第五十三話 トリリネア城の戦い
トリリネア城城門から約三百メートルの位置に、解放連合およそ四万の兵が整列していた。
その中でもひときわ目を引くのは、巨大な攻城兵器、破城槌と投石機である。
破城槌は城門を破壊するための兵器であり、車輪と、上部には城壁からの魔法を防ぐための屋根が取り付けられている。
投石機は巨大な石を射出し、城壁上の敵を攻撃するためのもので、魔王軍に対抗すべく各国が共同開発した最新鋭の兵器だ。
城門は固く閉ざされ、城壁の上では魔王軍がこちらの様子を窺っている。
解放連合はすでに主要街道を封鎖し、各所に監視を配置していたが、魔王軍の援軍がこちらに向かっているという報告は、未だ上がっていない。
こちらの援軍も到着していないが、解放連合は敵の援軍が到着する前に、城を落として決着をつけるという判断を下した。
総指揮官が声を張り上げる。
「投石開始!」
号令と同時に、巨大な投石機が唸りを上げる。
放たれた巨石が弧を描き、城壁上へと降り注いだ。
魔人達が散開しながら魔法で応戦するが、距離があるため威力は減衰し、歩兵隊の盾によって多くが防がれる。
斥候が着弾地点を確認し、即座に本隊へと伝達する。
投石機には車輪が取り付けられており、最適な位置に投石機を移動し、着弾点を微調整する。
しばらく続いた投石と魔法の応酬。
やがて魔王軍は不利を悟り、城壁上から後退を始めた。
それを見逃さず、総指揮官が叫ぶ。
「今だ! 前進!」
約四万の大軍が一斉に動き出す。
破城槌を押す歩兵隊が先頭に立ち、城門へと突き進む。
魔王軍は慌てて魔法を放つ。
屋根によって多くは防がれるが、魔法が直撃し、車輪が破壊され、動きを止める破城槌も出る。
それでも止まらない。
一基の破城槌が城門へと到達し、重い音を響かせながら何度も叩きつけられる。
そして、城門が破られた。
「突入!」
解放連合が城内になだれ込む。
だがその先で待ち受けていたのは、魔王軍の迎撃だった。
やや高所に陣取った魔人達が、侵入してきた兵へと容赦なく魔法を浴びせる。
次々と倒れていく味方。
それでも後続は止まらない。
倒れた者の屍を乗り越え、さらに奥へと進んでいく。
魔王軍は魔法を放ちながら、徐々に後退していった。
城門周辺は制圧された。
ドレイク率いる第五遊撃隊も、その中へと足を踏み入れる。
ミアが顔をしかめた。
「うっ」
ホークが周囲を見渡す。
「こりゃ、ひでぇな」
視界に広がるのは、無数の味方の亡骸だった。
ドレイクが鋭く指示を飛ばす。
「当初の目標は魔軍団長だ。この乱戦の中、孤立するな。互いの位置を常に確認しろ!」
「はい!」
全員が応じる。
ドレイクは剣を掲げ、城の奥を指し示した。
「目指すは本城だ! 第五遊撃隊、前進!」
隊は密集を保ったまま進み出す。
不意に火球が飛んで来る。
すかさずアルベルトが盾で防いだ。
火球の飛来方向、建物の陰には数名の魔人。
ドレイクが即座に命じる。
「フォーメーション近!」
ヴァルカとアルベルトが前へ躍り出る。
ホークが矢を放つ。
ミアが詠唱を開始する。
ホークの矢が魔人の頭を撃ち抜く。
ヴァルカの双剣が魔人を斬り裂く。
アルベルトの突きが魔人を貫く。
続いて放たれたミアの火球が直撃し、敵を焼き払った。
瞬く間に制圧。
ドレイクが確認する。
「全員、無事か?」
「はい!」
短い応答。
ドレイクはアルベルトへ視線を向ける。
「さすが鉄壁、あの不意打ちを難なく防ぐとは」
アルベルトは静かに頷いた。
「死角の多い場所では、常に警戒を怠りませんからな」
その言葉の直後、建物の中から魔人が飛び出し、一直線に、ミアとホークへ襲いかかる。
「きゃあ!」
「うわっ!」
カアアアン!と金属音が鳴り響く。
アルベルトが二人の間に割って入り、盾で敵の攻撃を防いでいた。
魔人の両手にはそれぞれ剣を持っており、兜には一本の角。
魔軍団長だ。
「フォーメーションゼロ!」
ドレイクの号令。
ヴァルカとドレイクが即座に展開する。
魔軍団長が双剣を振るう。
その斬撃は速く、重い。
アルベルトの盾越しにも衝撃が伝わり、腕が軋む。
それでも崩れない、すべてを盾と剣で受け止める。
しかし、攻撃が激しく反撃に転じる隙がない。
側面からヴァルカが双剣で斬りつける。
魔軍団長は双剣の一撃目を剣で受け、二撃目を後方に飛び退き躱す。
距離をとった所に、ホークの矢とミアの火球が飛んで来る。
魔軍団長は双剣で火球を打ち払うが、矢が足に突き刺さり、動きを止める。
ドレイク、ヴァルカ、アルベルトの三人が一斉に攻め込む。
魔軍団長は必死に応戦するが、三人の連携に押され、ついに体勢を崩した。
その瞬間、ヴァルカが双剣を交差させ、魔軍団長の首を跳ね飛ばした。
魔軍団長は首から血を噴き上げながら、その場に崩れ落ちる。
ミアが震える声で呟く。
「びっくりした……」
ホークが周囲を警戒しながら頷く。
「ここは敵の本拠地だ、いつ何処で魔人と遭遇するかわからんな」
ヴァルカが周囲を見渡す。
敵味方入り乱れて激しい戦闘を繰り広げているが、魔将軍の姿はどこにもない。
もし近くにいれば、魔法剣が空中を飛び交うので目立つはずだ。
まさか、他の者に討ち取られたということもあるまい。
「ラグナヴェイルはどこにいるんだい? これだけの人数差だから、てっきり前線に出張って暴れてくると思ってたんだけどね」
アルベルトが思案する。
「ふむ…魔力を温存しているのかもしれませんな。こちらの狙いを読んでいる可能性もある」
ドレイクが表情を引き締める。
「ならば好都合だ。今のうちに魔人共を削る!」
本城に剣の切っ先を向け、叫ぶ。
「行くぞ!」
第五遊撃隊は再び、本城へと駆け出した。




