第13回 闞沢、劉表に断りを入れる
闞沢は、荊州牧の劉表が本拠とする襄陽へと入った。
襄陽は、中華の交通の要衝と言ってよく、人と物の流れが桂陽郡とはまるで違う都会である。
闞沢は衣服を改め、劉表が政務を行う正堂へ行った。
それほど待つことなく、面会が許された。劉表は悠然と姿を現し、闞沢に言う。
「闞徳潤、遠路はるばる疲れたであろう。早速の登庁、ご苦労である。」
闞沢は拝礼する。劉表が続ける。
「その後、桂陽郡の様子はどうだ?」
「はい。まずは、徴兵令を解除し、徴兵した者たちは元の生活に戻しました。更には、劉表様のお名前をお借りして三年の減税を行うことを民に約しました。」
「そうか・・・。それなら、桂陽郡はもう落ち着いた、と考えてよいな?」
「はい。問題はございません。」
「ふむ・・・。しかし闞徳潤、お前の仕事は早くて正確だ。その能力、私の下で活かさないか?」
「劉表様の下で・・・。」
「ああ。まずは、このまま桂陽郡の太守に任じても良い。また、田舎暮らしに飽きたというなら、私の側近として働いてくれてもよい。」
「非常に、ありがたいお言葉でございます。しかし・・・。」
「しかし、何だ。遠慮なく申せ。」
「実は、本日、このご報告をもちまして、お暇を頂きたく思っておりました。」
「私では、仕えるに値しないか?」
「いえ。その様なことは決してございません。ただ、先に約束をしております。」
「誰とだ?」
「呉郡太守の呉景様です。」
「最近、孫策殿が亡くなって、今は苦しい状況なのではないか?」
「お察しの通りです。呉景様から、至急戻ってきて欲しい、という連絡を受けております。」
「ははは。何でも正直に申すのだな。」
「はい。隠し立てするものではないと思っています。」
「私は、闞徳潤、お前が欲しい。私が、そう易々と呉景殿の所に戻すと思うか?」
「劉表様であれば、私の気持ちをご理解いただけると信じております。」
「なるほど・・・。お前がいなくなって、桂陽郡はどうするのだ?」
「はい。現在、郴県の県丞、県尉にそれぞれ郡丞、都尉の代理をさせておりますが、その仕事は卒なく、誠実です。この二人をそのまま登用して頂ければ、桂陽郡はどなたが太守になられても問題ないと考えます。」
「その二人も、いずれ自分がいなくなってもいいように育てていたのか?」
「育てるなどおこがましいですが、人材の育成も上官のつとめであるとは思っておりました。」
「・・・わかった。闞徳潤、現時点をもって桂陽郡太守代理の職を解く。私とお前はもはや無関係。どこへなりとも行くがよい。」
「劉表様。心より感謝いたします。」
闞沢は拝礼して退出した。劉表は心の中で呟いた。
「敵にしたくはない漢よ。」
こうして、闞沢は全ての義理を果たして、孫策の死で混乱をしているのであろう呉景の下へ急ぎ向かうのであった。




