第二十九話 訓練開始
朝、食堂は大勢の隊員で賑わっていた。
席は数百席ある巨大な食堂だが、ほぼ満席だ。
「いやあ、キーチ、昨日は済まなかった!」
ホークが両手を合わせ、昨晩、酒じゃないと偽って喜一に酒を飲ませたことを平謝りする。
喜一は目を細めて、短く一言。
「二度とするな」
「わかった、わかった。もうしないから、そんな怒るなよ」
(本当だろうか? この男の言葉は軽くて、どうにも信用できない)
ゴルグが笑う。
「それにしても、キーチがあんなに酒に弱いとは思わなかった。剣の腕は凄いのにな」
「俺も、初めて酒を飲むまでは知らなかった」
三人で談笑しながら朝食をとる。
食事を終える頃、喜一が周囲を見渡す。
「ドレイク隊長とミアの姿がないな」
ゴルグが頷く。
「指揮官クラスと、女性は兵舎が別々だからな」
ホークが食事を終え、席を立つ。
「まあ、この後すぐに防具を着けて訓練場に集合だ。遅れるとドレイク隊長にどやされるから、あまりのんびりするなよ」
ホークは食器を返却口に片付けて部屋に戻る。
喜一とゴルグも後に続いた。
訓練場。
「よし、皆集まったな。それでは訓練を開始する!」
金属鎧を身に纏ったドレイクが声を張り上げる。
「まずは連携訓練からだ」
連携訓練。
第五遊撃隊の陣形は主に三つ。
フォーメーション遠、フォーメーション近、フォーメーションゼロだ。
「フォーメーション遠!」
ドレイクが木剣の切っ先を向けた方向に、ホークが弓を、ミアが杖を構える。
喜一とゴルグはその近くで木盾を構える。
フォーメーション遠は、敵との距離が遠い時に用いられる。
ホークは弓矢で、ミアは魔法で攻撃。
喜一とゴルグは相手の反撃を盾で防ぐ。
ドレイクは方向を指示する。
「三!」
方向を転換する。
ドレイクが最初に指し示した方向から右回りに三百六十度、一から十二の数字を割り振り、最初に指し示した方向が十二になる。
三は最初に指し示した方向から右横になる。
「十一!」
一斉に向きを変える。
「ホーク二! ミア十!」
方向が分かれる場合は、それぞれに指示を出す。
「キーチ! ホークの弓の射線上に入っているぞ! もう少し横に移動だ!」
動きが揃うまで何度も繰り返す。
「よし、次はフォーメーション近!」
喜一とゴルグは木盾を置き、それぞれ木製の武器を構え前に出る。
フォーメーション近は、敵との距離が近い時に用いられる。
喜一とゴルグが前衛で前に立つ。
ホークとミアは後衛で前衛の援護。
ドレイクは前衛と後衛の中間で指揮をとり、喜一とゴルグが討ち漏らした敵の相手をする。
「キーチ! 前に出過ぎだ! ゴルグに合わせろ!」
そして、最後のフォーメーションゼロは、乱戦になりドレイクが指揮をする暇がない時に用いられる。
各人の判断で戦闘を行い、後衛のホークかミアが戦況を見て撤退の進言をドレイクにして、ドレイクが撤退指示を出すというものだ。
何度かフォーメーションの切り替えを行い、陣形の転換がスムーズに行えるよう繰り返した。
「続いて乗馬訓練を行う!」
連携訓練後は、休憩を挟んで乗馬訓練だ。
厩舎から馬を借りてくる。
ゴルグの馬は一回り大きい。
喜一が馬に乗るのは初めてだ。
ドレイクが馬の乗り降りから、手綱の持ち方、進み方、止め方、方向の変え方など、一つ一つ丁寧に喜一に教えながら実施する。
最初は、戸惑う喜一だった。
馬の背は思ったより高く、体の動き一つで揺れが伝わってくる。
手綱を引く力加減も分からず、馬は気まぐれに首を振った。
「焦るな、キーチ。馬はお前の動きを見ている、落ち着いて指示を出せ」
ドレイクの言葉を聞きながら、喜一はゆっくりと手綱を握り直す。
呼吸を整え、足で軽く合図を送る。
すると馬は、ゆっくりと前へ歩き始めた。
何度か進んでは止まり、向きを変える練習を繰り返す。
次第に馬の動きにも慣れてきた。
手綱を引くタイミングや、脚での合図も少しずつ分かってくる。
最後には、手綱を操りながら馬を軽く走らせるところまで出来るようになっていた。
風を切って走る感覚に、喜一はわずかに目を細める。
馬から降り、兜を脱ぐ。
ドレイクも馬から降りて喜一に声を掛ける。
「なかなか筋がいいじゃないか、初日でここまで出来る奴はなかなかいないぞ」
「いや、まだまだだ。なかなか思うようには動いてくれない」
ドレイクは笑う。
「はっはっはっ、乗馬はそう簡単に身に付くものじゃないぞ」
ホークがニヤケながら言う。
「そう、そう。ミアなんか、初日に落馬で気絶して、医療班に運ばれてたからな」
ミアが顔を赤くして抗議する。
「ちょっと、ホークさん! それ、今言う必要あります?」
ゴルグが豪快に笑う。
「がははは!」
午前中の訓練はこれで終わり。
昼食を挟んだら、また訓練だ。




