第二十二話 布石
洞窟から命からがら脱出した三人は、森の奥へと退き、茂みの陰から入口の様子を窺っていた。
クイーンゼルガムが追ってくる気配はない。
やがて、三人同時に大きく息を吐く。
「危なかった……」
「これからどうするんだい?」
喜一は洞窟を見据えたまま答えた。
「対策を考えよう」
有効な攻撃手段、電撃を防ぐ方法、一度村に戻るべきかどうか。
「攻撃するなら、あの腹部が柔らかそうだが」
「あの前足をどうにかしないと近づけないよ」
「首を斬り落としたい、だが刃をどう届かせるかだな」
「背後から確実に攻撃できればねぇ」
「安全にいくなら後衛を集めて物量で押し切る手もあるが……」
「でも王国は人を出せないって言ったらしいよ? あの村人達が弓を持ってここまで来るとも思えないし」
「それに、あの卵だ。戻って準備している間にも増える可能性がある」
「そうなると、どんどん厄介になるね」
僕はキーチさんとヴァルカさんが、あいつを倒す方法を話しているのを聞いていた。
僕には戦いのことはわからない。
きっといい方法を考えてくれる、そう思っていた。
二人は一瞬黙り込んだ後、キーチさんが僕を見て言った。
「カイル、森のことを色々教えてくれないか?」
「なんで?」
「何か良い対策が思い付くかもしれん。頼む、何でもいい」
僕は頷き、森のことを話した。
三人はクイーンゼルガムをどう倒すか議論を重ねる。
おかしな点は指摘し合い、修正し、組み立てる。
そして……。
「よし、これで行こう」
「それなら、早速準備にとりかからないとね」
「そうだな、日が暮れる前には、村に戻りたい」
三人は準備にとりかかる。
ヴァルカは乾いた木や枝を集める。
喜一とカイルはその他の素材を集める。
「カイル、この木でいいのか?」
「うん」
枝を刀で切り落とす。
「このツタでいいのか?」
「うん、このツタすごく強いんだ」
ツタを切って運ぶ。
素材が集まったところで、今度は加工する。
木を適度な大きさに切り、ツタを編み込んだ。
「よし、出来たな、洞窟まで運ぶぞ」
編み込んだツタを入口に張り、喜一は洞窟の中頃まで入る。
クイーンゼルガムは来ない、予想通りだ。
あいつは、洞窟の奥から動かなかった。
ベビーゼルガムが斬り殺されて逆上するまでは。
となると、クイーンゼルガムは卵を守るために、卵の近くから動かないのでは、という結論になった。
喜一は洞窟を出て、三人で木を運ぶ。
乾いた木と枝に火をつける。
炎が大きくなったところで、カイルに聞いて集めた木の枝を手に持つ。
この木は、燃やすと大量の煙が発生し、毒もあるので、村では絶対に薪に使わないとカイルは言った。
その木の枝を炎に大量に投げ入れる。
濃い煙が立ち上る。
三人はすぐに洞窟の外へ退く。
やがて洞窟の奥から咆哮が響いた。
洞窟内に煙が充満し、ついにクイーンゼルガムが姿を現す。
巨大な体が洞窟の中から外へと向かい、ツタに足を取られ、転倒する。
その瞬間、洞窟入口の上から、喜一はクイーンゼルガム目掛けて飛び降りた。
(クイーンゼルガム、確かにお前は強い)
クイーンゼルガムの首目掛けて刀を振り下ろす。
(だが……力だけが、勝敗を決めるわけじゃない。人間には、知恵があるんだよ!)
クイーンゼルガムの首に刃を打ち込む。
刃は首に深々と食い込むが、中ほどで止まる。
クイーンゼルガムの巨体が暴れる。
喜一は刀を握りしめ、全体重をかけて押さえつける。
(くそっ! 仕留めきれなかったか)
「キーチ!」
ヴァルカが駆けつけ、剣を喜一の刀目掛けて振り下ろす。
カアアアン!と、鋼がぶつかる音が鳴る。
クイーンゼルガムの首が断たれ、巨大な体が地に伏せ、土煙が舞う。
しばしの沈黙。
そしてクイーンゼルガムは、どくん、と最後に一度、腹部が脈打つと、それきり動かなくなった。
三人は荒い息を整えながら、倒れた女王を見下ろす。
(終わった……今度こそ、本当に)
森に、静寂が戻った。




