第四十五話 トリア平原の戦い
トリリネア城の前に広がる、トリア平原。
そこでは、魔王軍約五千名と、エルグラント解放連合および義勇兵を合わせた約六万名が、横一線に広がり、距離を保ったまま睨み合っていた。
喜一たち第五遊撃隊は、陣形の左翼に位置している。
なお、城の反対側は断崖絶壁となっており、そこから攻め込むことはほぼ不可能だ。
仮に崖を登ったとしても、監視塔からすぐに発見され、魔法による迎撃を受けるだろう。
空には暗雲が垂れ込めている。
ミアが空を見上げる。
「降り出しそうですね」
ゴルグは魔王軍を睨みつけながら言う。
「その前に決着をつければいいだけだ」
ドレイクがゴルグをたしなめる。
「戦意が高いのは結構だが、焦りは禁物だ。まずは接近し、弓と魔法による遠距離戦になる。そこから騎兵隊が敵中央へ突撃し、我々遊撃隊は側面から攻撃を行う。それまでは我慢だ」
ゴルグが不敵に笑う。
「分かってますよ、隊長」
ホークが味方の陣を見渡す。
「今回はこれだけの人数差だ。バスティオン砦の時とは違い、遠距離戦でも遅れを取ることはないだろうな」
喜一は敵陣へと視線を向ける。
「魔将軍はどこにいるんだ?」
距離がありすぎて、肉眼では確認できない。
「魔将軍は、陣形の中央後方に位置してるらしいよ」
振り向くと、ヴァルカが立っていた。
「お前の隊も、こっち側に配置されたんだな」
「一緒に戦うのは久しぶりだね」
「そうだな、リューネ村での魔物討伐以来か?」
「そうだねぇ、手合わせはよくしてるけど、共闘となると久しぶりだね」
「入隊してから、任務で一緒になることがなかったからな」
「あんたと一緒だと心強いよ」
「ああ、俺も頼りにしてるぞ」
「あ、あの……」
「ん? どうした、ミア」
「私も……魔法でキーチ君の援護、頑張るから!」
「お、おう、ミアの魔法も頼りにしてるぞ」
(ミアの様子がおかしい、どうしたんだ?)
ヴァルカが目を細める。
「ふ〜ん」
突如、ヴァルカが喜一の肩に腕を回す。
「まあ、あんたたちよりも、私とキーチの方が付き合いが長いんだし。コンビネーションでは敵わないんじゃないかなぁ?」
ミアが悔しそうな表情を浮かべる。
喜一は小さくため息をついた。
(こいつらは、一体何を張り合ってるんだ……)
「ヴァルカ、連携を取るのは各遊撃隊ごとだ」
ヴァルカは肩から手を離す。
「おやおや、相変わらず釣れない男だねぇ」
ザガルも会話に加わる。
「キーチの兄貴と一緒に戦えるの、俺も楽しみです」
「ザガル、その兄貴っていうのやめろって言ったろ。お前の方が年上だろ」
喜一はザガルが勝負したいと言うので、何度か手合わせした。
結果は喜一の全勝。
ザガルは喜一に、どうやってそこまで強くなったのかと聞いたところ、毎日素振りをしていると答えた。
そして、喜一が木を削って作った木刀を贈り、素振りさせて改善点を指摘すると、兄貴と呼んで慕ってきた。
それからザガルは、時間があれば木刀を振るっているとのことだ。
どうやら獣人族は、己が強者だと認めた者を好む傾向にあるようだ。
ドレイクが声を張る。
「お前たち、無駄話はそこまでだ……動くぞ」
本隊中央から両翼にかけて、前進の命令が伝達されていく。
総指揮官は、喜一に勲章を授与した北東支部の司令官だ。
横に広がった陣形が、魔王軍を包囲するようにじりじりと前進する。
最前列には盾を構えた歩兵隊。
その後方に弓兵隊と魔法隊が続き、騎兵隊は最後尾に控えている。
対する魔王軍は動かない。
盾を片手に構え、もう片方の手をこちらへ向けてかざす。
そして、呪文を唱え、一斉に魔法を放った。
それに応じるように、こちらも矢と魔法を一斉に放つ。
矢が、火が、水が、風が、電撃が、空間を埋め尽くし、双方の間を激しく行き交う。
撃ち合いはしばらく続いた。
最前列で盾を構える歩兵隊が魔法を受け止めるが、すべては防ぎきれない。
盾をすり抜けた攻撃が直撃し、後方の兵にも被害が及ぶ。
それでも、前進は止まらない。
遠距離攻撃を続けながら、徐々に距離を詰めていく。
魔王軍も次第に数を減らし、攻撃の勢いが鈍っていく。
その時、総指揮官の号令が響いた。
「騎兵隊、突撃!」
歩兵隊の間をすり抜け、騎兵隊が馬を駆り、槍を構えて一気に加速する。
横に広がっていた陣形が、中央を頂点とする三角形へと変化していく。
魔王軍の魔法が前面の騎兵隊員たちに直撃し、次々と倒れる。
それでも勢いは止まらない。倒れた仲間を越え、突進は続く。
そして、騎兵隊の槍が、魔人たちを貫いた。
戦いは、遠距離戦から近接戦闘へと移行する。
ドレイクが叫ぶ。
「今だ、突撃!」
両翼に控えていた各遊撃隊の隊長たちが、一斉に部下へ指示を飛ばす。
(この時を待っていた!)
喜一は刀を抜き放ち、魔王軍へ向かって駆け出した。




