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第三十六話 折れた刀

 ドレイクが倒れたゴルグの元へ駆け寄る。


「ゴルグ! 無事か?」


 返事はない。

 胸元を確認すると、わずかに上下している。

 呼吸はしている。どうやら気絶しているだけのようだ。

 ドレイクはゴルグの頭上を見る。

 そこには、頭に被っていた兜が転がっていた。


「どうやら、兜に救われたようだな」


 ドレイクが前方へ目を向ける。

 喜一と魔軍団長が金属音を響かせ、激しく打ち合っていた。

 ドレイクは目を細める。


「これは……」


 まるで剣撃の嵐だ。

 加勢しようと近付いた魔人が、二人の剣撃に巻き込まれ血を噴き出して倒れる。


「これでは、加勢しようにも近付けん」


 そこへホークとミアが駆け寄ってきた。


「隊長!」

「ゴルグさん、大丈夫なんですか?」


 ドレイクが振り向く。


「命に別状はなさそうだ」


 ミアが胸を撫で下ろす。


「良かった……」


 ホークは弓に矢をつがえ、魔軍団長へ狙いを定める。

 しかし、矢を放てない。

 魔軍団長の周囲を喜一が高速で動き回り、激しい剣撃を繰り広げている。


「くそっ! これじゃ援護できん。キーチに当たるかもしれん」


 ドレイクが指示を出す。


「仕方ない。こうなった以上、魔軍団長はキーチに任せるしかない。目標を周囲の魔人に変更だ!」


 ホークとミアが頷く。

 ホークが魔人へ矢を放つ。

 ミアが詠唱を開始する。

 ドレイクは盾を前に構え、魔人達へ突撃した。


 喜一は魔軍団長と剣を交えながら、勝機を探っていた。

 力では相手が上だが、速さは自分が勝っている。

 これまで何度も斬りつけている。

 しかし鎧が堅く、刃が通らない。

 鎧の隙間を狙っても、当たる直前に姿勢を変えられ、隙間を塞がれてしまう。

 致命傷を与えられない。


(ならば!)


 喜一は武術大会で鉄壁のアルベルトに使った技を思い出す。

 刀で足元をすくい上げようとする。

 しかし……。


(動かん!)


 魔軍団長が踏ん張った。

 びくともしない。

 次の瞬間、魔軍団長が蹴り上げる。

 刀ごと喜一の体が宙へ浮き、後方へ吹き飛んだ。

 魔軍団長がすぐさま片手を掲げる。


「グラル・グラザ・グラルヴァドン!」


 着地して態勢を立て直している喜一へ岩弾が飛ぶ。

 咄嗟に刀で受けた。

 キンッ!という甲高い音がし、岩弾は弾かれた。

 衝撃で手が痺れる。

 喜一は違和感に気付く、刀が軽い。

 横目で見ると、刀身の中央から先が無かった。


(折れたか!)


 喜一は、実戦では祖父の刀一本で戦い続けてきた。

 手入れはしていたが、度重なる戦いで、ついに限界を迎えたのだ。

 魔軍団長が追撃の呪文を唱える。

 ホークとミアが叫ぶ。


「キーチ!」

「キーチ君!」


 ホークが矢を放つ。

 魔軍団長は呪文を中断し、両手剣で矢を叩き落とした。


「嘘だろ!? この距離で!」


 ホークは続けて矢を放つが、また魔軍団長に叩き落とされる。


「ファイアボール!」


 ミアが火球を放つ。

 だが、それも両手剣で打ち払われた。


「そんな、魔法まで!」


 喜一は思考を巡らせる。

 逃げるか?

 いや、駄目だ。

 ドレイクから撤退命令は出ていない。

 それに、この開けた場所で背を向ければ、背後から狙い撃ちされる。


(ここで奴を倒すしかない!)


 喜一は腹を決め、折れた刀で魔軍団長に立ち向かう。

 再び剣撃が始まる。

 こうなっては、遊撃隊も魔人達も手を出せない。

 完全な一騎打ちだ。


 だが、先程より状況は悪い。

 刀身が半分、攻撃を当てるには、さらに踏み込まなければならない。

 元々、両手剣の方が長いが、今では三倍以上のリーチ差だ。

 さらに、剣先が無いため鎧の隙間を刺せない。

 喜一の攻撃手段は極端に少なくなっていた。


(喉元しかない)


 兜と鎧の隙間、そこしかない。

 だが相手もそれを理解している。

 喉元を徹底して守っていた。


(どうすればいい? どうすれば奴に致命傷を与えられる? 考えろ、考えるんだ!)


 考えている内に時間は過ぎていく、喜一の体力も少しずつ削られ、呼吸も荒くなってくる。

 必要最小限の動きで立ち回っているが、有効打が与えられない。


 ふと、視界に第一遊撃隊長の遺体が入った。

 胴体が両断されている。

 その近くに……片手剣。


(これだ!)


 喜一は魔軍団長の横薙ぎを姿勢を低くして躱しつつ、前に踏み込み、魔軍団長の横をすり抜ける。

 魔軍団長が振り返り、片手をかざし、喜一の背中に狙いを定め魔法を放とうとする。

 そこへ、ホークの矢とミアの魔法が魔軍団長に飛んでくる。

 魔軍団長は両手剣で矢と魔法を打ち払う。


(ありがとう、ホーク、ミア……お前達は、最高の後衛だ!)


 喜一は刀を左手に持ち替え、右手に第一遊撃隊長の片手剣を掴む……二刀流。


(ヴァルカ、お前の戦い方を借りるぞ!)


 ドレイクが盾を構え魔軍団長に突進する。


「うおおお!」


 シールドチャージ。

 魔軍団長はよろめくが、即座に反撃する。

 第一遊撃隊長を両断した全力の横薙ぎ。

 ドレイクは盾で防ぎつつ、後方に飛び衝撃を逃がす。

 その一瞬の隙に、喜一が走る。


(隊長、後は任せろ!)


 魔軍団長が片手を喜一に向け、呪文を唱える。


「グラル・グラザ……」


(それはもう、見切っているんだよ!)


「グラルヴァドン!」


 魔軍団長が呪文を唱え終わり、岩が精製されてから射出されるまで、およそ一秒のタイムラグがある。

 喜一は魔軍団長が呪文を唱え終わると同時に、射線上から体をずらす。

 岩弾は喜一の真横を通過した。


 魔軍団長の袈裟斬り。

 喜一は左手の刀で叩き落とす。

 両手剣が地面へ刺さる。

 喜一はその剣を、左手の刀で上から押さえ込み、右手の片手剣で魔軍団長の喉を突いた。


 魔軍団長が両手剣を振り回す。

 喜一は剣を手放し、後方へ跳ぶ。

 片手剣は魔軍団長の喉に刺さったままだ。


(やったか?)


 魔軍団長の手から両手剣が落ちる。


「ガッ、カハ!」


 そして、うめき声を上げ崩れ落ち、二度と動かなかった。

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