第三十九話 鍛冶師
喜一は店員に尋ねる。
「刀は置いてないのか?」
店員は一礼する。
「少々お待ちください、店長に確認してまいります」
そう言って店の奥へ消えた。
しばらくして、店長と思しき男が姿を現す。
「刀をお求めなのはお客さんですか?」
「そうだ」
店長は申し訳なさそうに首を振った。
「申し訳ありませんが、現在は刀の取り扱いはしておりません」
「現在はってことは、前はあったのか?」
「ええ、城下町にいる鍛冶師が、当店に卸していたんですが……」
店長は少し苦笑した。
「ある日、お貴族様への献上品として扱われていると知ってしまいましてね。それを聞いた途端、ひどく怒り出しまして」
「なんでだ? 売れてたんだろ?」
「なんでも、武器は飾って眺める物じゃない、使う物だと。それ以来、刀は一切作らず、普通の剣や槍だけを打つようになりました」
「なかなか拘りのある奴みたいだな」
喜一は鍛冶師が作って卸していたということは、祖父の刀を直せるのではと考えた。
「その鍛冶師、紹介してもらえないか?」
「刀を作ってくれと頼んでも、無駄だと思いますよ?」
「駄目なら諦める、頼む!」
喜一は深く頭を下げる。
その様子を見て、店長はため息をつく。
「そこまで言うなら、場所を教えましょう」
喜一は店長から鍛冶師の場所を聞き出した。
店を出る前に、金属製の小さな花の髪飾りを購入する。
「ミア、今日は案内してくれてありがとう」
喜一は先程購入した髪飾りをミアに渡す。
「これは礼だ、受け取ってくれ」
「いいの?」
喜一が頷く。
ミアは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、刀見つかるといいね」
ヴァルカが喜一の肩をたたく。
「なんだ?」
「キーチ、私にはないのかい?」
「案内してくれた礼なんだから、ヴァルカにある訳ないだろ」
そう言うと、ヴァルカはあからさまに不機嫌になった。
(面倒な奴だ……)
喜一はため息をついた。
「今度、飯でも奢ってやるよ」
すると、ヴァルカの尻尾が勢いよく揺れた。
「本当かい? 約束だよ」
「わかった、わかった」
ミアが手を振る。
「それじゃ、私は帰るね。キーチ君、また一週間後」
「ああ、またな」
ミアが去っていく。
喜一はヴァルカに向き直る。
「ヴァルカはこの後どうするんだ?」
「私は、飯を食べて兵舎に戻るよ。ザガルに東大陸の郷土料理を食べれる店を紹介してもらってね」
「そうか、それじゃここからは別行動だな」
「約束忘れるんじゃないよ」
「わかったよ、また今度な」
ヴァルカと別れ、鍛冶師のもとへ急いだ。
「ここか」
店長から聞き出した場所に辿り着くと、小さな工房があった。
中に入る。
入口付近には誰もいない。
「頼もう!」
声を張ると、奥から五十台ぐらいの白髪の男が出てきた。
どこか懐かしい雰囲気を纏った男だ。
「なにか用か?」
訝しげな目で喜一を見る。
「ここで刀を作っていると聞いて来た」
その瞬間、男の顔が険しくなる。
「なんだ、あの旦那、こんな子供を使いに寄越したのか。坊主、悪いが何度来ても刀は打たんぞ」
「いや、刀が折れてしまって直して欲しいんだ」
「お前が使ってる刀か?」
「そうだ」
「見せてみろ」
喜一は布に包まれた刀を差し出した。
男が布を開いて刀を見る。
すると、目を大きく見開き、叫ぶ。
「こいつは!」
「なんだ? 有名な刀なのか?」
男は首を振る。
「いや、駆け出しが打った無銘刀だな」
喜一は肩を落とす。
「なんだよ、驚かすな。それで、直せるのか?」
男は刀を見つめながら言う。
「その前に聞きたいんだが、この刀はどうやって折れたんだ?」
「魔軍団長と戦ってる最中だ。まあ、そいつは俺が討ち取ったがな」
男の顔が凍りつく。
「なんだと! お前が魔軍団長を討ったと言うのか!?」
「そう言ってる」
「ちょっと待ってろ!」
男が奥の部屋に消えると、一本の剣を持って戻ってくる。
「こいつを振ってみろ」
喜一が剣を受け取る。
「振って見せれば刀を直してくれるのか?」
「振ってみろ、話はそれからだ」
「わかった、ここじゃ狭いから外に出ていいか?」
男は頷く。
二人で外に出る。
喜一は剣を両手で握り、呼吸を整える。
目の前に相手の姿を想像する。
脳裏に浮かべるのは、ヴァルカ。
想像で創り出したヴァルカは、双剣を構え喜一に言う。
『それじゃ、行くよ!』
(こい!)
直後、高速で剣を振るう。
想像したヴァルカの剣を受け、流し、躱し、反撃する。
風を裂く音が連続する。
ひとしきり素振りをした後、喜一は男に声をかけた。
「こんな所でいいか?」
男は口を開たまま固まっている。
「おい! 聞いてるのか?」
男は我に帰る。
「ああ、すまん。少々驚いてしまってな」
「それで、どうなんだ? 刀は直せるのか?」
「ああ、引き受けよう」
「本当か!?」
喜一は思わず拳を握る。
「だが、折れた刀を再び一本の刀にすることはできん。先端部分と柄側で二本の脇差しを作ることは可能だが、それでも良ければ引き受けよう」
喜一は大きく頷いた。
「良い! それでも良いから直してくれ!」
「わかった、修理を引き受けよう」
「ありがとう」
喜一は深々と頭を下げた。
「それと、新しい刀を欲しくないか?」
「刀はもう作ってないんじゃないのか?」
「そう思っていたが、気が変わった。ちょっと工房の中で待っててくれ」
喜一は剣を返し、工房の中に入る。
男は再び奥の部屋に消えると、今度はこぶし大の黒い塊を持って戻ってくる。
「なんだ、それは?」
黒い塊は良く見ると青い光沢を放っている。
男はニヤリと笑い答えた。
「これは、アダマンタイトだ」




