第11回 闞沢、劉表と対面する
闞沢は、首をおさめた箱三個を兵たちに持たせ、劉表の軍営を目指した。軍営の入口にいる兵に、自分は郴県県令の闞徳潤であり、この度の反乱の首謀者三人の首を持参したことを告げた。
驚いた兵は、「しばらく待て」と言って、軍営の中に入っていた。その兵が戻ってきて言う。
「闞徳潤殿。劉表様が直接お会いになるそうだ。どうぞ、こちらへ。」
軍営を進んでいくと、多くの兵たちが闞沢に注目して、何やら話をしている。闞沢は気にすることもなく、そのまま案内の兵の後ろについていった。
しばらくすると、多くの兵士が守る本陣にふさわしい所にたどり着いた。案内してきた兵に促され、闞沢は一人中に入った。
中央にひと際立派な髭を蓄え、戦場でもあるにも関わらず、高価そうな儒服に身を包んだ大柄で、そして凛々しい顔つきの男が座っている。これが、劉表であろうと闞沢は思った。その男が言う。
「闞徳潤。郴県の県令と聞いた。私が、荊州牧の劉景升である。反乱の首謀者の首を持ってきたというが、まことか。」
「はい。首謀者は桂陽郡太守の張羨、それに郡丞、都尉の三名でございます。首は外に控える者に持たせております。」
「そうか。本物かどうか、見せてもらおう。」
劉表は自ら首実検をするらしい。そして言う。
「箱を開けよ。」
兵は言われるがままに箱を開けた。中央にあるのが張羨の首である。確認を済ました劉表が言う。
「郡丞と都尉はわからんが、確かに張羨の首だ。闞徳潤、お前が討ち取ったのか?」
「いいえ。三人は自らの命と引き換えに、桂陽郡の民と兵士、役人の命を大事にしていただくようと願い、自ら果てました。」
「ほう、自害する代わりに、全てなかったことにしてくれ、ということか。」
「・・・。はい、意味合い的にはそういうことになります。」
「ところで闞徳潤よ。この三人以外、今回の反乱に積極的だった者はおるのか?」
「・・・。いない、と申せば嘘になりましょう。例えば私は、太守の命令であれば、従うつもりでおりましたので。」
「太守が死ね、といえば死んだと申すか。」
「もちろんです。私は、連座しての死を望みましたが、劉表様に首を渡す役目を仰せつかったので、生き恥を晒しに参った次第でございます。」
「なるほど・・・。お前の話は、いいか悪いかは別にして、しっかりとした筋が通っているな・・・。郴県の県令でとどめておくのは惜しい。闞徳潤よ。私と一緒に襄陽に参れ。悪いようにはせぬ。」
「非常にありがたいお言葉ですが、太守をはじめ、郡丞、都尉を失った郴県をそのままにしておくわけには参りません。」
「ますます気に入った。今の話に飛び乗るようでは、人としての底が知れているからな・・・。わかった。闞徳潤よ、この桂陽郡の事後処理については、お前に一任する。」
「私に一任・・・。」
「そうだ。太守の代行として、この桂陽郡をまとめよ。郡丞と都尉の代わりは、こちらで手配をする。」
「・・・畏まりました。一日でも早く、桂陽郡を平穏な暮らしのできる場所にしてご覧にいれます。」
「いい心がけだ、桂陽郡はお前に任せる。私は今、荊州の北方で袁紹と曹操の争いが顕在化し、風雲急を告げている状態だ。急ぎ、襄陽に戻る。」
「承知いたしました。桂陽郡を整え次第、すぐにご報告をさせて頂きます。」
「頼んだぞ、徳潤。」
こうして、闞沢はひとまず、劉表のための仕事を始めるのであった。




