第五十七話 作戦
喜一、ポムリン、リリーネの三人は、大きめのテーブルを囲み、椅子に座っていた。
そこへエミリがお茶を淹れ、三人に差し出す。
喜一はポムリンとリリーネを見渡す。
「それで、どうやってラグナヴェイルを倒すつもりなんだ? あの魔法剣をどうにかする方法があるのか?」
リリーネが喜一に尋ねる。
「キーチ様は、魔封牢というものをご存知ですか?」
「たしか、魔法使いを閉じ込めておく牢屋だろ? 魔法が使えないようになっているとか」
「そうです。魔法に対処できないのであれば、魔法そのものを使えなくしてしまえばいい。それが、私たちの出した結論です」
「どうやってラグナヴェイルを魔封牢までおびき寄せるんだよ。ここに入ってくださいって言って、大人しく入るわけないだろ」
魔封牢の床の内部には、魔法陣と呼ばれる、魔力を流し込むことで効果を発動させる回路が内蔵されている。
各国の城の地下牢には魔封牢があり、罪を犯した魔法使いを閉じ込めておくが、常に魔力を流し込む必要があるので、宮廷魔法使いたちが交代で魔力を供給している。
そんな話を、宮廷魔法使いを父にもつミアから聞いたことがあった。
ポムリンが喜一の疑問に答える。
「それなら問題ありません。儂が消魔の魔法で、奴の魔法剣を打ち消します」
「つまり、奴の魔法剣を打ち消している間に、俺に倒してほしい、ということか?」
「理解が速いですな。しかし、効果範囲が狭く、十メートルほどしかない。おまけに、壁や床を透過することもできん」
「奴の視認している場所に、ある程度接近しなければならないということか」
「実行するとなれば一度きり。失敗すれば、死というわけです」
喜一はリリーネに尋ねる。
「リリーネはそれでいいのか? 失敗すれば、俺もポムリンも死ぬ。ポムリンの千里眼がなければ、これ以上物資を調達して潜伏することもできなくなるが」
リリーネは目を閉じ、静かに頷いた。
「もとより覚悟の上です。それに、この機を逃せば、次はいつになるか分かりません」
「この機とは?」
「キーチ様の所属している解放連合ですが、城攻めの準備を進めているそうです」
「皆が……」
喜一は解放連合の仲間たちの顔を思い浮かべる。
「いくら私たちが城の内部構造に精通していても、今ラグナヴェイルを奇襲すれば、他の魔人に囲まれてしまうでしょう」
「たしかにそうだな。囲まれてやられるかもしれんし、もし逃げられて警戒されてしまえば、二度と機会は訪れないだろう」
「城攻めが行われ、他の魔人が防衛のために出払い、城内が混乱しているとき。それが、奴を奇襲する絶好の機なのです」
「城攻めが決行されるのはいつだ?」
ポムリンが答える。
「千里眼で解放連合の陣地を探っておりますが、まだ決まっていないようですな。部隊を再編成している最中ですので、今しばらく猶予はありますぞ」
「分かった、城の見取り図はあるのか? どこで奇襲を仕掛けるのか、奴がどう動いてもいいように、何箇所か決めておく必要がある」
場が静まる。
リリーネとポムリンが、呆気に取られた表情をしている。
「ん? どうしたんだ、二人とも」
リリーネが気を取り直す。
「いえ、少し意外で。キーチ様は軍師をされていたのですか?」
「何を言ってるんだ? 戦うとなれば、少しでも勝率が上がるように手を尽くすものだろ」
「分かりました。隠し通路は王家の秘密のため、見取り図はありませんが、私が図面を引いて作成いたします」
「助かる、それから……」
喜一はポムリンに向き直る。
「ポムリンは俺と連携訓練だ、ビシバシいくぞ!」
「ええええっ! いや、儂は今までずっと城で相談役をしておりましてな、もう年ですし、訓練とかは……」
喜一はやれやれといった表情を浮かべる。
「それならなおさら訓練しないとだろ。ぶっつけ本番で実戦に出るつもりか?」
ポムリンは両手を前に出し、首を左右に振る。
「いやいや、儂は持病の腰痛もありますし、そこまで激しいのは……」
喜一がニヤリと笑う。
「安心しろ、ポムリンに合わせてやる。いつ攻城戦が始まるか分からないんだ、今日から訓練するぞ!」
ポムリンは項垂れた。
───
十日後、トリリネア城、謁見の間。
玉座に座るラグナヴェイルのもとへ、魔軍団長が報告に来ていた。
「城門はどうなっている?」
「敵の巨大兵器に苦戦しております。なんでも、魔法の届きにくいほどの遠距離から岩を射出しているとか」
「ふむ、やつら小細工に出たか」
「どうなされますか?」
「城内に引き入れて迎え撃つしかあるまい。数ではあちらが上だが、質と地の利はこちらが上だ。迎撃しつつ本城に引き下げろ、私も出る」
「承知いたしました」
魔軍団長が謁見の間を出ていく。
ラグナヴェイルはため息をつく。
「援軍は間に合わなかったか」
敵の再編成には、もう少し時間がかかると思っていた。
軍というのは、その規模が大きくなるほど動きが鈍くなる。
組織として統一された意思のもと動くためには、それなりの準備が必要なのだ。
それを、これほどの短期間で、あれだけの大部隊を再編成し、戦いを仕掛けてくるとは思わなかった。
(随分と優秀な人材が揃っているようだな)
ラグナヴェイルは玉座から立ち上がり、盾を左腕に装着し、剣を腰に下げる。
(しかし、敵がいかに小細工を弄そうとも、力でねじ伏せればいいだけだ)
謁見の間を出る。
廊下を歩いていると、天井から音がした。
上を見上げると、天井が自分に向かって迫ってくる。
「なっ!?」
咄嗟に盾で受ける。
天井の重みで腕が軋む。
天井を振り払い、後方へ下がると、ドン!という音を響かせ、天井が落下する。
天井が落ちてきた場所には、人族の少年がしゃがみ込んでいた。
(侵入者? どこから入った? 城の裏側は断崖絶壁になっていて、侵入は不可能なはず……)
ラグナヴェイルは侵入者を睨みつける。
「貴様、何者だ!」
少年はゆっくりと立ち上がると、刀を抜き放ち、名乗りを上げた。
「俺の名は喜一」
一拍。
「世界最強になる男だ!」




