第三十話 ライバル
訓練場。
全員が揃ったことを確認し、ドレイクが声を張り上げる。
「午後の訓練については、各個訓練とする!」
喜一が聞き返す。
「各個訓練?」
ゴルグが説明する。
「訓練場を使って好きに訓練していいってことだ。木製人形相手に打撃訓練しても良いし、的に向かって弓で射撃訓練してもいい」
ホークが的に向かう。
「それじゃ、俺は弓の練習でもしようかね」
ミアが魔導書を開く。
「私は詠唱の練習をします」
ドレイクが喜一に声を掛ける。
「キーチ君は、したいことはあるか?」
喜一は腕を組み、考え込む。
「したいこと……動かない木製人形を相手にするぐらいなら、まだ敵を想定して素振りした方がマシだな」
ドレイクが頷く。
「それなら、私と軽く手合わせするかね」
「手合わせ? 昨日みたいな模擬戦か?」
ドレイクが苦笑する。
「あそこまで本気でやる必要はない、戦の前に怪我してしまうからな。軽く打ち合っての動作確認だ」
「そういうことか」
「面白そうですね、俺もまぜて下さいよ」
ドレイクが目を細めてゴルグを見る。
「巨人族の本気の一撃を受けたら、人族はただでは済まない……わかってるな」
ゴルグが後退りしながら苦笑する。
「わかってます、わかってますって」
三人はそれぞれ木製の武器を持ってくる。
喜一は木製の片手剣。
ゴルグは木製の戦斧。
ドレイクは木製の盾と片手剣だ。
「キーチ、まずは俺とやろうぜ」
喜一とゴルグが手合わせする。
カン、カン、カン、と木を打ちつける音が鳴り響く。
軽い手合わせとはいえ、巨人族の力は全種族の中でも随一だ。
まともに受ければ、衝撃で手が痺れる。
喜一は体捌きと受け流しで対処する。
「次は私だな」
ドレイクの戦い方は、盾で防御し、合間に剣で攻撃するというものだ。
武術大会で戦った鉄壁のアルベルトと戦い方が似ている。
もっとも、技術はアルベルトの方が上だったが。
ドレイクとゴルグも手合わせし、三人は休憩する。
「キーチ君の剣筋は素晴らしいな」
「そうか?」
「うむ、何と言うか動きに無駄がない。無駄を極限まで削ぎ落とした剣術とでも言おうか。キーチ君はどこで剣術を学んだんだね?」
「別に誰からも教えを受けてない。毎日素振りしていただけだ」
ドレイクが目を見開く。
「なんと、独学でそこまでの境地に達したというのか」
ゴルグが豪快に笑う。
「がははは! やっぱりお前は面白い奴だな!」
三人で話していると、後ろから声が掛かる。
「楽しそうだね、キーチ」
振り返ると、ヴァルカが近づいてくる。
ヴァルカは第三遊撃隊に配属された。
同郷のザガルと同じ隊になったと話していた。
「ヴァルカか、そっちの訓練はどうだ」
ヴァルカが後ろにいるザガルを親指で指差しながら言う。
「私も隊の連中と手合わせしてたんだけど、まるで張り合いがなくてね。ザガルなんて強くなったなんて息巻いてたのに全然だったよ」
ザガルを見ると、大きな耳を倒してションボリしている。
「このままじゃ不完全燃焼だし、キーチ、手合わせしないかい?」
「俺は別に構わないが……」
喜一がドレイクを見ると、隊長は頷いた。
「武術大会優勝者と準優勝の手合わせか。面白い……今日はもう訓練を終わろうと思っていたところだ、やりなさい」
「それじゃ、決まりだね」
喜一とヴァルカは訓練場の空いているスペースに移動する。
「お、何か始まるんですかい?」
「あの人、他部隊の人?」
ホークとミアが戻ってくる。
第三遊撃隊のメンバーも集まり、皆の視線が喜一とヴァルカに集まる。
喜一は呼吸を整え、集中する。
ヴァルカは不完全燃焼だと言ったが、それは喜一も同じだった。
喜一が本気を出せば、ドレイクもゴルグも一瞬で倒してしまう。
相手の強さに合わせて力をセーブするのではなく、全力で打ち合うことのできるヴァルカとの手合わせは、喜一にとっても願ったりだった。
ヴァルカが木剣を二本、両手にして構える。
喜一も木剣を構える。
「それじゃ、行くよ!」
「こい!」
直後、木を打ちつける乾いた音が連続して鳴り響く。
剣の動きが速すぎて、ほとんどの者には残像しか見えない。
いつの間にか喜一とヴァルカの立ち位置が入れ替わっている。
それを見ていた隊のメンバー達は呆気にとられて言葉を失う。
ザガルも口を開けたまま呆然と眺めている。
次第に、ざわめきと歓声が起こる。
訓練場で訓練していた他の隊も、何事だと訓練を中止して見に来る。
やがて、喜一とヴァルカを中心に多くの人だかりが出来ていた。
それにつれて、歓声も大きなものになっていく。
喜一はヴァルカと手合わせしながら、高揚していた。
ヴァルカも楽しそうだ。
力を加減する必要はない。
けれど、決着となれば自分は寸止めできる。
相手も寸止めする。
そんな信頼が、二人の間にはあった。
喜一とヴァルカは同時に思っていた。
それでこそ……。
(それでこそ、俺のライバルだ!)
(それでこそ、私のライバルだね!)
そして決着。
喜一の木剣がヴァルカの鼻先で止まる。
ヴァルカの木剣が喜一の脇腹の前で止まる。
結果は、引き分けだった。
ドレイクは腕を組み、目を細めて呟いた。
「……とんでもない新人が入ってきたものだな」
訓練場を大歓声が包んだ。




