第三十四話 奇襲
作戦室に遊撃隊が集まる。
今回、バスティオン砦に来ているのは、北東支部の第一、第五、第七遊撃隊の総勢十七名だ。
部屋の中央には、バスティオン砦周辺の地形模型が置かれている。
第一遊撃隊長が指示棒を持ち、作戦の説明を始めた。
「我々遊撃隊は、この砦に侵攻している魔王軍に奇襲を行う」
作戦室内がざわめく。
「この人数で?」
「無謀だろ……」
第一遊撃隊長が周囲を睨んだ。
室内はすぐに静まり返る。
「味方の斥候からの情報で、敵は現在、ここに陣地を構築している事が判明した」
指示棒が建物の模型を指す。
「我々はこの経路で敵陣地の背後に回り込み、三方向から奇襲を行う」
人型の模型を三つ置いた。
「第一遊撃隊はここ、第五遊撃隊はここ、第七遊撃隊はここだ」
それぞれを指示棒で示す。
「無論、魔王軍は今回の襲撃だけでもおよそ五百。いくら奇襲とはいえ、反撃されれば我々は全滅する」
室内の空気が重くなる。
「そこで本隊、約二千名が進軍し、敵と交戦する」
敵軍と味方軍の模型が置かれる。
「敵が本隊との戦闘に集中している間に、我々は敵陣地を襲撃。陣地に残っている魔人の殲滅と、物資を焼き払い、敵の継戦能力を破壊する」
本隊二千名。
数だけ見ればこちらが圧倒的だ。
しかし敵は魔人、魔人相手には五倍の戦力が必要とも言われている。
勝敗は決して楽観できるものではない。
「敵陣地を破壊後、本隊と交戦中の敵を背後から攻撃。本隊と挟撃する」
人型の模型三つが、敵軍模型の背後に置き直された。
「作戦は明日実行する。本日はこの後、速やかに夕食を取り、仮眠室で休め。本隊の戦闘に間に合うよう、夜の内に移動を開始する」
第一遊撃隊長が周囲を見渡す。
「何か質問はあるか?」
一人の隊員が手を上げた。
「あの、発言よろしいでしょうか?」
「言いたまえ」
「本隊と挟撃するとおっしゃいましたが、その後は?」
第一遊撃隊長は小さく頷いた。
「その時は乱戦が予想される。戦闘を継続するか撤退するかは、各隊長の判断だ」
遊撃隊員達は顔を見合わせ、静かに頷いた。
翌朝。
喜一達、第五遊撃隊は所定の配置についていた。
林の中に身を潜め、離れた位置から敵の陣地を監視する。
そこには木で作られた簡易の柵が設けられ、内部には数多くのテントが張られていた。
魔王軍に、まだ動きはない。
喜一は刀の柄を握る。
昨日は遠距離攻撃ばかりで、盾で防ぐことしか出来なかった。
だが今日は違う、ようやくまともに戦える。
思わず口元が緩んでいた。
その様子を見たホークが、小声で囁く。
「おい、キーチの奴、戦闘前にニヤついているぜ」
ミアが目を細める。
「ちょっと……引きますね」
ゴルグも喜一と同じようにニヤリと笑った。
「まあ気持ちはわかるぜ、昨日の鬱憤を晴らしてやる」
ドレイクが空を見上げる。
「間もなく本隊が動き出す頃だ。戦闘が始まれば空に火球が上がる。それが作戦開始の合図だ」
全員が無言で頷いた。
しばらくして、敵陣地が騒がしくなった。
魔人達が、バスティオン砦の方向へ前進を始める。
どうやら本隊の動きを察知したらしい。
さらにしばらくすると、空に火球が上がった。
戦闘開始の合図だ。
ドレイクが低く命じる。
「よし、まず前方の見張り二体を処理する。ホークは右、ミアは左だ」
ホークが弓に矢をつがえる。
ミアが詠唱を開始する。
魔法の詠唱を終えると、ホークとミアが林から飛び出す。
ホークが矢を、ミアが火球を放つ。
「ファイアボール!」
矢は見張りの頭部に命中する。
魔人はその場に崩れ落ち、動かなくなった。
火球はもう一体の見張りに直撃し、魔人は炎に包まれて悲鳴を上げた。
「よし、行くぞ!フォーメーション近!」
ドレイクの号令。
一斉に陣地へ駆け出す。
喜一は一人だけ突出しないよう、周囲の動きを確認しながら前進する。
炎に包まれた見張りに止めを刺し、陣地内へ突入した。
中には数名の魔人。
紫色の肌。
人族と同じくらいの身長だが、筋肉は明らかに発達している。
そして、額には角。
喜一達に気付いた魔人が手を向け、何かを唱える。
「ドルヴァ・クル……」
(魔法か!)
喜一は一気に距離を詰める。
魔法が放たれるより先に、腕を斬り落とした。
「グアアアア!」
腕から血を噴き出し、魔人が絶叫する。
そこへゴルグの戦斧が振り下ろされた。
魔人は真っ二つになり、地面に崩れ落ちた。
突然の奇襲に、魔人達は完全に浮き足立っている。
他の場所からも戦闘音が聞こえる。
喜一とゴルグが前に出る。
ホークとミアが後方から矢と魔法で援護する。
その合間に、テントへ火を放つ。
炎は次々と広がっていった。
やがて……魔王軍の陣地は完全に沈黙、奇襲は成功した。




