第12回 闞沢、孫策の死を知る
劉表の大軍は、襄陽へと帰って行った。
張羨、郡丞、都尉の三人の犠牲以外、桂陽郡全体として大きな被害はなかった。
闞沢は、劉表から桂陽郡の太守代行を任された。
今まで一緒に働いてきた県丞、県尉をそれぞれ郡丞代理、都尉代理に任命した。
まずは、徴兵令で採用した兵を全て、もとの生活に戻すことから始めた。もちろん、兵として拘束した期間の対価も渡したので、この施策は、住民たちから大いに歓迎された。
そして、荊州牧劉表の思し召しであると称して、向こう三年間の減税を約束した。当然、反対する者はなく、大喝采であった。
こうして、桂陽郡の民たちは、通常通りの生活に戻った。
闞沢もこれで問題なしと認識し、自ら襄陽の劉表の下へ報告に行くことにした。
その前夜である。闞沢の下に、秘密裏に急使がやってきた。呉景からである。急使は書状ではなく、口頭で伝えた。
「孫策様死す。至急、呉県に戻る様に。」
これが、呉景からの伝言であった。
呉景を敬愛する闞沢は、この連絡を聞いてすぐに呉県に戻りたいところではあるが、それでは、桂陽郡の民と劉表をないがしろにすることになる。闞沢は使いの者に言った。
「劉表殿への報告が終わり次第、襄陽より呉県に戻る、と呉景様に伝えてくれ。」
「しかし、呉景様は至急、と申されております。」
「それはわかっている。しかし、こちらはこちらで、どうしても通さなければならぬ筋がある。そのまま呉景様に伝えよ。こちらの事情は分かってくれるはずだ。」
「・・・わかりました。」
こういうと、使者は去って行った。
―翌朝―
闞沢は襄陽へ向かう準備をしていると、県丞と県尉が見送りにやってきた。たわいのない世間話をした後、闞沢は急に表情を改めた。その変化に気付いた県丞と県尉も引き締まった顔となった。闞沢が言う。
「実は昨日、私を郴県の県令に推薦してくれた呉景様より、至急、呉県に戻る様に、との使いがあった。私は、劉表様への報告をした後、そのまま呉郡に向かう。」
県丞が言う。
「こちらには戻らない、ということですか。」
「ああ、そういうことになる。」
続いて県尉が言う。
「民の中には、このまま県令殿に太守をつとめて欲しい、という声が溢れています。場合によっては、劉表様からも、その様なお話があるのではないでしょうか?」
「いずれにしても、呉景様の所に戻る。これは、以前からの約束なのだ。」
「約束が大切なのはわかります。しかし、今を大事にすることは、決して恥ずべきことではないと思います。」
「確かに、一理ある。しかし、私は約束を反故にすることは出来ない。悪いが、何を言われようと、私の決意に変わりはない。」
県丞が言う。
「わかりました。それでこそ、闞徳潤様だと思います。桂陽郡の事は、ひとまず我々にお任せください。また会える日を、楽しみにしております。」
「わかってくれたようで、ありがたい。劉表様には、そのまま郡丞、都尉に留まれるよう、話はしてみようと思う。」
二人は拝礼し、闞沢も拝礼を返した。
こうして、闞沢は襄陽へと向かったのである。




