第二十六話 同郷
バルディア王国、エルグラント解放連合北東支部。
そこには多くの人で賑わっていた。
甲冑を着た戦士、ローブを着た魔法使い。
年齢も様々だ。
歴戦を感じさせる使い込まれた装備に身を包む者もいれば、真新しい装備に身を包む若者もいる。
人族だけでなく、獣人族や巨人族の姿もあった。
喜一、ヴァルカ、レナードの三人は、受付で志願兵の申し込みをしていた。
受付を済ませると別室に通され、面接を受ける。
レナードが代表して、志望動機、経歴、特技、そして遊撃隊への入隊希望を伝える。
面接官は、戦場での実績がないと難しいと告げる。
しかしレナードは、喜一が二つ名持ちの強敵達を倒してきた実績、ヴァルカのグラディオン闘技場での無敗実績を挙げ、さらにエルグラント解放連合への寄付金の交渉を行った。
結果は三日後に告げられ、そのまま部隊配置となるらしい。
その日の夕方。
解放連合の兵士や傭兵、志願兵達が集まる酒場は、戦を前にした屈強な男達の熱気で満ちていた。
酒と肉の匂い、笑い声と怒号が入り混じり、店内は戦場とはまた違う騒々しさに包まれている。
三人は席に座り、食事をしていた。
「レナード、今まで世話になったな」
喜一がレナードの杯にビールを注ぐ。
「恐縮です」
ヴァルカがレナードの肩をたたく。
「ここまで来れたのは、あんたのお陰だ。世話になったね」
喜一もヴァルカも、北部の戦に参加しようとして途中で道に迷い、行き倒れていた。
レナードがいなければ、同じことになっていたかもしれない。
「いえ、それを言うのであれば私も。道中盗賊に襲われても御二人が直ぐに対処していただけるので、安心して御者を務めさせていただくことが出来ました」
レイグラムを出発してから一年間、何度か盗賊の襲撃を受けた。
鉄塊のガルドのような賞金首はいなかったが、二十名を超える盗賊団相手でも、喜一とヴァルカの二人で瞬く間に制圧していた。
「レナードは明日帰るんだよな? 護衛はどうするんだ?」
「後方支援隊の補給馬車に途中まで同行させていただくことになりました。その先は傭兵を雇って旦那様の元へ帰ります」
「ああ、面接の後どこかに行ってたのはそういうことか」
「それなら安心だね。戦場に近づくにつれて、村人や傭兵くずれが盗賊化して物騒だったからねぇ」
三人がそんな話をしていると、後ろから声が掛けられた。
「お前、ヴァルカじゃないか」
振り向くと、そこには茶色の被毛に覆われた獣人族の男が立っていた。
「あんた……ザガルかい? 久しぶりだねぇ」
どうやらヴァルカの知り合いらしい。
「久しぶりじゃないだろ。お前、中央大陸の戦に行くと言って部族を出てから四年間、どこで何してたんだ?」
「私にも色々あったんだよ。そういうあんたは、何でここにいるんだい?」
ザガルは胸を張る。
「俺もお前が部族を出た後、一人前と認められる為に戦に参加したんだ。今では戦果を認められて、遊撃隊という精鋭部隊に配属されている」
「へぇ~、いつも私に何度も勝負を挑んでは負けて泣いていた、あの泣き虫ザガルが立派になったもんだ」
「うっ、それは昔の話だろ。俺もあの時より強くなったんだ」
ヴァルカとザガルの会話は、どこか故郷を懐かしむような響きを帯びていた。
(故郷……か……)
たまに思い出す。
喜一の故郷、蒼嶺国の山に囲まれた小さな農村。
あの日、父を殴って家を出た。
父は今、どうしているのだろうか……。
ザガルが喜一とレナードに目を向ける。
「こいつらは誰だ?」
「紹介するよ。こっちは御者のレナード、ここまで送り届けてもらったんだ」
「レナードです。この度は御者を務めさせていただきました」
レナードがザガルに一礼する。
「それから……」
ヴァルカが喜一を見てニヤリとする。
喜一は何か嫌な予感がした。
ヴァルカが喜一に抱きつく。
「こっちはキーチ。私の番いさ」
ザガルは口を開けたまま硬直した。
レナードは静かに杯を口に運ぶ。
喜一はやれやれといった表情だ。
やがてザガルは我に返った。
「お前、自分より弱い男とは付き合わないって言ってただろ。それにそいつ、随分若く見えるが……まだ子供じゃないのか?」
「キーチは強いよ。なにせ武術大会で私に勝って優勝したんだからね」
「お前に勝ったのか? こんな子供が?」
ザガルは信じられないといった目で喜一を見る。
「キーチは十五だから、あと一年もすれば成人だよ。あんたとだって四つしか違わないじゃないか」
(四つということは、ザガルは十九歳か)
ヴァルカは二十歳と言っていたから、ヴァルカとザガルは一つ違いということになる。
ザガルは鋭い眼光で喜一を見据えた。
「キーチ、俺と勝負しろ!」
ザガルの様子に、喜一は何となく察する。
ヴァルカは以前言っていた。
『ウチの部族の男共は揃って軟弱者でね。一度でも私に勝てたら考えてやるって言ってるんだけどね』
そして先程、ザガルはヴァルカに何度も勝負を挑んでいたと言っていた。
つまり、そういうことだろう。
喜一は小さくため息をつく。
「ザガルと言ったか。安心しろ、ヴァルカのいつもの冗談だ」
「おや、釣れないねぇ」
「冗談……?」
ザガルはきょとんとして呟く。
「ヴァルカがそんな冗談を? 今までそんなこと一度も……」
何やら考え込んでしまったようだ。
喜一は手を差し出す。
「俺とヴァルカも三日後に入隊する。よろしく頼む、先輩」
ザガルと喜一が握手する。
その時、少し離れた席から声が飛ぶ。
「おいザガル! 何してるんだ?」
ザガルと一緒に酒場に来ていた男らしい。
ザガルはどこか腑に落ちない顔のまま、自分の席へ戻っていった。




