第七話 予選
武術大会は郊外の広場で開催される。
多目的に利用される広場で、簡易的な観覧席が用意されていた。周囲には屋台も並び、祭りのような賑わいを見せている。
武術大会予選。
参加者は十数名ごとの八ブロックに分けられ、残った一人が本戦に参加する資格を得られる。
喜一は広場の一角で、試合開始の合図を待ちわびていた。
手には刃を潰した片手剣、大会側が用意したものだ。
原則、殺さないようになっているが、刃を潰しているとはいえ金属製だ。
事故は起こる。
仮に何かあっても、大会側は責任を負わないと受付時に説明を受けた。
勝敗は、どちらかが降参するか、審判が戦闘不能と判断した時点で決まる。
喜一を見ている参加者の数名が、小声で話す。
「おい、子供がいるぞ」
「どこから紛れ込んだんだ?」
「いや、どうやら参加者らしいぜ」
「ケガする前に、つまみ出した方がいいんじゃないか?」
「それじゃ、試合開始したら、せーの、で一斉にいくか?」
参加者達は頷き合う。
審判が声を張り上げる。
「試合開始!」
鐘が鳴る。
「せーの……」
―――
その夜、レストランにて。
店内の席はほぼ埋まっており賑わいをみせているが、皆静かに料理を楽しんでいる。
喜一とルドリックは向かい合わせに座っている。
給仕係がテーブルの上に、一口サイズの料理を運ぶ。
「このフォークとナイフっていうので食べればいいのか?」
「はい、外側からお使い下さい」
喜一の国では、料理を食べるのに箸を使う。
漁師ロムの家では、スプーンと手掴みだった。
喜一は目の前の料理を、フォークで一口に運ぶ。
「……うまい」
ルドリックも一口で食べ、二人は次の料理を待つ。
「いやー、予選はキーチ様の圧勝でしたな」
ルドリックが喜一を労う。
「あんな奴ら、肩慣らしにもならない」
本当に、拍子抜けだった。
強者が集まると聞いて期待していたが、期待外れだ。
「明日の本戦はトーナメント方式で二回戦って、明後日決勝ですな。」
「ああ」
ルドリックは奥の席をチラリと見る。
奥の席には、獣人族の女が食事をしていた。
白い被毛、大きな耳と、長い尻尾。
白いシャツに黒いズボン。
獣人族用の衣服には、尻尾が出るように、穴が空いている。
獣人族の女は、鋭い金色の瞳で静かに皿を見つめ、料理を口に運んでいた。
ルドリックは口元に手を当て、小声で話す。
「彼女が以前お話しした、大闘技都市グラディオンの闘技場覇者。試合では負けなし、最強の闘士と言われているお方です」
「女が?」
喜一が奥の席を見る。
服の上からでも分かる、鍛え抜かれたしなやかな体つき。
静かだが、確かな強さを感じる。
「女が戦うのか?」
「キーチ様、今そのようなことは……」
ルドリックが慌てる。
「どうせ聞こえないだろ」
その瞬間。
「言うじゃないか、坊や」
背後から声がした。
喜一が振り返ると、先程まで奥の席にいた獣人族の女が立っている。
気配を感じなかった。
喜一の眉が、わずかに動く。
「私はこれまで、戦いは男の場所だとか、女は出しゃばるなとか、散々言われてきた」
低く、よく通る声。
「その度に、実力で黙らせてきたよ」
彼女はきびすを返す。
会計を済ませ、店を出る。
去り際……白い尻尾が、ゆらりと一度だけ揺れた。
まるで、獲物を前にした獣のように。
ルドリックは小さく息を吐く。
「あれが最強の闘士。巷では疾風のヴァルカと呼ばれています。順当に勝ち進めば、キーチ様と当たるのは決勝ですな」
(最強の闘士……疾風のヴァルカ……)
消えかけていた喜一の闘志に火が灯り、胸の奥が静かに熱を帯びる。
「楽しみだ」
喜一は、ニヤリと口角を上げた。




