第三十八話 城下町
乗合馬車に揺られながら、街道を進む。
馬車の中には、喜一達の他にも数名の利用者がいた。
喜一がミアに話しかける。
「ミアの実家は城下町なんだな。ずっとバルディア王国で暮らしているのか?」
「うん、お父さんは王国の宮廷魔法使いだから」
それを聞いて、ヴァルカが目を見開く。
「なんだ、あんた良い所のお嬢様だったのかい」
ミアは慌てて首を振った。
「そんな、そこまでじゃないよ」
喜一が続けて聞く。
「生活には困らなそうだが、ミアは何で解放連合に入ったんだ?」
ミアは少し考えてから答えた。
「お父さんは、自分と同じ宮廷魔法使いにしたかったみたいだけど、私は魔人から自分の国を守りたいって思ったから入隊したんだ」
ヴァルカが感心したように頷く。
「へぇ〜、立派だねぇ」
「最初は最前線なんて危険だって反対されていたけど、今では応援してくれているよ」
喜一は自分の父の顔を思い出す。
「いい親父さんなんだな。大事にしろ」
ミアは笑顔で頷いた。
「うん」
少し沈黙が流れた後、喜一がヴァルカに向き直る。
「そう言えば、ヴァルカも俺達がバスティオン砦に行く前、魔人討伐に行ってたよな。そっちはどうだったんだ?」
「ああ、それかい」
ヴァルカは少し渋い顔をした。
「村が魔人達に襲撃されてるって話だったんだけどね、魔人じゃなかったよ」
ミアが驚く。
「えっ? デマだったんですか?」
ヴァルカは首を横に振った。
「いや、魔人に変装した盗賊だったよ。ご丁寧に肌を紫に染めて、帽子に角まで付けていてね」
喜一とミアが眉をひそめる。
「そんな奴等がいるのか」
「人族同士で争っている場合じゃないのに……」
「こんな時代だからってのもあるのかもねぇ。まあ、皆殺しにしてやったけどね」
そんな話をしているうちに、馬車は城下町に到着した。
城下町は、商業地区と居住地区の二つに分けられている。
喜一達は、店が立ち並ぶ商業地区で馬車を降りた。
多くの人々が行き交い、通りは活気に満ちている。
「まずは銀行だな」
三人は銀行へ向かった。
銀行はバルディア王国が運営しており、預金や引き出しができる。
エルグラント解放連合の給金や報奨金は、ここに振り込まれる仕組みになっていた。
発足当初は手渡しだったが、兵舎内での窃盗や傷害事件が相次ぎ、問題になった。
事態を重く見た解放連合、教会、各国の指導者達が話し合い、現在の銀行制度が作られたのだ。
集めた金は保管されるだけでなく、利息付きで貸し出しも行われているらしい。
石造りの堅牢な建物の中では、王国の兵士達が警備にあたっていた。
喜一達は書類を書き、受付に提出する。
文字の読み書きができない人用の受付もあるが、そちらは手続きに時間がかかるため、行列ができていた。
しばらくして金を受け取り、銀行を後にする。
「武器屋はこっちだよ」
ミアが先頭に立ち、喜一とヴァルカはその後をついていく。
しばらく歩くと、ヴァルカが肘で喜一を突いた。
「痛っ! なんだよ?」
ヴァルカが小声で言う。
「キーチは、ああいう娘が好みなのかい?」
「ああいう娘って、ミアのことか?」
ヴァルカが頷く。
「好みも何も、ミアは同僚だ」
(まあ、美人な方だとは思うが)
するとヴァルカは、急に上機嫌になった。
「そうだよね、あんた戦闘馬鹿だもんね」
喜一は呆れる。
「お前、それ他人に言えるのか?」
その時、ミアが立ち止まった。
「このお店だよ」
目の前には、かなり大きな武器屋があった。
店の前には、バルディア武具店と書かれた看板が掲げられている。
三人は店の中に入った。
広い店内には、武器だけでなく鎧や兜も並んでいる。
喜一達はそれぞれ店内を見て回った。
片手剣、両手剣、槍、斧、鎖付きの刺鉄球。
様々な武器があるが、刀は見当たらない。
ミアも一緒に探してくれていた。
一方ヴァルカは、色々な剣を手に取り振っている。
ミアが喜一の所へ戻ってきた。
「見つかった?」
「ないな……」
「だいぶ昔の話だから、もう売れちゃったのかも。お店の人に聞いてみる?」
「そうだな」
喜一はヴァルカに声をかけた。
「そっちはどうだ?」
「う〜ん、悪くはないけど、これなら連合で支給される剣の方がいいかな」
「まあ、最前線で戦うために、各国から腕の良い職人を集めてるって話だからな」
その会話を聞いていた店員が声をかけてきた。
「お客さん、剣をお探しで? それならこちらはいかがでしょう」
店員はドラゴンの装飾が施されている剣を持ってきた。
ドラゴンは長らく空想上の生き物だと思われていた。
しかし、魔界から現れた魔物の中に、ドラゴンと酷似した生物が確認されたことで、考えが変わった。
大昔、偶然魔界から来たドラゴンが目撃され、それが伝説として語り継がれてきたのではないか。
今ではそう考えられている。
真偽は分からないが、魔人がドラゴンに騎乗していた。
そんな噂まであった。
ヴァルカは剣を手に取り、軽く振る。
「おっ! これは良いね」
そして店員に聞いた。
「いくらだい?」
値段を聞いたヴァルカは、静かに剣を店員へ返した。




