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第四話 鉄塊のガルド

 盗賊と傭兵は互いに武器を構え、睨み合っていた。

 空気が張り詰める。

 盗賊の後方に控えていた巨人が、低く腹に響く声を張り上げる。


「この道を通りたければ、積荷と命を置いていきな!」


 盗賊達が下卑た笑い声を上げる。

 その前に、ひとりの少年が歩み出た。

 喜一……。

 傭兵達が慌てて声を上げる。


「おい、危ないから馬車に戻ってろ!」

「さっきまで寝てたガキだろ!」


 盗賊のひとりが鼻で笑いながら前に出る。


「なんだ、このガキ」


 喜一は刀を握る。

 まだ完全には力が戻っていない。


(だが、やりようはある)


「俺の名は喜一」

 一拍。

「世界最強になる男だ」


 沈黙。

 そして、爆笑。


「おいおい、世界最強だってよ」

「頭がおかしいのか?」

「その最強様が、なんでこんな所にいるんだよ」


(よし、こいつらが死ぬことは決まった)


 一歩踏み込む。

 油断していた盗賊の首筋に、刃を滑らせた。

 肉を裂く感触。

 血が噴き出し、頬に温かい飛沫がかかる。

 その瞬間……喜一の口角が、わずかに上がった。


(ようやくだ……ようやく、戦える)


 盗賊が崩れ落ちる。

 空気が凍った。


「このガキ!」

「やっちまえ!」


 怒号とともに盗賊達が一斉に襲いかかる。

 喜一は息を整える。


(……静かだ)


 盗賊達の動きが、ゆっくりと見える。

 振り上げられた剣。

 振り下ろそうとした瞬間、手首を切り裂く。

 突進してくる槍。

 半身で躱し、鎧の隙間の脇腹へ刀を突き刺す。

 唸りを上げる斧。

 刃先を紙一重で躱し、首筋を断つ。

 悲鳴、血飛沫、倒れる影。

 瞬く間に四人。


 そして、静寂が訪れる。

 盗賊も傭兵も、言葉を失っていた。

 その中で、ひとつの影が前に出る。

 巨人……三メートルはあろう体躯、手に握られた大剣は鉄の塊そのもの。

 盗賊のひとりが震える声で言う。


「ボス……」


 巨人が喜一を見下ろす。


「小僧、なかなかやるな」


 低く笑う。


「俺は巨人族のガルド、鉄塊のガルドだ」


 その名に、傭兵達がざわめいた。


「鉄塊のガルドだって?」

「二つ名持ち、あの悪名高いガルドか!」


 ガルドは大剣を肩に担ぐ。


「小僧、お前は強いな。どうだ、ウチに来ないか?」


 盗賊達が騒ぐ。


「ボス、こいつは仲間を四人も!」

「やっちまいましょう!」


 ガルドが盗賊達を睨みつける。


「うるせえ!」


 一喝。

 空気が震え、盗賊達が静まり返る。


「俺は強い奴が好きだ。どうだ、小僧?  こんな世の中だ、一緒に好き放題しようぜ」


 喜一は答える。


「俺は最強になる男だ、盗賊に落ちぶれるつもりはない」


 沈黙。

 ガルドは小さく頷く。


「そうか……」

 一拍。

「なら死ね」


 大剣が振り下ろされる。

 喜一は横へ跳ぶ。

 轟音とともに、地面が爆ぜ、土が舞う。

 続くガルドの横薙ぎを、喜一はしゃがみ込み躱す、頭上を鉄の塊が掠める。

 髪先が大剣に触れた。

 喜一は思う。


(……遠いな)


 巨人の首は、あまりにも高い。

 横薙ぎが振り切られる瞬間、前へと踏み込む。

 すれ違いざまに、足の腱を断つ。


「ぐっ……!」


 ガルドが片膝をつき、地面が揺れる。


(……この高さなら)


 巨人が雄叫びを上げる。


「うおおおお!」


 ガルドの袈裟斬り。

 喜一は懐へ潜り込み、喉元目掛けて一直線に剣先を突き立てる。


「あ、が……」


 大剣が地に落ち、ドスン!と音を響かせた。

 ガルドが喜一に掴みかかろうとする。

 喜一は刀を引き抜き、後退する。

 巨体が倒れ、もがき、喉から血が溢れる。

 そして……動かなくなった。


 沈黙。

 誰も、何が起きたのか理解できない。

 ただひとりを除いて。

 喜一は口角を上げながら、鋭い眼光で盗賊達を見据える。


「次は、どいつだ?」


 盗賊達の顔が蒼白になる。


「そんな、ボスがやられた」

「どうする?」

「馬鹿、逃げるしかないだろ!」


 盗賊達は一斉に逃げ出した。

 喜一の後方で歓声が上がる。


「すげええっ!」

「鉄塊のガルドを倒しちまった!」

「助かった、のか?」


 喜一は刀を拭き、静かに鞘へ納める。

 自分の手を見る。

 まだ肉を裂いた感触が残っている。

 父の声が脳裏に蘇る。


『村で一番強くても所詮は井の中の蛙だ、現実を見ろ』


 喜一は拳を握る。

 まだ握力は戻っていない。

 それでも……。


「ここからだ」


 小さく、呟いた。

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