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第六話 交易都市レイグラム

 交易都市レイグラム。


 街道が幾重にも交わる中央大陸東部の内陸における最大の交易拠点であり、石造りの高い外壁と四方に伸びる大門が、この街の繁栄を物語っている。

 遠くには見張り塔が並び、門の上では衛兵が行き交う人々を見下ろしていた。


 喜一はその規模と人の多さに圧倒されていた。

 市場では大勢の人々が行き交い、賑わっている。

 香辛料の匂い、焼きたてのパンの香り、鉄を打つ甲高い音。

 荷車が石畳を軋ませ、異国の衣をまとった商人たちが声を張り上げる。

 色とりどりの天幕が並び、街道の塵とは無縁の、活気に満ちた空気が漂っていた。


「キーチ様、報奨金の受け取りはこちらになります」


 ルドリックは喜一を案内していた。

 店の前では看板が立てられ、賞金首の人相書きが貼られている。

 店内に入ると、壁にはさらに多くの人相書きが貼られていた。


 ルドリックは書類を書き、ガルドの首を渡し、報奨金を受け取る。

 取り分は馬車で移動中、折半にするという話になった。

 そのかわり、ルドリックは商談で一ヶ月はレイグラムに滞在するので、喜一がレイグラムに滞在中は、ルドリックが宿の手配や旅の仕度を整えてくれるとのことだ。

 旅の仕度は、その折半した報奨金から支払うので、金はそれまでルドリックが預かるという話になった。


 宿泊場所まで移動する。

 大通り沿いに建つ三階建ての石造りの宿は、冒険者や商人が多く利用するらしく、入口には立派な紋章入りの看板が掲げられていた。


「こちらが宿泊場所になります、我々も同じところに泊まりますが、キーチ様には一番良い部屋をご用意いたしました」


 何から何まで気の利く男だ。

 宿のロビーでテーブルを挟んで椅子に座り、今後の話をする。


「武術大会は三週間後なので、キーチ様の勇姿が見れますな、それまでに武術大会の受付と旅の仕度を済ませておきましょう」

「世話になる」

「何をおっしゃいます、私とキーチ様の仲ではございませんか」


 今後の予定を話し合った後、ルドリックが喜一に聞いた。


「それでは、この予定で進めてまいりましょう、他に何か気になることはございませんか?」


 喜一は少し考えた後、答える。


「文字を覚えたい」

「なるほど、北大陸陥落後、中央大陸は言語と文字を統一しましたが、蒼嶺国そうりょうこくは鎖国をしていたのでしたな、そういうことでしたら」


 ルドリックはロビーの一角に置かれた荷物の中から一冊の本を持ってきた。


「聖書です」

「聖書? なんだ、それは?」

「昔の賢者が記したものです、こちらは一部抜粋された写本ですが、原本は教会に厳重に管理されているらしいですな。」

「何が書かれているんだ?」

「この世の成り立ちから、未来の出来事まで記されていて、創世記とか予言の書とか言われてましたな。今では聖書で統一されています」

「未来? そんなことが可能なのか?」

「現に魔人が現れましたからな、聖典統一教会が発足するきっかけにもなりました」


 喜一は聖書を開く。

 読めない。


「聖書については、差し上げます。」

「いいのか? 本は貴重なんじゃないのか?」

「聖書はまだ何冊かあるので問題ありません。文字の読み書きについては、時間のある時に私がお教えしましょう」

「助かる」

「何をおっしゃいます、私とキーチ様の仲ではございませんか」


 喜一とルドリックは小さく笑い合った。


───


 翌日、武術大会受付にて。


 喜一は受付の女性に名前、年齢、出身地を伝える。受付はそれを記入する。

 ルドリックが参加料を受付に渡す。

 最後に、受付が質問する。


「自己紹介は何かありますか?」


 喜一は一瞬考えてから答える。


「世界最強」


 そう言うと、受付は目を丸くしていた。


───


 さらに翌日、武具店にて。


「こちらは、レイグラムで一番の品揃えを誇る武具店です。きっとキーチ様の気に入るものが見つかりますよ」


 喜一は店内を物色し、色々と試着してみる。


「決まりましたら、キーチ様の体に合うように仕立て直しさせていただきます。急いで仕立て直しさせますので、武術大会には間に合いますよ」


 喜一は革の胸当てと、籠手、脛当てを選んだ。


「それでよろしいのですか? こちらのフルプレートアーマーなんて最新式ですよ?」

「いらん、重いし動きが制限される。それに五感が鈍る」


 ルドリックは、喜一の戦いぶりを思い返す。


「たしかにそうですな、それではこちらにしましょう」


 ルドリックは店主を呼び、仕立て直しの交渉を始めた。


───


 武術大会前日の夜。


 宿の部屋の中、喜一は素振りをしている。

 窓の外からは、夜でも消えぬレイグラムの喧騒が微かに聞こえる。遠くで酒場の笑い声が響き、どこかで鍛冶場の火がまだ赤く灯っている。


 武術大会、いったいどんな奴らが出てくるのだろう。

 そして、自分はどこまで通用するのだろうか。

 まだ見ぬ強敵を思い浮かべ、喜一はほんの僅かに口角を上げた。

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