第五十九話 決戦
トリリネア城の本城前では、ラグナヴェイルの側近である魔軍団長が指揮を執り、解放連合と戦っていた。
二千余りいた兵は、すでにその半数以上を失い、本城まで後退している。
「奴らを城門に近づけるな! 魔法は確実に当てろ! 魔力切れになれば、しばらく戦えん。魔力の残量に注意を払え!」
(くっ、本城まで追い込まれるとは! 魔将軍様はいったい何を……? 出撃されると申してから、だいぶ時間が経っているぞ)
魔軍団長が戦況を報告したとき、ラグナヴェイルは「私も出る」と言った。
それなのに、一向に城から出てくる気配はない。
嫌な胸騒ぎがする。
(ひょっとして、何かあったのか?)
「おい、そこのお前!」
近くにいた兵に声をかける。
「魔将軍様のもとへ行き、ここまでお連れしろ! 私は指揮で手が離せん!」
兵たちは顔を見合わせると、数名が城内へと駆けていった。
───
第五遊撃隊のメンバーは、本城の城門前で激闘を繰り広げている本隊を眺めながら、城門突破の時を後方で待っていた。
前線の後ろには破城槌が控えている。
最初の城門を突破してからここに至るまでには段差を登らなければならず、破城槌は車輪と屋根を取り外して運搬されていた。
ドレイクが城門を見据える。
「いよいよ佳境だな」
ヴァルカが腰の双剣に手を添える。
「ここまでラグナヴェイルは出てこなかったね。いったい何を企んでいるんだい?」
ホークが腕を組み、首を傾げる。
「うーん、不利を悟って逃げた……なんてことはないよな」
ミアが口を開く。
「それなら、城を放棄して撤退しているはずじゃない?」
アルベルトが頷く。
「そうですな、あるいは城内に罠を仕掛けている可能性もあります」
やがて、城門上からの魔法攻撃が次第に弱まっていく。
そして、破城槌が城門を叩いた。
───
ポムリンは、喜一とラグナヴェイルの戦いを固唾を呑んで見守っていた。
(これでは魔法で援護できん、誤射してしまうかもしれん)
二人は互いの間合いの内、超至近距離で剣撃を繰り広げている。
(しかし、やはり予想どおり魔法剣は使ってこない。いや、使えないと言った方が正しいですかな?)
すでに消魔の効果は切れている。
それでも魔法剣は展開されない。
魔法の行使には多大な集中力を要する。
この距離、この速度の斬り合いでは、魔法を使う隙など生まれない。
誤算があるとすれば、ラグナヴェイルは魔法だけでなく、剣の腕も超一流だったということか。
(あとは、キーチ殿にすべてを託すしかない)
そのとき、通路の奥から、三体の魔人がこちらへ向かってくるのが見えた。
(見つかったか、それでは儂は露払いでもするかのぅ)
ポムリンは杖を構える。
魔人たちがポムリンに向け火球を放つ。
「アイスウォール!」
ポムリンの前に氷の壁が出現し、火球を受け止める。
「アイスプリズン!」
氷の壁が崩れ、その破片が地を這うように高速で進み、魔人たちへと襲いかかる。
足元から氷が這い上がり、瞬く間に魔人たちを氷像へと変えた。
ポムリンは長い髭を撫で、仁王立ちする。
「この儂に魔法で勝負を挑むなど、三百年ぐらい早いわい!」
───
本城の城門。
破城槌がついに城門をこじ開け、本隊が雪崩れ込む。
第五遊撃隊も続いて突入し、戦闘を開始する。
ヴァルカとアルベルトが前面に立ち、ドレイクが後方で指揮を執る。
さらにその後ろからホークとミアが援護する。
魔人たちは、ヴァルカの双剣の猛攻の前に、成す術なく討ち取られていく。
ドレイク、ホーク、ミアの三人は、その底知れぬ強さに、喜一の姿を重ねていた。
アルベルトもまた強い。
経験に裏打ちされた鉄壁の防御。
その守りの堅さは、後方の三人に、この戦場においてすら安心感を与える。
しかし、それはあくまで常識の範囲内の強さだ。
喜一とヴァルカは違う。
喜一は「俺は世界最強になる男だ」と常々口にしていた。
皆は喜一と共に戦う中で、「本当に、世界最強なのではないか」という思いが募っていた。
それは、ゴルグも同じだっただろう。
解放連合が本城の入口へ向けて激戦を繰り広げる中、突如、強烈な光が空を照らし、戦場を白く包み込んだ。
その光は、本城前で戦う解放連合と魔王軍の双方へと降り注いだ。




