第二十五話 旅の終わり
新世歴十一年。
世界最強の旗を掲げた馬車が、北へと続く街道を進んでいた。
やがて周囲の景色が変わり始める。
前方から、幾筋もの車列が現れた。
鉄と木で補強された補給馬車。干し肉や穀物袋を山と積み上げた荷台。
鎧を打ち鳴らしながら行軍する兵士の列。
「……そろそろ目的地のバルディア王国だな」
喜一が呟く。
「ここまで長かったねぇ」
レイグラムを出発してから一年近く。
喜一は十五歳になっていた。
「ようやく、俺の最強を戦で証明する時が来たって訳だ」
「ところで、最強を証明するって、どうやってするんだい? 戦は武術大会みたいに優勝者を決めるものじゃないよ」
「なんだヴァルカ、知らなかったのか」
「知る訳ないだろ?」
「ヴァルカはグラディオンで最強の闘士って言われてたよな」
「ああ、負けなしだったからね」
「それだよ」
「どういうことだい?」
「最強は誰かが決めるもんじゃない、最強であれば自然と周囲が認めるもんだ。北部の戦には世界中の強い奴等が集まってるんだろ?」
「そうだねぇ」
「なら、そこで負けなしなら世界最強だろ」
ヴァルカが笑う。
「なるほど、キーチ頭いいねぇ」
「だろ?」
その時、御者台からレナードの落ち着いた声が届いた。
「はたして、そう上手くいくでしょうか」
「どういうことだ?」
「戦争は個対個の戦いではなく、集団対集団の戦いです。キーチ様の強さは疑っておりません。しかし、いかに個の武勇が優れていようと、それだけで勝敗が決する訳ではございません」
声は穏やかだが、硬い。
「キーチ様も、ヴァルカ様も、戦は初めてでございますね?」
「そうだな」
「そうだね」
「戦場では数百、数千規模の衝突が起きます。弓矢や魔法も飛び交う。魔人もまた、手強いという話です」
「魔人か、どういう奴等なんだ?」
「身長は人族と同程度、肌は紫色、頭部に角があると聞きます。一体の魔人に対し、人族五人でかかれとも」
「百人の魔人に五百人か」
「戦が長引く訳だねぇ」
レナードは続ける。
「さらに、魔王軍には魔将軍と呼ばれる幹部が存在します。占領された四か国それぞれに配置され、指揮を執っているとのこと」
「魔将軍?」
「魔将軍一人に奇襲を仕掛けた部隊が全滅したという逸話もございます」
一瞬、馬車の中が静かになった。
だが、喜一は笑う。
「そいつが大将首って訳だな、なら魔将軍の首を取るのが、世界最強への近道だ」
「魔人侵攻から十一年。未だ誰も成し遂げておりません」
「だから面白い」
喜一の目が、鋭く光る。
「戦うのが楽しみだ」
レナードは一拍置き、言葉を選ぶように続けた。
「戦に参加するには、エルグラント解放連合へ入隊する必要がございます。北東支部で入隊手続きになりますが、御二人は乗馬のご経験は?」
「ないな」
「ないね」
「それなら歩兵隊ですね」
「歩兵隊?」
「主に戦士や剣士等の前衛で構成される部隊です」
「他に何があるんだ?」
「他には騎兵隊、弓兵隊、魔法隊、後方支援隊。そして、遊撃隊がございます」
「遊撃隊?」
「少数精鋭で構成される別働隊です。本隊とは別に、戦況に応じて動きます」
喜一の口元が吊り上がる。
「精鋭か、いい響きだ」
「そっちの方が面白そうだねぇ」
「それでは、遊撃隊に?」
「入りたいと言って入れるものなのか?」
「御二方なら実力的には申し分ないかと、エルグラント解放連合の北東支部に到着しましたら交渉いたします」
「頼りにしてるぞ」
「私も、頼むよ」
「承知いたしました」
やがて、視界が開ける。
高くそびえ立つ城壁。
城門の前には各国の旗を掲げた軍用馬車が列を成していた。
赤地に獅子、青地に双剣、白地に鷲……。
様々な紋章が風に翻っている。
その上空で、世界最強の旗が風を受けて大きくはためいていた。




