには闞沢と、うつぶせで倒れて動かない族長の亡骸があった。闞沢が言う。

 「県尉殿、よく来てくださった。この通り、族長は討ち取り、邸宅は法に適った建物でない故、私が火を放った。ここにいる者を全員捕縛してください。私が取り調べを致しましょう。」


 県尉は頷き、ならず者たちを次々に捕らえた。


 ならず者たちへの吟味は、闞沢が自ら行った。犯した罪の内容により、適切な処罰を加えたのである。


 こうして、闞沢一人の力で、長らくの懸念であった文一族は、一日にして壊滅した。


 この光景を目の当たりにした県尉も、県尉から話を聞いた県丞も、改めて闞沢に忠誠を誓い、誠心誠意仕事に取り組むようになり、銭唐県の治安は向上したのである。

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