第二十三話 後始末
クイーンゼルガムを倒した後、三人はしばらく洞窟の外で待機する。
立ち込めた煙がゆっくりと薄れていくのを確認してから、再び中へ入る。
洞窟の奥は静まり返っていた。
白い卵を、ひとつ残らず潰していく。
殻が割れる鈍い音が洞窟に響く。
「これで終わりだな」
喜一が低く言う。
巣の周囲も見て回ったが、ゼルガムの姿はない。
そして……村へ戻る頃には、すでに日は暮れていた。
リューネ村は静寂に包まれている。
家々の戸は固く閉ざされ、明かりはない。
「討伐の報告は明日にするか」
「そうだね。今、村人達が家から出る訳がないからねぇ」
「カイル、今日は俺達の所で泊まれ」
「いいの?」
「仲間なんだから、当たり前だろ?」
「うん!」
三人はレナードの待つ、世界最強の旗を掲げた馬車へ戻った。
「お疲れ様でした」
レナードは深く一礼し、温めたパンとスープを差し出す。
素朴だが、疲れた身体には何よりのご馳走だった。
食事を取りながら、これまでの経緯を話す。
「なるほど、クイーンですか」
レナードは静かに頷く。
「卵はすべて潰した。巣の周囲も確認したが、他にゼルガムはいなかった」
「念のため、数日は森を探索して、生き残りがいないか確認しましょう」
「そこまでしてやる必要はあるのかい?」
ヴァルカが顔をしかめる。
「旦那様から一度引き受けた仕事は、たとえどんなに辛くともやり通せと言われております」
「ああ、なんかルドリックらしいな」
「その商人の話、二人でよくしているけど、どんな人なんだい?」
喜一とレナードは、顔を見合わせ、ヴァルカに向き直った。
「俺の命の恩人だ」
「旦那様は私の憧れであり、指標です」
「ふ~ん、なんか凄いやつなんだね」
カイルは、喜一達にここまで言わせるルドリックは、どんなに強く、誇り高い人なんだろうと思いを馳せた。
「という訳で、明日も森に入る。カイル、行けるか?」
「うん、任せて」
「今日はもう疲れた、明日に備えて寝るぞ」
食事を終え、四人は眠りについた。
―――
翌朝、村人達に事情を説明し、森の捜索を続けると告げる。
だがカイルを連れて行くことには反対の声が上がった。
危険だ、何かあったらどうする……と。
カイルが自分から「僕が森を案内する」と言うと村人達は黙った。
森の中、カイルが先頭で案内し、喜一とヴァルカがその後をついて行く。
「まったく、あいつら、せっかく倒してやったのに、捜索に人も出さないなんて」
ヴァルカはぶつぶつと文句を言う。
「まだゼルガムがいるかもしれないのに、とか言ってたな」
「本当に他人任せな奴らだね」
「まあ、そう言うな」
「なんだい、キーチ。聖人君子にでもなったのかい?」
喜一がカイルを指差す。
「俺達には、優秀な案内人がいるだろ?」
カイルが笑顔になる。
「うん、森は僕達の庭だからね」
「僕達?」
「あっ……」
僕はダリオとエマの顔を思い出す。
もう会えない二人の顔を。
カイルの目から涙が溢れそうになる。
「ううん、なんでもない」
目を拭い笑顔を見せる。
「そうか」
喜一はそれ以上踏み込まなかった。
「この先は崖だから、こっちに行きましょう」
カイルは案内を続ける。
数日間探索をしたが、ゼルガムの姿は、ついに見つからなかった。
―――
そして、出発前日の夜。
四人は馬車の傍らで食事を囲んでいた。
明日の朝には、喜一達は村を出る。
これから北部の戦場に向うと言った。
「僕もついて行っていい?」
カイルの言葉に、三人は顔を見合わせた。
「駄目だ」
即答だった。
「なんで?」
「俺達は戦に行くんだ。カイルは戦に出たい訳じゃないだろ?」
カイルは頷く。
「教会が面倒を見ると言っていた。カイルはこの村が嫌いになったのか?」
両親と暮らした家。
ダリオとエマと走り回った森。
「ううん、好きだよ」
カイルは首を横に振る。
「なら、村に残れ。村を出るのは、やりたいことが見つかってからでいい」
そう言って、喜一はカイルの頭を軽く撫でた。
「……わかった」
カイルは小さく頷く。
夜は静かだった。
遠くで虫の声が響き、焚き火の火が揺れる。
明日になれば、道は分かれる。
だが今はまだ、同じ夜の下にいる。
カイルはその温もりを、胸に刻むように目を閉じた。




