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第五十話 再編成

 トリリネア城から少し離れた場所に、エルグラント解放連合は陣地を築いていた。

 その中にある一際大きなテントでは、各部隊の指揮官クラスが集まり、今後の対策について会議が行われていた。

 ドレイクも第五遊撃隊長として参加する。


 今回のトリア平原の戦いにおいて、解放連合は多くの死傷者を出した。

 約六万いた兵は、約四万にまで減少している。

 戦闘継続が困難な者については、後方支援隊がバルディア王国にある北東支部まで輸送していた。


 会議の議長を務めるのは、この度の部隊を率いる総指揮官、エルグラント解放連合北東支部司令官である。

 総指揮官は机に肘をつき、両手を組んで重い口を開いた。


「さて、諸君らに集まってもらったのは他でもない。今後の方針についてだ」


 歩兵隊長が手を上げる。


「我々は多大な被害を出しましたが、それは相手も同じです。ここで撤退すれば、長年の計画が無駄になります。部隊を再編成し、戦闘を継続すべきかと」


 人事班長が頷く。


「そうなると、大幅な人員の再配置が必要になりますな」


 人事班は、本部および各支部の司令部に編成され、人事に関する業務を担い、入隊希望者の面接や、人材配置、評価を行っている。


 騎兵隊副官が口を挟む。


「たしかに、此度の戦では指揮官クラスも大勢失っている。特に騎兵隊長が戦死した穴を、どう埋めるかが問題だ」


 そこでドレイクが発言した。


「我々遊撃隊も、総勢五十名のうち二十六名が死傷。内三名が隊長で、二名が死亡、一名が負傷により後送されました。私の隊に至っては前衛二名が死亡しています。人員の確保をどうするのか、場合によっては規模の縮小も必要です」


 話しながら、ドレイクは自分の部下だった喜一とゴルグの顔を思い浮かべる。


 総指揮官が低く唸る。


「ううむ……精鋭である遊撃隊員の補充は難しい。生半可な者を入れても他の隊員についていけず、足を引っ張る可能性がある」


 ドレイクが提案する。


「解放連合の隊員に限定せずとも、義勇兵の中に優秀な者がいれば、一時的にでも遊撃隊に参加させるという手もあります」


 総指揮官が頷いた。


「わかった。その可能性も検討しよう」


 ドレイクが軽く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 続いて、斥候班長が発言する。


「魔王軍の動きについてですが、魔人が数名ずつ、他の魔将軍に占領されている地域へ向かって移動しているのが確認されています。おそらく援軍の要請かと」


 斥候班は、本部および各支部の司令部に編成され、偵察や警戒を担い、本隊の戦闘を支援している。


 歩兵隊長が顔をしかめる。


「それならば、魔王軍の援軍が到着する前に決着をつけねばならんな」


 後方支援隊長が続ける。


「我々も援軍を要請していますが、万単位の大規模増援は難しいでしょう」


 騎兵隊副官が頷く。


「であれば、再編成は急務ですな」


 斥候班長がさらに報告を重ねる。


「敵の兵力ですが、半数以上は死傷したと見積もられます」


 歩兵隊長が身を乗り出す。


「半数か……このまま数で押し切れるのではないか?」


 騎兵隊副官が首を振る。


「しかし、魔将軍、千剣のラグナヴェイルを何とかせねばならん。騎兵隊も奴一人に半壊させられたようなものだ」


 第三遊撃隊隊長が口を開く。


「たしかに脅威ですが、今回の戦闘で千剣の正体も判明しました。対策を講じる余地はあるのでは?」


 魔法隊長が眉をひそめる。


「対策といってもどうする? 奴の魔法剣をどうにかしないことには近づけん」


 弓兵隊長が静かに補足する。


「矢も魔法も魔法剣で防がれてしまう、という報告が遊撃隊から上がっていますな」


 歩兵隊長が苛立ちを滲ませる。


「ならどうする? 奴の魔力が尽きるまで突撃を繰り返すのか?」


 騎兵隊副官が低く答える。


「奴は底が知れん。他に案がなければ、それが最終手段になるだろう」


 場に沈黙が落ちた。

 やがて総指揮官が口を開く。


「魔将軍への対抗策については、引き続き議論を重ねるとして、敵はおそらく援軍が到着するまで籠城する。次の戦いは攻城戦になるな」


 後方支援隊長が即座に応じる。


「攻城兵器の準備は進めております」


 歩兵隊長が続ける。


「あとは街道の封鎖ですな。補給路を断つと同時に、敵援軍の足止めにもなります」


 斥候班長が頷く。


「各所に監視を配置する必要があります。敵援軍が来た場合、速やかに本隊へ伝令が届く体制を整えねばなりません」


 会議は休憩を挟み、数時間に及んだ。

 やがて総指揮官が締めくくる。


「それでは再編成後、改めて会議を行う。各指揮官は兵の能力と特性を考慮し、他部隊へ配置換えが可能な者をまとめ、速やかに報告せよ!」


 会議終了後、総指揮官がドレイクに声を掛けた。


「ドレイク、君には話がある。少し残りなさい」

「? ……わかりました」


 その夜、ドレイクと第三遊撃隊長は、焚き火の前で酒を酌み交わしていた。


「どうしたんだ?  ドレイク。大事な話があるとは」

「人払いしてもらってすまないな、今後のことで相談がある」


 二人は入隊同期。最初は騎兵隊に配属され、同じ時期に遊撃隊の隊長となった間柄だ。

 第三遊撃隊長が思い出したように言う。


「そういえば、会議の後に総指揮官から呼ばれていたな。何の話だったんだ?」

「騎兵隊長をやらないか、と打診された」


 第三遊撃隊長は一瞬驚き、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「栄転じゃないか!  よかったな」

「ああ」


 騎兵隊は主に各国の騎士で構成される部隊だ。

 その隊長に選ばれるのは、騎士の中でも特に優秀と認められた者に限られる。

 騎兵隊長を務めた後は、各支部の司令官や本部の要職へと進む道も開ける。


「でも、お前がそんな自慢話するために来たとは思えんが?」

「話が早いな。単刀直入に言う、ヴァルカを第五遊撃隊に譲ってくれないか?」


 第三遊撃隊長は眉を寄せる。


「はあ?  ヴァルカはうちのエースだぞ、そんなことできる訳がないだろ。お前のところのエースが抜けて痛手なのはわかる、だからといって……」

「タダでとは言わん、私がお前を騎兵隊長に推薦する……というのはどうだ?」

「本気か?  次にいつ話が回ってくるか分からんのだぞ」

「私はまだ遊撃隊でやり残したことがある、このまま抜ける訳にはいかん」


 第三遊撃隊長がドレイクをじっと見つめる。


「……部下を殺された復讐、か?」


 ドレイクは小さく笑った。


「そんなんじゃないさ」


 第三遊撃隊長はため息をつく。


「わかった、うちもザガルが負傷して後送されたし、魔法使いも戦死している。どのみち遊撃隊は規模を縮小して再編成されるだろう」

「ありがとう」

「礼を言うのはこっちだ、出世させてくれるって言うんだからな。騎兵隊長の件、忘れるなよ」

「ああ……明日、総指揮官に話を通そう」


 二人は杯を軽く打ち合わせた。

 ドレイクは揺れる火を見つめながら、静かに思案する。


(あとは、あの御方にお声がけせねばな)

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