第三十五話 魔軍団長
魔王軍の陣地を奇襲した後、各遊撃隊が集結する。
隊長達が集まり、状況を確認した。
「第一遊撃隊は被害なしだ。お前達はどうだ?」
「第五遊撃隊も被害はない」
「第七遊撃隊も同じく」
第一遊撃隊長がニヤリと笑う。
「さすが精鋭だな。奇襲で相手が浮き足立っていたとはいえ、魔人相手に被害なしとは」
ドレイクが頷いた。
「うむ、だが次は武装して戦闘態勢に入っている魔人だ、気を引き締めんとな」
第七遊撃隊長が、本隊と魔王軍が戦っている方向を見る。
「本隊はまだ戦っています。早く合流して戦いを終わらせましょう」
第一遊撃隊長が頷く。
「そうだな。移動を開始しよう」
遊撃隊は移動を開始した。
しばらく進むと、遠くから戦闘音が聞こえてくる。
その音は次第に大きくなっていった。
やがて、魔王軍の姿が見える位置まで近づく。
丘の上から姿勢を低くし、様子を伺う。
こちらの存在は、まだ気付かれていないようだ。
遊撃隊の隊長達は魔王軍の隊列を見回す。
ドレイクが小声で言った。
「いた……あいつが指揮官だ」
指差した先。
魔王軍の後方で指示を出している魔人がいる。
その魔人の兜には、中央に一本の角があしらわれていた。
第七遊撃隊長が呟く。
「あいつが……魔軍団長」
魔軍団長。
魔将軍の配下で、部隊を指揮する者だ。
魔王軍の兜には階級を示す特徴がある。
角なしは一般兵。
角一本は魔軍団長。
角二本が魔将軍。
喜一も魔軍団長の姿を確認する。
(奴が、この戦場の大将首か)
見つからないよう丘の反対側へ降りる。
魔軍団長を倒せば、指揮官を失った魔王軍は混乱する。
戦況を一気に有利にできるはずだ。
背後から攻撃できる遊撃隊にとって、絶好の機会だった。
だが、魔軍団長は魔将軍に次ぐ実力者とも言われている。
一筋縄ではいかないだろう。
隊長達が作戦を相談する。
「ここは機動力に優れる我々、第一遊撃隊が奇襲するのが良いだろう。お前達は援護を頼めるか?」
第一遊撃隊の前衛は、獣人族の戦士が一名、人族と獣人族の剣士が一名ずつで、素早さに特化している。
速攻の奇襲には最適だろう。
その他の編成は、騎士の隊長、弓兵、魔法使いが各一名ずつ。
これはどの遊撃隊も共通している。
ドレイクが頷いた。
「異論はない」
第七遊撃隊長も頷く。
「敵がこちらに気付くまで接近したら、援護を開始する」
各隊長が隊員達へ作戦を伝える。
そして、第一遊撃隊長が低く号令をかけた。
「突撃!」
遊撃隊全員が、魔軍団長目掛けて走り出す。
敵との距離が五十メートルほどまで縮まった時。
魔軍団長の後方にいた魔人が振り向いた。
こちらに気付いたのだ。
ドレイクが即座に指示を出す。
「気付かれたか! フォーメーション遠!」
弓兵三名が一斉に矢を放つ。
魔法使い三名が詠唱を開始。
喜一は盾を構えた。
第一遊撃隊の前衛三名が前進、そしてその後ろに隊長が続く。
矢が魔軍団長の後方にいる魔人達に命中する。
魔軍団長も遊撃隊の存在に気付き、振り向いた。
矢と魔法が周囲の魔人に命中する。
その瞬間、魔軍団長が両手を掲げ、呪文を唱える。
「グラル・グラザ・グラルヴァドン!」
直後、ドカン!!という衝撃音が響いた。
第一遊撃隊の獣人族の戦士と人族の剣士が吹き飛ぶ。
喜一達の前に、ゴトンッ!と音がし、何かが転がる。
こぶし大の岩だった。
喜一が呟く。
「……岩? 魔法で飛ばしたのか……しかも、二発同時だと?」
岩は空気中に溶けるようにサラサラと消えていく。
腹部に直撃した獣人戦士は血を吐き動けない。
頭部に直撃した人族の剣士は仰向けに倒れ、動かなかった。
ドレイクが叫ぶ。
「いかん! 前衛は全員突撃だ! フォーメーションゼロ!」
第五遊撃隊が前進する。
続いて第七遊撃隊、そして第一遊撃隊の後衛が続く。
魔軍団長が再び呪文を唱えた。
獣人族の剣士が吹き飛ばされる。
第一遊撃隊長は盾に角度を付け、岩弾を後方上空へ受け流した。
「うおおおお!」
第一遊撃隊長は雄叫びを上げ、魔軍団長へ斬りかかる。
魔軍団長は背中から両手剣を抜いた。
同時に剣を振る。
第一遊撃隊長の剣は躱され空を切るが、魔軍団長の剣は第一遊撃隊長の腹部へ直撃した。
金属鎧ごと両断。
上半身と下半身が分かれ、地面に崩れ落ちる。
魔軍団長は両手剣を背中に戻し、今度は両手を喜一とゴルグへ向けた。
(まずい! 魔法が来る!)
「グラル・グラザ・グラルヴァドン!」
喜一は手の向きから軌道を予測した。
魔法が放たれる直前、回避行動を取る。
岩弾がゴルグの頭部に直撃し、ゴルグは仰向けに倒れ、動かなくなる。
喜一は読みが当たり、回避に成功した。
(ゴルグ、無事なのか?)
だが、今は気にしている場合ではない。
喜一は刀を抜く。
魔軍団長も両手剣を構える。
刀と両手剣がぶつかる。
甲高い金属音が鳴り、火花が散る。
喜一が魔軍団長に向かって叫ぶ。
「魔軍団長! お前は俺が殺す!」
喜一と魔軍団長の戦いが始まった。




