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第四十話 アダマンタイト

 この世界には、伝説の金属と呼ばれる希少金属が三つ存在する。


 ミスリル。

 オリハルコン。

 そして、アダマンタイト。


 それらの金属で作られた武具は各国の国宝にもなっており、剣一本で屋敷が建つとまで言われている。

 その中の一つ、最強の硬度を誇るとされるアダマンタイトが、喜一の目の前にあった。


「これが、アダマンタイト。噂には聞いたことがあるが、見るのは初めてだ」

「昔、刀鍛冶の師匠から受け継いだ物だ。免許皆伝の証だと言われてな」

「そんな貴重な物を使っていいのか?」


 男は静かに笑った。


「師匠からは、自分が認めた剣士と出会い、そいつに見合う最高の刀を打てると確信した時に使えと言われている。今がその時だと判断した」


 喜一は迷いなく頷く。


「俺は最強だからな」


 男が吹き出した。


「ははっ、でかく出たな。だが嫌いじゃねぇ」


 男がアダマンタイトに視線を向ける。


「まあ、刀一本分になるだけの量はないから、混ぜて作る必要があるがな。普通は硬く作りすぎると、刀が折れやすくなるので、ある程度しなやかさを持たせるのだが、こいつを使えばさらに硬く、頑丈な刀が作れる」

「いいな、いくらだ?」

「伝説の金属だからな、ちょいと値は張るぜ」


 男は金額を伝える。


「まあ、すぐにとは言わん。坊主が戦で名を上げて払える時になったらでいい。それまでこいつは取っておいてやる」

「いま買う」

「はあ? 金額聞いてたのか?」

「聞いている、だから払うと言った。取り敢えず手付金として半分払う、残りは完成した時でいいか?」


 喜一はこれまでの戦いで得た金があった。

 武術大会での優勝賞金、ルドリックの賭け金の残り、リューネ村での魔物討伐報酬、そして、魔軍団長を討ち取った報奨金。

 全て合わせれば、ギリギリ届く額だ。


「それで、いつ出来るんだ?」

「二カ月、いや……」


 男が首を左右に振る。


「他の依頼は全部断る……一カ月で打ち上げる」

「それで頼む、それから……」

「なんだ?」

「俺は坊主じゃない、喜一という名がある」


 一瞬の沈黙。

 そして男は笑った。


「そいつは失礼したな」


 男は胸を張る。


「俺の名は鉄蔵だ。喜一の依頼、確かに承った」


 喜一は再び銀行で金をおろし、鉄蔵に代金の半額を支払い、工房を後にした。


───


 鉄蔵は作業場に行き、刀を打つ準備に取りかかる。


(もう、刀を打つことはないと思っていたんだがな……)


 鉄蔵の出身地は、喜一と同じ蒼嶺国《そうりょうこく》。

 彼は物心がつく前から、師匠の元で槌を振るっていた。

 戦災孤児だったと聞いた。

 鉄蔵という名は師匠が付けた。

 本当の名も、両親の顔も知らない。


(それにしても……)


 視線を落とした先には、折れた刀。


(再びこいつと巡り合う日が来るとは)


 この刀は、鉄蔵がまだ駆け出しの十五歳の時に打ったものだ。

 当時はまだ技術も未熟だったが、持てる全てを注ぎ込んだ。

 鉄蔵が一人前になる頃、蒼嶺国《そうりょうこく》は帝が天下統一を果たし、大きな戦はなくなった。


 それからも、鉄蔵は刀を打ち続けた。

 腕が認められて、鉄蔵の刀が帝に献上されるまでになる頃には、師匠はこの世を去った。

 周囲からは、国一番の刀鍛冶と持て囃されもした。

 だが、鉄蔵にはある思いがあった。

 この国ではもう戦はない、刀を打ち続ける意味はあるのかと。


 そんな時、魔界から魔人が現れ、この国は鎖国をするという噂を聞いた。

 鉄蔵は考えた。

 この国で刀を打っても、戦いで使われることはほぼない。

 それならば、戦のある大陸に渡った方が、自分の打った刀が武器としての使命を全うできるのではないか。


 鉄蔵は居ても立ってもいられず、商売道具を手に、大陸へ向かう船に飛び乗った。

 しかし、大陸に渡った先でも、鉄蔵の刀は貴族の献上品として扱われ、実戦で使われることはなかった。


 そして、もう刀は打たないと心に決めた。

 このまま自分は、二度と刀を打つことなく、この地で生涯を終える。

 そう思っていた。

 自分の打った刀を折るほどまでに戦いをくぐり抜け、それでもなお、前に進もうとする剣士に出会うまでは。


(人生ってのは、わからんものだな)


 鉄蔵は炉に火を入れる。

 鋼とアダマンタイトを炉に放り込む。

 赤く、白く、輝くまで熱する。

 取り出す。

 そして、槌を振るう。

 火花が弾ける。

 一打、また一打、己の魂を込める。

 迷いはない。

 ただひたすらに槌を振るい続けた。

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