第三十三話 襲撃後
魔王軍の襲撃を受けた後のバスティオン砦は、喧騒に包まれていた。
火傷を負った兵士には医療班が薬を塗り、包帯を巻いている。
火傷が酷く、すでに息絶えている者もいた。
施設に燃え移った火を消すため、消火活動に奔走している兵士達の姿もある。
その喧騒がようやく落ち着いた頃には、すでに日が傾き始めていた。
喜一が消火活動を終えて待機所に戻ると、ミアが毛布の上で横になっていた。
「大丈夫か? ミア」
ミアがゆっくりと体を起こす。
「うん、もう大丈夫」
そう言っているが、まだ本調子ではなさそうだ。
「無理するな、休めるうちに休め」
「本当に大丈夫だから、だいぶ楽になってきたし」
魔力切れ。
魔法使いではない喜一には、それがどれほど辛いものなのか想像がつかなかった。
「魔力切れって、どんな感じなんだ?」
「う〜ん、何て言えばいいのかな」
ミアが少し考え込む。
「視界がクラクラして、体の力が抜ける感じ? 例えるなら、風邪を拗らせたみたいな感じかな」
「そうか、大変なんだな」
「そうよ、大変なのよ!」
ミアが急に身を乗り出した。
「それなのに、よく知りもしない前衛共は、魔法使いは優遇されていていいよなーとか、魔力切れになったら休めて楽だよなーとか、好き勝手言ってくれちゃって!」
ミアが両手を握りしめる。
「お、おう」
どうやらミアも、エルグラント解放連合に入隊してから色々と苦労してきたようだ。
「あ、キーチ君も前衛だけど、第五遊撃隊の皆はちゃんと尊重してくれるし、悪く思ってないからね」
「わかった、わかった」
「でも、たまにホークさんがからかってくるのは嫌だけど」
喜一は、ホークに騙されて酒を飲まされた時のことを思い出し、苦笑した。
二人で話していると、ホークとゴルグも戻ってきた。
「いやぁ、参ったね。魔王軍は何回か襲撃に来ているらしいが、こんなのが毎回だと疲弊する一方だ」
「あいつら、遠くからチマチマと。近付いて来たら、俺の斧で肉塊にしてやるものを」
ゴルグが不満そうに言う。
喜一も頷いた。
「確かに遠距離では、こちらの被害の方が多く分が悪い。どうにか近接戦闘に持ち込めないものか」
ミアが溜め息を吐く。
「魔法使いの数も少ないのが問題よね。私もセシウス君みたいな大規模な範囲魔法を使えればいいんだけど」
「セシウス君って、電撃のセシウスのことか?」
「そうね、キーチ君はセシウス君と武術大会で戦ったんでしょ?」
「そうだが、試合ではあいつが詠唱している間に倒してしまったからな。そんなに凄い奴なのか?」
ミアは頷いた。
「凄いも何も、魔法学校では入学した時から天才って言われていて、知らない人はいないよ。彼の操る電撃魔法は、威力も、広範囲に及ぶ規模も、的確に当てる技術力も桁違い。魔法の芸術とまで言われているぐらいだよ」
「そういえば、予選では電撃魔法で他の参加者を一網打尽にしたと聞いたな」
「そこまでの大魔法を使えるのは、この世界でもほんの一握りだよ」
そう言われれば、クイーンゼルガムとの戦いでは奴の電撃攻撃に苦戦したが、その範囲は単体だった。
ミアや、先程城壁上で魔法を放っていた魔法使い達。
そして魔人の放っていた魔法も、基本は単体攻撃だった。
セシウスとの試合は余裕だったと思っていたが、もし先に詠唱が終わっていたなら、負けていたのは自分の方だったのかもしれない。
「まあ、そこまでの大魔法を使える魔法使いはここには居ないし、無いものねだりしても仕方ないんだけどね」
ホークがその場に腰を下ろす。
「まっ、後は上がどんな作戦を出すのかだな。このまま砦で籠城していてもジリ貧だ」
四人で話していると、会議を終えたドレイクが戻ってきた。
「皆いるな」
ドレイクは周囲を見回し、続ける。
「これから作戦を言い渡す。全員、作戦室について来なさい」
どうやら、作戦は決まったようだ。




