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第四十九話 未来視

 トリリネア城、謁見の間。

 ラグナヴェイルは玉座に座り、魔軍団長達から報告を受けていた。


「魔将軍様、この度の戦闘で戦える兵の数は二千二十六名になりました」


 一瞬だけ、ラグナヴェイルの眉がわずかに動いた。


「ふむ、約六割の兵が死傷したか」

「いかがなさいますか?」


 ラグナヴェイルは顎に手を当て、静かに思案する。


「異世界人の個々の強さは恐るるに足らんとはいえ、さすがにあの人数差は覆すことは難しいな」

「この際、打って出ますか?」

「いや、他の魔将軍達に借りを作るのは癪だが、魔王様からお預かりした兵の命を、これ以上無為に散らせる訳にはいかん。使いを出して援軍を要請する」

「承知いたしました。使者の人選はいかがなさいますか?」

「お前達に任せる。援軍が到着するまでは籠城だ。どのみち、奴等も今回の戦闘で多大な被害を出した。あの数の軍隊だ、再編までにはしばらく猶予があるだろう」

「承知いたしました」

「では行け」


 魔軍団長達は敬礼すると、謁見の間から退出していった。

 ラグナヴェイルはそれを確認すると、深くため息をつく。


「まさか、下等種族がここまでやるとはな……」


 魔人族は、他種族を下等種族と見下していた。


 人族は数と知力。

 巨人族は腕力。

 獣人族は瞬発力。

 妖精族は魔力。


 それぞれ特出した能力を持ち合わせているが、魔人族と比べると総合力で劣る。

 北大陸は一年で制圧し、このまま他の大陸も一気に制圧するはずだった。

 しかし、思いのほか抵抗は激しく、ここ七年間、侵略は遅々として進んでいない。


(そういえば、捕虜で捕らえ、言語を学ばせてもらった人族が、聖書がどうのと言っていたな)


 まさか、とラグナヴェイルの背に悪寒が走る。


(ひょっとしているのか? 異世界人どもの中にも、未来視をできる者が)


 未来視。

 未来を予見できる能力。

 魔人族でそれができるのは、ただ一人。

 魔王のみである。


(そう考えれば、我々が中央大陸に侵攻した際、あれほど迅速に防衛線を築かれたのにも納得がいく)


 なぜ魔人族が魔界からこの世界、エルグラントに侵略してきたのか。

 それは、魔界が世界の寿命を迎え、滅びる運命にあったからである。

 それを回避したのが、魔王の未来視だった。

 魔王は次元の裂け目が開き、魔界とこの世界が繋がる場所と時期を予見し、魔界が滅びる前にこの世界へと移住した。


 しかし、それにはある問題が伴っていた。

 魔王の未来視には、いずれ魔王が異世界人に討たれ、魔人族が滅ぼされるという未来が映っていたのだ。

 未来視は、知りたい未来が見られるわけではない。

 その内容も、場所や時期が分かるかどうかも、完全にランダムである。

 次元の裂け目が開く場所と時期は予見できた。

 だが、魔王が討たれ、魔人族が滅びるその時がいつなのか、それは分からなかった。


 一年後かもしれない。

 十年後かもしれない。

 あるいは現魔王が代替わりし、何百年も先になる可能性もある。


 未来視といっても、必ずその未来が訪れるわけではない。

 避けられない未来と、避けられる未来がある。

 次元の裂け目が開く。

 これは自然現象であり、誰かの意思によるものではないため、避けることはできない。


 では、異世界人に魔王が討たれ、魔人族が滅ぼされるという未来はどうか。

 魔人族は、自分達が滅ぼされる前に異世界人を滅ぼせばよいと考えた。

 そのために、次元の裂け目が開く以前から、来る日に備えて軍備を整えていた。


 当初は上手くいっていた。

 北大陸はすでに魔王軍の手中にある。

 しかし、ここに来て逆に攻め返され始めている。

 ラグナヴェイルは、避けがたい運命の流れのようなものを感じていた。


 ラグナヴェイルは首を軽く振る。


(あくまで憶測だ。それに、たとえ敵側にも未来視ができる者がいたとしても、我々がその予見を覆せばいいだけの話だ)


 目を閉じ、思考を巡らせる。


(いっそ、私が敵の陣地に殴り込みをかけるか?)


「ククッ……」


 小さく笑みが漏れる。


(そういうわけにもいかんか、指揮官としてこの場にいる以上、単独行動は部下に示しがつかん。同じ行動を取る者が現れでもしたら、指揮系統に影響が出る)


 ラグナヴェイルは天井を仰ぎ見る。


(また一人の、ただの剣士に戻りたいと思う時もあるが、ままならないものだな)

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