第二十七話 出会いと別れ
エルグラント解放連合北東支部。
早朝、後方支援隊が出発の準備を整えている。
そこには、同行するレナードと、見送りの喜一とヴァルカの姿もあった。
「レナード、色々と世話になったな。ルドリックにもよろしく伝えてくれ」
「道中、気を付けるんだよ」
「ありがとうございます。御二人の戦場での御武運をお祈りします」
そう言うと、レナードは畳んだ白い布を喜一に渡す。
喜一が布を広げると、一年間馬車に掲げていた、世界最強と書かれた旗だった。
「私も旦那様と共に、キーチ様が世界最強になられる日を心待ちにしております」
喜一は旗を眺めながら思う。
重いな……と。
蒼嶺国の村を出た時、世界最強の剣士になるという夢は喜一だけのものだった。
村では誰にも理解されず、疎まれ、孤立していた。
父でさえも。
しかし、中央大陸に来てから、ルドリックに命を助けられ、世界最強になるという夢を応援され、レナードもまた、喜一が世界最強になることを望んでいる。
喜一の夢はもう、喜一だけのものではなくなっていた。
喜一は世界最強の旗を握りしめ、真っ直ぐな瞳でレナードを見据えた。
「任せろ、必ず俺の最強を証明してみせる」
レナードは頷き、馬車に乗り込む。
後方支援隊の補給馬車が進む。
その後を、レナードの馬車がついて行く。
喜一とヴァルカは、遠ざかっていく馬車を静かに見送っていた。
───
二日後。
喜一の目の前には、体格の良い、騎士の制服を着た男が立っていた。
年は三十前後ぐらい、紺色の短髪、表情が引き締まっており、厳格な印象を受ける。
喜一はエルグラント解放連合北東支部、第五遊撃隊に配属が決まった。
彼はそこの隊長だ。
「俺の名は喜一、世界最強になる男だ、よろしく頼む」
喜一が一礼する。
隊長は、静かな目で喜一を見据える。
「私の名はドレイク・ハルヴァル。アイゼンラント公国では、十人長を務めていた。他の隊員にも紹介する、ついてきなさい」
そう言うとドレイクは歩き出す。
喜一もその後をついて行く。
エルグラント解放連合の指揮官には、各国からの騎士が選ばれる。
エルグラント解放連合に在任している間は本国では休職扱い。
十人長を務めていたということは、本国の騎士団では、それなりの地位にいたことになる。
兵舎の一室に着き、ドアを開ける。
部屋の中には三名の男女がいた。
巨人族の男性は、灰色の髪を後ろに束ね、鍛え上げられた筋肉質で肉厚な体型をしている。
ローブを着た女性は、肩まで長さのある赤髪、少しつり目でクールな印象を受ける。
鋭い目をした中年男性は、癖のあるボサボサの茶髪、額に傷がある。
部屋に入ると、三人の視線が一斉に喜一に集まる。
「本日より、我が第五遊撃隊に配属になったキーチ君だ。キーチ君、皆に自己紹介を」
喜一が一歩前に出る。
「俺の名は喜一」
一拍。
「世界最強になる男だ」
沈黙、そして……。
「がははは! 面白い奴が入ってきたな」
巨人族の男が豪快に笑う。
ローブを着た女性は目を閉じて静かにしている。
中年男性はニヤニヤしながら言う。
「おいおい、いつからこの部隊は子供の遊び場になったんだ? 俺達にこいつのお守りをしろってか?」
ドレイクが咳払いをする。
「皆のもの、静かにしなさい。キーチ君はこう見えてレイグラムの武術大会優勝者だ。大会では、疾風のヴァルカ、鉄壁のアルベルト、電撃のセシウスを下していて、賞金首である鉄塊のガルドを倒している。実力的には申し分ない」
その言葉に部屋の中が静まり返る。
そして、小声で話し始める。
「ガルド、あの巨人族の面汚しを?」
「セシウスって魔法学校で天才と言われている……」
「へぇ……」
三人の目が嘲笑から、好奇の目に変わった。
「キーチ君が自己紹介したんだ、お前達も自己紹介なさい」
巨人族の男が一歩前に出る。
床板がわずかに軋んだ。
「俺はゴルグ、戦士だ」
ローブを着た女性が口を開く。
「私はミア、魔法使いよ」
中年男性が口角を上げる。
「俺はホーク、狩人だが、ここでは弓兵をしている」
少数精鋭の部隊というのは本当のようだ。
皆、特技が見事にバラバラだ。
「我が部隊はキーチ君を含め五名、訓練をして行けるとなれば即実戦だ。今日は各設備を案内して、訓練は明日より本格的に行う。各人、気を引き締めるように!」
一癖ありそうな隊員達。
訓練、そして実戦……。
面白くなってきた、そう思い喜一は微かに口角を上げた。




