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第八話 本戦

 本戦一回戦。


 郊外の広場は、予選以上の熱気に包まれていた。

 簡易観覧席はほぼ満席。立ち見の客までいる。

 喜一と、ローブを纏った青年が向き合う。

 司会者が声を張り上げる。


「それでは、本戦第一試合を開始します!」


 続けて紹介。


「魔法学校首席合格! 若き天才! 電撃のセシウス!」


 観客席から歓声が上がる。

 ローブの奥で、セシウスが不敵に笑う。


「自称世界最強の少年、キーチ!」


 観客席で小さな笑いが起きた。

 喜一は、昨夜のヴァルカの言葉を思い出す。


『実力で黙らせてきた』


(自称……か、まあいい、実力で証明してやる)


 セシウスが口を開く。


「魔法の芸術を見せてあげるよ」


 審判が腕を振り下ろす。


「試合開始!」


 鐘が鳴る。


(魔法使いと戦うのは初めてだ、どんな戦い方をする?)


 喜一はセシウスを観察する。

 セシウスはこちら見て杖をかざし、ぶつぶつと何かを呟いている。


(……来ないのか?)


 距離はある。

 だが、セシウスがこちらに向かう様子はない。


(なんだ? 隙だらけだぞ、ひょっとして何かの罠か?)


 喜一は一瞬考えるが、答えは出ない。


(考えても仕方ない)


 地面を蹴り、一気に間合いを詰める。

 セシウスが目を見開く。


「なっ!」


 喜一の剣の腹が、セシウスの頭を打った。

 鈍い音。

 セシウスはうつ伏せに倒れ、動かなくなった。

 静まり返る会場。


「……勝者! キーチ!」


 遅れて歓声とどよめきが起きる。


(なんだったんだ、あいつは?)


 喜一は剣を肩に担ぎ、無言でその場を後にした。


―――


 選手控室。


「キーチ様、一回戦突破おめでとうございます!」


 ルドリックが満面の笑みで迎える。


「なんであんな奴が本戦にいるんだ? 隙だらけだったぞ」


 喜一がそう言うと、ルドリックは苦笑した。


「人族が魔法を行使するには詠唱が必要ですからな。予選では他の者どもが戦っている間に詠唱を終わらせ、電撃魔法で一網打尽にしたようです」

「戦闘で使い物になるのか?」

「魔法使いは後衛ですな、前衛と組むのが定石です」

「後衛? 前衛?」

「敵が離れている時は後衛が弓や魔法で攻撃する。近づかれたら前衛の戦士や剣士が前に立ち、後衛は後方から援護する。適材適所というやつです」

「そういうものもあるのか」

「キーチ様は剣士なので前衛ですな」


 なるほど、と喜一は頷いた。


―――


 本戦二回戦。


 喜一と、全身を鎧で覆った戦士が向き合う。

 顔は兜で見えない。

 司会者が声を張り上げる。


「放浪の自由騎士! 歴戦の防御! 鉄壁のアルベルト!」


 大きな歓声。


「自称世界最強の少年、キーチ!」


 今度は、笑いは小さい。

 アルベルトが低く言う。


「守りの真髄を見せてしんぜよう」


 審判が腕を振り下ろす。


「試合開始!」


 鐘が鳴る。


 今度は様子見はしない、鐘が鳴ると同時に喜一が踏み込み、連続で斬りかかる。

 だが、アルベルトは全てを盾で受け、剣で捌き、避けきれぬものは鎧で受ける。

 合間にアルベルトも反撃する。

 それを喜一は剣で受け、返り剣で斬りつける。


 会場に金属音が何度も響き渡る。

 アルベルトは喜一の袈裟斬りをシールドバッシュで跳ね上げ、重い一撃を繰り出す。

 それを喜一は体捌きで躱し、距離を取る。

 観客席が沸く。


(……堅いな)


 相手の攻撃に脅威は感じないが、決め手に欠ける。

 ならばと、喜一は戦い方を変える。


 踏み出す。

 アルベルトの剣をくぐり抜け、懐へ。

 喜一は剣の腹でアルベルトの足元をすくい上げる。

 体勢が崩れ、前のめりに倒れたアルベルトの背中を踏みつけ、剣を兜の横に突き立てた。


「まいった」

「勝者! キーチ!」


 大歓声が会場を揺らす。


―――


 選手控室。


「キーチ様、決勝進出おめでとうございます!」


 ルドリックが深く頭を下げる。


「さっきの奴は、なかなかやるやつだった」

「二つ名持ちの自由騎士ですからな。観客達もキーチ様の強さを理解されたことでしょう」


 喜一は防具を外す。


「この後はどうされます? 宿に戻って決勝進出祝いをいたしますか? それとも次の対戦相手の試合を観ますか?」


 喜一は昨夜のことを思い出す。

 白い被毛、揺れる尻尾。


「試合を見て行く」


―――


 観覧席。


「勝者! 疾風のヴァルカ!」


 歓声が爆発する。


「あっという間に終わってしまいましたな」

「ああ」


 試合開始と同時にヴァルカが駆けた。

 次の瞬間、相手は地に伏していた。

 離れた位置から見ていたから、動きが辛うじて追えた。

 対戦相手には、いきなり目の前に現れたように感じただろう。


(……速い)


 俺は、あの速さに対応できるのか?

 胸の奥が、静かに熱を帯びる。

 恐れではない、昂りだ。


「それでは、宿に戻って祝いをいたしますか」

「いや、いい……」


 宿に戻ったら素振りをする。

 ヴァルカとの戦いを思い描きながら、何度も剣を振るうと心に決めた。

 血が騒ぐ、強者と戦える。

 喜一は拳を握りしめた。

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