第三十二話 バスティオン砦の戦い
バスティオン砦に到着した喜一達は、馬車から荷物を下ろして兵舎へ運んでいた。
ドレイクが皆に伝える。
「お前達、私はこれから会議があるので、後は頼むぞ」
ゴルグが荷物を担ぎながら言う。
「任せて下さい、隊長」
ドレイクは頷き、指揮所に向けて歩いて行った。
ホークが辺りを見回す。
「それにしても、すごい人の数だな」
大人数を収容できる待機所は人で溢れていた。
ここ以外にも待機所は何箇所もあるが、どこも混雑している。
ミアが荷物を下ろす。
「砦の収容人数に対して、増援が多いですからね」
喜一は天井を見上げる。
「まあ、屋根があるだけましだ」
荷物を全て下ろし、四人で話していると、突然、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。
周囲がざわめく。
「なんだ?」
「敵襲か?」
喜一達がすぐに防具を取り付けていると、待機所に伝令が飛び込んできた。
「魔王軍が砦に向かっています! 総員、戦闘準備!」
喜一の口角が上がる。
(ようやく、この時が来たか)
伝令と入れ違いで、ドレイクが待機所に入ってくる。
「我々、第五遊撃隊は五番城壁上において遠距離攻撃を行う! キーチ、ゴルグは盾を持って防護! 準備が出来次第移動だ!」
五番城壁上。
先に到着していた弓兵が、弓に矢をつがえ、射る準備を整えている。
遠くを見ると、黒い装備に身を包んだ軍団がこちらに向けて前進していた。
(あれが魔人か)
数はおよそ五百。
こちらの数の方が圧倒的に多い。
(たしか、レナードが「一体の魔人に対し、人族五人でかかれ」と言われていると話していたな)
一体、どういう戦い方をするんだ?
喜一は盾を構え、身構える。
ドレイクが声を張り上げた。
「ここ、五番城壁上の指揮は私がとる! 有効射程距離まで引きつけたら指示を出す! 総員、構え!」
弓兵達が一斉に弓を上方に構える。
魔法使い達は杖を前に突き出し、詠唱を始めた。
五番城壁上にいる弓兵は百名近く。
だが、魔法使いはミアを含めて五名しかいない。
人族で魔法を扱える者はごく少数だ。
妖精族は魔法に長けた種族らしいが、中央大陸では滅多にいない。
北東支部にも所属していない為、喜一はまだ見たことがなかった。
「まだだ!」
魔人達が少しずつ近づいて来る。
「まだ待て!」
魔人側には弓や杖を構えている様子はない。
「もう少しだ!」
その時、魔人達が一斉に立ち止まり、手の平をこちらに向けてかざした。
「今だ! 放て!」
弓兵達が一斉に矢を放つ。
矢は山なりに空へと舞い上がり、魔人達へと降り注いだ。
魔法使い達の火球も放たれる。
他の城壁からも同様に攻撃が始まった。
だが、同時に魔人達からも火球が放たれる。
五百名近くいる魔人、その全員から。
矢と火球が魔人達に降り注ぐ。
魔人の放った火球が城壁にぶつかる。
いくつかは城壁上にも届いた。
喜一は飛んできた火球を盾で防ぐ。
ドレイクから座学で聞いたことがある。
人族で魔法を扱える者はごく少数だが、魔人族はほぼ全ての者が魔法を扱える。
つまり人族は前衛と後衛で役割を分担するが、魔人はそれを一人でこなすことができる。
さらに魔法を使う際、人族のように杖などの魔道具を必要とせず、長い詠唱もいらない。
加えて、巨人族に次ぐ屈強な体躯。
魔人と戦うには五倍の戦力が必要と言われている所以である。
「続いて放て! 奴等が殲滅するか撤退するまで放ち続けろ!」
ホークが素早く次の矢をつがえて放つ。
ミアも次の魔法を放つ為、詠唱を開始した。
ホークは弓の名手と言われるだけあり、他の弓兵よりも次の矢を放つまでの速度が速い。
矢も正確に魔人達のいる方向へ飛んで行く。
「くそ、この距離で致命傷になるのか? 当たっているのかどうかもわからん!」
弓矢は距離が離れるほど威力が減衰する。
遠くに飛ばすには上方に向けて放つ必要があり、風の影響も受ける為、狙って当てるのは至難だ。
訓練場の的までの距離は五十メートル。
魔王軍までの距離は百五十メートル以上ある。
ホークは訓練場ではほぼ百パーセント近く矢を的に当てることができる。
ちなみに喜一もホークに習って練習したが、思った方向に飛ばず、数十回に一回当てるのが精々だった。
撃ち合っていると、魔人の放った火球が、少し離れた弓兵に直撃した。
弓兵が炎に包まれる。
「毛布を掛けて消火しろ!」
喜一は毛布で弓兵を包み、すぐに火を消し止めた。
皮膚の焦げた匂いが漂う。
「ゴルグ! 負傷兵を運べ!」
「わかりました!」
ゴルグが負傷兵を担いで運んで行く。
その後も遠距離での撃ち合いが続いた。
被弾する味方が増えていく。
魔人側も倒れている者がいるが、こちらの被害の方が大きい。
やがて、魔王軍の攻撃が弱まり始めた。
魔力切れだろうか。
魔法は体内に存在するエネルギー、魔力を消費して行使される。
無限に使える訳ではない。
ミアの呼吸が荒い、限界が近づいているようだ。
五番城壁上にいた他の魔法使いは、すでに魔力切れとなり後方へ下がっている。
「……熱き深紅の血潮、生きとし生きるもの全て、歓喜に唄え、ファイアボール!」
ミアが最後の火球を放つ。
直後、限界が来たのか、片膝をついた。
「ミア、よくやった! 後方に下がれ!」
「はぁ……はぁ……わかり、ました……」
杖を頼りに立ち上がり、フラフラと後方へ下がっていく。
その時、魔王軍が撤退を始めた。
砦の防衛は成功した。
しかし、味方の被害は、甚大だった。




