第二十八話 模擬戦
第五遊撃隊の面々は、喜一を案内するために各施設を巡っていた。
宿舎、食堂、浴場、厩舎、そして、外の広場へと出る。
ドレイクが腕を広げながら言った。
「ここが訓練場だ」
広場はかなりの広さがあり、周囲には木製の武器や弓矢が整然と並べられている。
隊員たちは隊列を組んでの訓練、木製人形への打撃、的に向けた弓の射撃など、それぞれの訓練に励んでいた。
木剣がぶつかる乾いた音。
矢が風を裂く音。
活気のある空間だった。
「明日から、ここで訓練を行う」
ドレイクがそう言うと、ゴルグが口を開いた。
「ドレイク隊長、新入りの歓迎も兼ねて、ちょっと模擬戦してみるってのはどうです?」
ホークもゴルグの提案に乗る。
「おっ、いいねぇ。武術大会優勝者の実力も見てみたいし。隊長、軽く模擬戦するぐらいならいいですよね」
ミアは目をつむり、右手の指先を額に当てて呆れた表情を浮かべていた。
ドレイクは一瞬考え、喜一に視線を向ける。
「だ、そうだがキーチ君、行けるかね?」
「問題ない」
そう言って、喜一は木製の片手剣を手に取った。
「で、誰が相手になるんだ?」
ゴルグが木製の戦斧を担いで前に出る。
「俺だ」
ドレイクが口を挟む。
「怪我をしないように、程々でやってくれ」
ゴルグが豪快に笑う。
「わかってますよ、隊長」
喜一とゴルグが武器を構えて向き合った。
ゴルグの身長は三メートルに届かないほど。
ガルドよりは少し低いが、それでも圧倒的な体格差。
だが喜一にとっては、巨人族との戦いはすでに経験済みだ。
ゴルグが口を開く。
「ガルド、盗賊に落ちぶれた巨人族の面汚し。あいつは俺が成敗してやるつもりだったんだがな」
巨人族は北大陸が魔人族に占領されてから、生き残りが中央大陸へ逃れてきたと聞く。
帰る故郷もなく、肩身の狭い思いをしている者も多いらしい。
そんな中で、同族が盗賊として暴れ回っている。
ゴルグにも思うところがあったのだろう。
「ああ、あいつはよりにもよって最強である俺に喧嘩を売ったからな。まずかったか?」
「いや……」
ゴルグはニヤリと笑った。
「感謝してる、ぜ!」
言い終わるより早く、木斧が横薙ぎに振り抜かれる。
喜一は後ろへ跳び、紙一重でかわした。
風圧で髪が揺れる。
(軽く模擬戦、ね……)
木製とはいえ、巨人族の怪力だ。
あの速度で直撃すれば、骨折では済まないだろう。
ゴルグは振り切る途中で軌道を変え、頭上へ持ち上げた。
そのまま真下へ振り下ろす。
だが喜一は前へ踏み込んだ。
すれ違いざま、木剣でゴルグの膝裏を叩く。
「うおっ?」
ゴルグの体勢が崩れ、膝が折れた。
低くなった首元へ、木剣の切っ先がぴたりと当てられる。
「あ、あれ?」
ゴルグは何が起きたのか理解できず、固まった。
周囲の隊員たちも動きを止めていた。
木製人形を叩いていた兵士も、弓を構えていた兵士も、皆が喜一を見ている。
ドレイクが笑顔で拍手した。
「どうだね、これで皆もキーチ君の実力がわかっただろう?」
ミアがぽつりと呟く。
「すごい……」
ホークは口をぽかんと開けていた。
「嘘だろ……」
喜一が口を開く。
「まだ信用できないなら、次はお前が相手してくれるか?」
木剣の切っ先がホークを指す。
「いやいやいやいや、俺は後衛よ? 無理無理無理無理」
ホークは高速で首を横に振った。
ゴルグが笑いながら立ち上がり、喜一に手を差し出す。
「試すようなことをして悪かったな。これからよろしくな、キーチ」
握手を交わす。
「こちらこそ、よろしく頼む」
その瞬間、ゴルグは喜一の体を両手で持ち上げた。
「お、おい?」
気づけば肩車されている。
視界が高い、巨人族の視点とはこういうものなのか。
ゴルグが大声で叫んだ。
「よーし! 今日はキーチの歓迎会だ! ドレイク隊長、いつもの酒場で、今日は隊長の奢りでいいですよね!」
ドレイクは穏やかに頷く。
「もとよりそのつもりだ。皆のもの参るぞ」
ミアがため息をつく。
「ふぅ、一時はどうなるかと思ったわ」
ホークが拳を突き上げる。
「よっしゃ! 今日は浴びるほど飲むぜ!」
こうして第五遊撃隊は、そのまま酒場へと向かった。
酒場は賑わっていた。
木製の長机、肉料理とパン、そして大量の酒。
隊員たちは上機嫌で杯を交わしている。
ホークが酒瓶を片手に喜一に酒を勧める。
「キーチ!飲め飲め!」
「いや、俺は酒を飲めない」
喜一はそう言って、果実のジュースを飲んでいた。
しばらくして、ホークが今度は木杯を持って喜一の所にやって来る。
「大丈夫大丈夫、これは酒じゃないから」
ホークが差し出した木杯を、喜一は疑いもなく受け取って飲む。
すると、視界が揺れた。
「……?」
身体の力が抜ける。
「ホークさん、それ……」
ミアが言いかけた時には、もう遅かった。
どさっ!と音を立て、喜一は机に突っ伏して倒れた。
ホークは目を丸くする。
「え、弱っ」
ゴルグが豪快に笑った。
「がははは! キーチ、酒弱いんだな!」
ドレイクが片手で頭を抱える。
「ホーク、お前という奴は……」
その後、喜一の意識が戻ったのは、翌朝だった。
目を開けると、見慣れない天井。
ゆっくりと起き上がると、そこは宿舎のベッドだった。
「……」
頭が少し痛い。
昨夜の記憶を思い出そうとするが、途中から曖昧だ。
ただ一つ、確かなことがある。
(ホーク……)
次に会ったら、問い詰める必要がありそうだった。




