第二十四話 世界を救え
リューネ村の入口には、村人達が集まっていた。
石造りの門の前、まだ冷たい空気の中、ざわめきが広がる。
村長が一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「この度は、村を救っていただき、誠にありがとうございました。皆様はこの村の恩人です」
丁寧な言葉だった。
その背後に並ぶ村人達は笑顔だが、どことなく白々しい表情を浮かべていた。
カイルが人垣をかき分けて前に出る。
「もう、行っちゃうんだね」
「ああ、世話になったな」
「キーチさんは、魔人との戦いに行くんだよね」
「そうだな」
短い返答。
だがカイルの胸には確信があった。
喜一は勇者ではないと言うが、本当は勇者様なのではないかと。
喜一ほどの強さであれば、魔人との戦いを終わらせ、世界を救ってくれるのでは、と思っていた。
「キーチさん」
「なんだ?」
「キーチさんは、やっぱり勇者様なんでしょ?」
「なんだ、またその話か」
喜一は、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「何度も言うが、俺は世界最強になる男だ、勇者じゃない」
「でも、キーチさんほど強ければ、世界を救えると思う」
「カイルは世界を救いたいのか?」
「うん」
カイルは頷く。
喜一は一瞬だけ目を細めた。
「なら、お前が世界を救え」
「えっ?」
喜一はカイルを真っ直ぐ見据える。
「僕が、勇者様に?」
「別に勇者になる必要はない」
「どうゆうこと?」
「勇者にならなくても、方法はあるだろ? 勇者って奴の手助けをしてもいいし、世界を救うためにできることがあるならそれをしてもいい」
カイルが俯く。
「僕に、できるかな」
「お前はすでに村を救ったじゃないか」
カイルは顔を上げる。
「でも、僕一人では何も……」
「それを言うなら、俺達もお前がいなければ奴を倒すことはできなかった」
カイルが目を見開く。
「僕が、いなければ」
「それに、世界を救う奴が一人だけだなんて、誰が決めた?」
「でも、世界を救うってどうすればいいの?」
「それはお前が考えろ」
「考える?」
「ちょっと待ってろ」
喜一は馬車へ向かい、一本の木刀を持って戻ってきた。
「俺が作った物だ、お前にやる」
カイルは両手で受け取る。
「俺には世界を救うというのはわからん、興味もないしな」
一瞬、間が空く。
「カイルが世界を救いたいと思うなら、どうすれば救えるのか考えて行動するんだ」
「考えて、行動する」
「あれだ。クイーンゼルガムを倒す時、三人でどうすればいいか考えただろ」
カイルは頷く。
「考えて、動いたから倒せた。ただ待ってるだけじゃ、何も解決しない」
「何も……解決しない」
「悩んだ時は、そいつを振れ、俺はそうしてきた」
カイルは木刀を握りしめる。
視線を上げ、喜一の目を見る。
「うん!」
カイルは力強く頷く。
喜一も頷き、手を差し出す。
「それじゃ、俺達は行く、元気でな」
「キーチさんも!」
固く、力強い握手。
ヴァルカが軽く手を振る。
「強く生きるんだよ、少年」
レナードは静かに一礼した。
「ご健勝を」
喜一達が馬車に乗り込む。
車輪がゆっくりと回り始める。
馬車が遠ざかって行く。
その様子を見て、村人達は口々に言う。
「できるなら、最初からもったいぶらずに引き受けてくれればよかったのに」
「まあ、でもこれで安心して寝れるな」
そう言いながら、村人達は帰って行った。
カイルは木刀を構え、一振りする。
空気を切る音。
「キーチさん……僕、やるよ」
その瞳には、確固たる意志が宿っていた。




