第三十七話 工房
バスティオン砦の戦いから一週間後。
喜一は折れた刀を持ってエルグラント解放連合北東支部の工房に来ていた。
魔軍団長を倒した後、喜一は魔軍団長の両手剣を持って戦闘を継続した。
ゴルグも目を覚まし、戦線に復帰。
魔軍団長を失った魔王軍は混乱し、陣形が崩れる。
戦闘を放棄して逃げ出す魔人も現れ、戦場は一気に崩壊した。
そして、エルグラント解放連合が勝利を収めた。
戦いの後、喜一達は北東支部へ帰還。
喜一は魔軍団長を討ち取った功績により、勲章を授与された。
さらに遊撃隊は、魔王軍陣地の破壊、本隊戦闘中の奇襲、後方からの挟撃支援といった功績を評価され、報奨金と七日間の休暇を与えられた。
その休暇を利用して、喜一は折れた刀を直そうと考えた。
ドレイクに相談したところ、北東支部の工房を紹介されたのだ。
石造りの巨大な工房。
中へ入ると、長い通路が伸びている。
左右にはいくつもの部屋が並んでいた。
ドアの前には看板が掲げられている。
金属加工部、革加工部、縫製部、染色部。
様々な部署があるようだ。
各部屋からは、職人達が作業する音が聞こえてくる。
喜一は鍛治部と書かれたドアを開けた。
室内にはいくつもの炉があり、熱気が満ちている。
鉄を熱している者、金槌で叩いている者、水で冷やしている者。
多くの職人が忙しそうに働いていた。
喜一は近くにいた若い職人に声をかける。
「ここで武器を修理してもらえると聞いて来たんだが」
職人は笑顔で答えた。
「はい、武器はどちらになりますか?」
「これなんだが」
布に包まれた刀を差し出す。
職人は布を開き、折れた刀を確認した。
そして、渋い顔をする。
「随分と変わった形状の剣ですね」
「刀だ、直せるか?」
「親方に聞いてきますので、少しお待ちください」
職人は刀を持ち、部屋の奥にいる親方のところへ向かった。
親方が刀を手に取り、じっと眺める。
しばらく話した後、職人が戻ってきた。
やはり表情は渋いままだ。
「申し訳ありませんが、こちらは直せません」
刀を返される。
「なんでだ?」
「これ、ソウリョウ国で作られている刀ですよね? ウチの工房には、刀を打った経験のある職人がいないんです」
「そうなのか……」
「もしよろしければ、ウチの工房で作った剣がありますが、持っていかれますか?」
喜一は少し考えてから頷いた。
「そうさせてもらう」
片手剣を受け取り、工房を後にした。
しばらく歩いたところで、溜め息をつく。
(直せない、か……)
祖父の刀、実戦ではいつも共に戦ってきた相棒だ。
工房で貰った剣も悪くはない。
腕の良い職人が作った物だということもわかる。
だが、刀と比べると若干剣速が落ちる。
コンマ一秒を争う戦いの世界では、その微妙な差は大きかった。
そしてもう一つ。
自分が世界最強になる時、祖父の刀を連れていきたい。
そんな想いもあった。
兵舎に戻る途中でミアとすれ違う。
「あっ、キーチ君、刀どうだった?」
喜一は首を左右に振る。
「駄目だった」
「そっか、それ珍しいもんね」
「そうだな……」
喜一の落ち込んだ様子を見て、ミアは何とかできないか考える。
その時、ある記憶が浮かんだ。
「そういえば、昔、城下町のお店で刀を見たような」
喜一が身を乗り出す。
「本当か!?」
「うん、子供の頃だけど、お父さんと一緒に行った武器屋にあったよ」
「場所を教えてくれ!」
「今から実家に帰るところだったし、案内しようか?」
ミアの実家はバルディア王国の城下町にあるらしい。
「いいのか? 助かる! すぐに準備して来る」
喜一は荷物をとりに兵舎に向け走る。
その背後からミアが声をかける。
「乗合馬車の時間は、まだあるし、そんなに焦らなくていいよー」
走っている途中でヴァルカと出会う。
「キーチ、どうしたんだい? そんなに急いで」
「ヴァルカか、今から城下町の武器屋に行くんだ」
「ふ~ん、誰かと一緒かい?」
「同じ隊のミアに案内してもらう」
「ああ、あの赤毛の娘かい」
「俺は忙しい、また今度な!」
立ち去ろうとすると、呼び止められる。
「待ちな!」
「なんだよ、ミアを待たせてるんだから、用があるならまた今度にしてくれ」
「私も今日は休みだから、ちょうど城下町に行こうと思ってたところさ。武器も見てみたいし、銀行にも寄るんだろ? お金おろすの手伝っておくれよ」
喜一は呆れた顔をする。
「まったく、だからレナードに文字の読み書きを教わっておけって言ったのに。そういうことなら一緒に行くか」
ヴァルカの尻尾が嬉しそうに左右へ振れた。
「それじゃ決まりだね!」
兵舎へ戻り、荷物を準備して、乗合馬車の乗り場へ向かう。
ミアはすでに来ていた。
「あれ? ヴァルカさんも一緒に行くの?」
「ああ、ヴァルカも今日は休みで一緒に武器を見に行くことになった。先に銀行に行きたいんだが、時間は大丈夫か?」
「うん、私もお金おろそうと思っていたから大丈夫だよ」
ミアは笑顔で言った。
「ヴァルカさん、よろしくね」
「私も城下町は詳しくないから、案内頼むよ」
そこへ馬車が到着し、三人は馬車に乗り込む。
馬車はゆっくりと走り出した。
城下町へ向けて。




