第三十一話 戦場へ
軍用馬車の長い行列が、戦場へ向けて進んでいた。
総勢約七百名の増援部隊だ。
目的地はバスティオン砦。
魔王軍が占領しているトリリネア王国とバルディア王国の国境にある砦で、重要な軍事拠点だ。
その砦が現在、魔王軍の攻撃を受けている。
喜一達は救援として派遣されたのだった。
「そろそろ砦に到着だ。各人、準備するように」
ドレイクが指示を出す。
ホークが手を上げる。
「隊長、バスティオン砦の兵力は千五百を超えているはずです。強固な防護壁と堀で、今まで一度も突破されたことはありません。急いで救援に向かわなければいけない程、状況は悪いんですかい?」
ドレイクは頷く。
「うむ。戦闘が膠着状態に陥ってから七年、長らく大きな動きはなかったが、最近、魔王軍の動きが活発になっているらしい」
ミアが不安げに口を開く。
「これだけの規模の戦闘は、私達は初めてです。何か作戦があるんですか?」
「それは砦に着いたら会議して決めることだ。お前達は、いつでも作戦に移れるよう態勢を整えておけばいい」
ゴルグが腕を組み、笑う。
「そうだぜミア、あまり小難しいことは考えるな。あの憎らしい魔人共を駆逐するまたとない機会だ。一匹残らず挽肉にしてやる」
ゴルグの目には、魔人に対する怒りと憎悪が渦巻いていた。
それもそのはずだ。
北大陸で、彼の集落は魔人の襲撃に遭った。
両親はゴルグを逃がす為に魔人に立ち向かい、帰らぬ人となった。
知り合いも大勢殺されたらしい。
彼の悲願は、魔人を殲滅し、再び故郷を巨人族の手に取り戻すこと。
その為に、かつての山岳信仰を捨て、聖典統一教会の信徒になった程だ。
喜一が腕を組み、口を開く。
「しかし、それだけの兵力を持つ砦で苦戦しているとなると、敵の数も相当だろう。無策で挑むのは無謀だと思うが」
ゴルグが鼻で笑う。
「どうしたキーチ、魔人相手に怖気づいたか? いつも最強だと言ってるお前が」
喜一が目を細める。
「勇気と蛮勇は違う、という話をしている」
一瞬、馬車の中の空気が張り詰めた。
ホークとミアはピリピリした雰囲気に耐えきれず、助けてくれと言わんばかりの視線をドレイクに向ける。
ドレイクは軽く咳払いをした。
「まあ、そうならない為に私がいるんだ。お前達のような精鋭を、無策で敵に突撃させるなんてことはさせない」
ミアが両手を組み、目を輝かせる。
「隊長!」
ホークも両手を組み、体をくねらせる。
「やだっ! 隊長カッコいい、惚れちゃう!」
喜一はホークを眺めて、何でこいつは裏声で体をくねらせているんだ、と呆気にとられる。
「フッ!」
ゴルグが軽く吹き出す。
喜一がゴルグを見ると、ゴルグは目をそらした。
「その、なんだ、キーチ……悪かったな。戦いを前に気が高ぶっていたみたいだ」
「いや、俺も悪かった。お前の事情も知っていたのだから、他に言い方があったと思う」
喜一とゴルグが向かい合い、小さく笑い合う。
その様子を見ていた三人は、ほっと胸を撫で下ろした。
ホークが額の汗を拭う。
「ふぅ、良かった良かった。どうやら暴れられて、馬車がバラバラにされずに済みそうだ」
ミアが胸に手を当てる。
「一時はどうなることかと」
ドレイクが頷く。
「うむ」
喜一が三人を見回す。
「お前達は、俺とゴルグを何だと思ってるんだ」
ゴルグが豪快に笑う。
「がははは! 皆も済まなかったな!」
ドレイクが姿勢を正す。
「敵は魔人だ、味方同士で争っている場合ではない。各人、気を引き締めるように」
皆が頷く。
「はい!」
ドレイクも頷いた。
「よろしい」
その時、馬車が止まり、御者台の兵士から声が掛かる。
「バスティオン砦、到着しました!」
第五遊撃隊のメンバーは馬車から降り、砦を見上げた。
石造りの堅牢な城壁。
巨大な関所。
空へ突き刺さるような高い塔がいくつも並んでいる。
それはまさに要塞だった。
(ようやく、ここまで来たか)
喜一は砦を見上げ、静かに拳を握った。




