第十八話 森の案内人
森の中、三人の人影があった。
かすかに吹く風が木々を揺らし音を立て、小鳥達が鳴き、音楽を奏でている。
草と土の匂い。
カイルが森に入るのは三ヶ月ぶりだ。
友達と、ダリオとエマと毎日のように冒険した森。
僕達の庭。
あいつが現れてから、カイルの世界は変わった。
森は閉ざされ、ダリオとエマはいなくなった。
だけど、森はいつもと変わらぬ表情でそこに存在している。
道はない。
だけど、ここはかつての庭だ。
カイルは迷いなく森を進む。
その後を喜一とヴァルカがついて行く。
三人の土と草と枝を踏む音が鳴る。
カイルは周囲を見回すと、立ち止まった。
喜一がカイルに話し掛ける。
「どうした?」
「勇者様、こっちです」
迂回する。
「さっきのところ、真っ直ぐ進めたんじゃないか?」
「あそこは雨が降ると水が溜まるんです。乾いているように見えるけど、ぬかるんでいて足がとられます。」
「そうなのか」
「へぇ~、頼もしい案内人だね」
「洞窟までは、遠いのか?」
「お昼ご飯を食べて行ったら、日が暮れる前には村に帰れます」
「それなら、今日中に片付けて帰れるかもしれないねぇ」
「森にはよく入るのか?」
「はい、前は友達と三人で、よく森で遊んでいたんですけど……」
「魔物が住み着いて、入れなくなったって訳かい」
「ところで、さっきから勇者様って言っているけど、俺に言っているのか?」
「はい」
ヴァルカが笑う。
「あははっ、キーチ、あんた勇者だったのかい」
喜一が息を吐く。
「カイル」
「はい」
「俺は勇者じゃない」
「え?」
喜一はニヤリと笑う。
「俺の名は喜一、世界最強になる男だ」
「世界……最強?」
「この世で一番強い奴の称号だ、覚えておけ」
「勇者様とは違うの?」
「違うな」
「どう違うの?」
喜一は、やれやれ、そんなことも知らんのかという顔で答える。
「勇者より世界最強の方がかっこいい」
喜一は続ける。
「あの魔物、村人達はゼルガムと言ったか、あいつらを根絶やしにして、俺の強さを証明してやる。大船に乗った気でいろ」
「キーチ」
「なんだ?」
ヴァルカが鼻をひくりとさせる。
「この生臭い嫌な匂い……奴がいるね」
「えっ? 何も匂わないよ」
「獣人族は人族より鼻がいいからな、あの草むらに身を隠すぞ」
三人は草むらに移動し、隙間から森の奥を見る。
すると、そこにはゼルガムが三匹、周囲をうろついていた。
「ちょうどいい、俺の強さを見せてやる、ここで見てろ」
「手を貸そうか?」
「必要ない、ヴァルカもここに居てくれ」
喜一は草むらから飛び出し、ゼルガムに向かって駆ける。
ゼルガム達も喜一の存在に気付き、唸り声を上げ向かって来る。
一匹目、突進してきたゼルガムを横に躱し、すれ違いざまに後ろ足を斬りつけると、悲鳴を上げながら転倒する。
二匹目、後ろ足で立ち上がり、前足を振り上げたゼルガムの胸を一突き。
三匹目、二匹目の胸から刀を引抜いた勢いで、背後から迫るゼルガムの腹を裂く。
最後は、最初に足を斬りつけられ、もがくゼルガムに刀を突き刺し、とどめを刺した。
喜一は布で刃を拭き、静かに納刀する。
カイルとヴァルカは草むらから出て喜一の所へ向う。
喜一がカイルに振り向き、腕を曲げて力こぶを作り、笑いかける。
「どうだ、これが最強だ」
カイルは目を丸くしていた。




