第五話 商人というもの
盗賊襲撃後の夜。
野営地では焚き火が揺れていた。
「いや〜、このルドリック、キーチ様の強さには感服致しました!」
ルドリックは満面の笑みで喜一をもてなしている。
「ささ、こちらにお座り下さい」
「こちら焼けましたぞ」
(最初に会った時と、何か印象が違うな)
ひとしきりもてなした後、ルドリックは恐る恐る口を開いた。
「その〜、キーチ様の実力を知らなかったとは言え、失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」
馬車で目を覚ました時のことを思い出す。
世界最強を証明すると言った時、ルドリックは笑っていた。
「別に、気にしていない」
喜一がそう言うと、ルドリックはホッと胸を撫で下ろした。
喜一が尋ねる。
「あの巨人、鉄塊のガルドと言ったか。有名な奴なのか?」
「おお、あやつですな」
ルドリックは語る。
悪名高い盗賊で、道行く馬車を狙っては物資を奪い、殺戮を繰り返していたこと。
ルドリックは出没する道を避けていたが、今回は運悪く遭遇してしまったこと。
「ですが、キーチ様と出会えたことは幸運でした。もし、キーチ様がいなければ、積荷は奪われていたことでしょう」
「命より、積荷の心配か?」
ルドリックは笑う。
「商人とは、そういうものですよ」
二人は小さく笑い合う。
「巨人は初めて見た、中央大陸では珍しくないのか?」
「おお、そういえば、キーチ様は鎖国している蒼嶺国から来られたのでしたな」
ルドリックは巨人族について語る。
元は北大陸で暮らしていたこと。
魔王軍の出現で故郷を追われ、生き残りが中央大陸へ逃れていること。
「故郷を奪われ、帰る場所もない。そう考えると、悪党ではありますが、ガルドもかわいそうな奴だったのかもしれませんなぁ」
「故郷…」
喜一が小さく呟く。
「ん? どうなされました?」
「なんでもない……それより、この馬車はどこへ向かっている?」
ルドリックは胸を張る。
「我々が向かっているのは交易都市レイグラムです。キーチ様が行こうとしている中央大陸北部の戦場にも繋がる要衝ですよ」
「ほう」
「戦場へ向かうのでしたら、そこで旅の仕度を整えると良いでしょう」
「金がない」
「何をおっしゃいます、ガルドは賞金首ですよ。レイグラムに着いたら報奨金を受け取りに行きましょう」
「そういえば、ガルドの首を切り落としていたな」
「ええ、報奨金の証明に必要ですから。全部差し上げますと言いたいところですが、こちらも手間がかかりますので、取り分は移動中に話し合って決めましょう」
「ちゃっかりしているな」
「商人とは、そういうものですよ。それに、誠意だけで繋がる関係ほど、脆いものはありませんからな〜」
「そういうものか」
再び笑い合う。
「そういえば、レイグラムでは武術大会が開かれると聞きましたな。キーチ様も腕試しされてみてはいかがですかな? 賞金も出るらしいですぞ」
「武術大会……強い奴が出るのか?」
「ええ、交易都市ですから腕自慢が大勢集まるでしょう。たしか大闘技都市グラディオンでは負けなしの最強の闘士が参加するという噂も聞きましたな」
「最強の闘士……」
その言葉に、喜一の胸が熱くなる。
思わず、口角がわずかに上がった。
「そうだ、今日はキーチ様に出会えたことと、ガルドを倒した記念に、祝杯をあげましょう」
「祝杯? 酒か?」
「ええ、少々お待ち下さい」
ルドリックは馬車へ向かい、一本の瓶を持って戻ってきた。
「ワインです、皆も飲みなさい」
傭兵達が歓声を上げる。
「やった!」
「ルドリックの旦那、太っ腹!」
ルドリックは杯にワインを注ぎ、喜一へ差し出す。
「ささ、キーチ様、グイッといって下さい」
「ああ」
酒か、初めて飲む。
祖父が酒を飲みながら武勇伝を語っていた姿を思い出す。
祖父の姿を重ねながら、喜一はワインを一気に飲み干した。
「おおっ、いい飲みっぷりですな!」
ルドリックは傭兵達や御者にもワインを振る舞う。
(体が熱い、視界が揺れる、足元がふらつく)
そして……どさりっ!と音を立て、喜一はその場に倒れた。
「キーチ様!?」
ルドリックの叫びが夜に響く。
喜一は、下戸だった。




