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第四十六話 千剣のラグナヴェイル

 魔王軍は目前の大部隊を率いる本隊との戦闘に集中しており、遊撃隊による側面からの攻撃には不意を突かれていた。

 遊撃隊員たちにより、魔人たちが次々に討ち取られていく。


 その中でも、喜一の所属する第五遊撃隊と、ヴァルカの所属する第三遊撃隊は、破竹の勢いで敵陣へと切り込んでいく。

 魔将軍、千剣のラグナヴェイルに向けて。


 魔人が剣を振りかぶり、喜一へ襲いかかる。


(邪魔だ、退け!)


 喜一は、相手が振り下ろす前に、鎧ごと魔人を斬り裂いた。

 蒼月そうげつを携えた喜一に、魔人たちは成す術もなく討ち取られていく。

 その横で、ゴルグが戦斧を振るい、魔人をなぎ倒していく。

 二人が討ち漏らした敵を、ドレイクが冷静に処理し、ホークとミアが後方から援護する。


 魔人たちを倒し続け、ついに魔将軍の目前まで迫る。

 他の黒い鎧と兜を身に着けた魔人たちとは異なり、ひときわ目を引く真紅の鎧と兜。

 兜には角が左右に二本。


(間違いない、奴が魔将軍だ!)


 左腕に盾を装着し、腰に剣を携えている。


(やはり剣士……戦闘スタイルはドレイクやアルベルトと同じ、防御重視か?)


 喜一の口角が上がる。


(防御など、俺と蒼月そうげつの前では無意味!)


 魔将軍へと迫ったその時、魔軍団長が前に立ちはだかった。

 魔軍団長は槍を旋回させながら、喜一に襲いかかる。

 喜一は上段から刀を振り下ろし、槍の柄を断ち切る。

 さらに一歩踏み込み、そのまま振り上げる一閃。

 魔軍団長を鎧ごと斬り裂いた。

 血を噴き出しながら、魔軍団長はその場に崩れ落ちる。

 魔将軍はその光景を、冷たい瞳で見つめていた。


「クルグ、ザルグルグラドムザラ!(お前達は、敵主力の相手をしろ!)」


 魔将軍が何かを叫ぶと、魔人たちは一斉に後退し、本隊との戦闘へと意識を向ける。

 次の瞬間、魔将軍の周囲に、無数の剣が出現した。

 それらは空中で静止している。

 喜一は思わず足を止めた。


(なんだ?  魔法で出したのか?  剣士ではなかったのか?)


 他の遊撃隊も合流し、魔将軍を中心に、魔法剣を挟んで包囲する形となる。

 魔将軍が口を開いた。


「なかなかやるな、異世界人ども」


 ドレイクが目を見開く。


「なにっ、人族の言葉だと?」


 魔将軍がニヤリと笑う。


「お前たちの仲間を捕らえて、言語を学ばせてもらった。お前たちの間では、千剣のラグナヴェイルと呼ばれているらしいな……初めまして」


 ラグナヴェイルは、丁寧に一礼した。

 そして、喜一へと視線を向ける。


「お前が先ほど斬り捨てた魔軍団長は、私の右腕だったのだがな。ひょっとして、砦を攻めた際の魔軍団長を倒したのもお前か?」


 強烈な殺気が、喜一へと叩きつけられる。

 喜一は冷や汗を流しながらも、口角を上げた。


「だとしたら、どうする?」


 一瞬の静寂。


「ふむ、それでは礼をしないとな……受け取れ」


 周囲に展開していた魔法剣の一本が、喜一へ向かって飛来する。

 喜一はそれを真っ二つに斬り裂いた。

 すると魔法剣は、さらさらと空気に溶けるように消えていく。


 魔法とは、空気中に存在する魔素を、魔力によって変質させることで生み出される現象だ。

 そのため、たとえ水を魔法で生成して飲んだとしても、喉を潤すのは一瞬だけで、魔力が抜ければ体内で再び魔素へと戻ってしまう。

 また、火や水のように形が定まらないものと異なり、岩弾のような魔法は、形が崩れた瞬間に魔力が漏れ出し、消失する。

 ちなみに戦闘で火球魔法が多用されるのは、射程や指向性に優れるだけでなく、魔法が消えた後も延焼による追加効果が見込めるためだ。


 喜一が呟く。


「壊滅させられた部隊に、斬痕以外何も残っていなかったのは、こういうことか」


 ラグナヴェイルが拍手を送る。


「初見で防ぐとは、やるな」


 そして笑う。


「だが、これならどうだ?」


 次の瞬間、四方八方から魔法剣が放たれた。

 ドレイクが叫ぶ。


「フォーメーションゼロ!」


 他の遊撃隊長たちも、それぞれ部下へ指示を飛ばす。

 しかし、ラグナヴェイルの周囲に展開された魔法剣に阻まれ、近づくことができない。

 さらに、その剣は縦横無尽に動き回り、襲いかかってくる。

 喜一が魔法剣を躱すと、剣は弧を描いて再び襲いかかってきた。


「ちっ!」


 舌打ちとともに斬り裂くと、剣は霧散した。


(この数の剣を、自在に操っているのか!)


 通常、放った魔法を操作し続けることはない。

 魔力消費が大きすぎるため、非効率だからだ。

 だがラグナヴェイルは違う。

 無数の剣を同時に生み出し、それを自由自在に操っている。

 それはすなわち、常識外れの魔力量を意味していた。


 ラグナヴェイルの魔法剣により、遊撃隊員たちが次々と倒れていく。

 後衛の矢や魔法も、魔法剣によって弾かれる。

 喜一はラグナヴェイルへ向け、一直線に駆け出した。


(間合いに入りさえすれば!)


 その隣を、ヴァルカが駆ける。


「剣の相手をしていても無駄だ!  キーチ、本体を叩くよ!」

「分かってる、行くぞ!」


 それを見たラグナヴェイルは、魔法剣を二人へ集中させる。

 喜一は刀で斬り払い、ヴァルカは双剣で受け流す。

 しかし、ラグナヴェイルに近づくにつれ、剣の密度は増していく。

 ヴァルカが受け流しきれず、双剣で受け止めた瞬間、そのまま後方へ吹き飛ばされた。


「ヴァルカ!」


 その一瞬の隙。

 ラグナヴェイルの魔法剣が、喜一の脇腹へと突き刺さる。


「うぐっ!」


 咄嗟に両断すると剣は霧散するが、傷口から血が噴き出す。

 喜一は傷口を押さえ、その場で足が止まる。


「キーチ!」


 ヴァルカの叫び。

 そして、ラグナヴェイルの無数の魔法剣が、喜一へと襲いかかった。

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