第十七話 誇り
僕は両親の部屋の布団の中でうずくまり、震えていた。
僕の部屋にはあいつがいる。
すると、部屋のドアが開く音がして、布団がはぎ取られた。
「ひっ……!」
僕はあいつがまた来たのかと思って、一瞬悲鳴を上げた。
だけど、いたのは隣の家のハンスさんだった。
ハンスさんは、無事だったのかと笑顔になり、お前も来なさいと言い僕の手を引いた。
家を出ると、両親の姿がなかった。
ハンスさんに聞くと、教会にいると言われた。
しばらく歩いて着いたのは、いつも村の人達が集まって、話し合いをする場所だった。
広い部屋の中には、村の人達が大勢集まっていた。
その中には、僕を助けてくれた、あの黒髪の男の人もいた。
(勇者様だ!)
勇者様の仲間は、村の人達と何か難しい話をしている。
その時、ハンスさんが僕の肩を掴んで押し出した。
(痛いっ!)
ハンスさんは僕の両親のことを話している。
(父さん、母さん……)
昨日まで、笑いながら話しかけてくれた両親を思い出す。
だけど、もう、両親はこの世にいない。
もう二度と、笑いかけてくれることも、話しかけてくれることもない。
涙が溢れる。
村の人達が勇者様を怒鳴りつけている。
なんで?
勇者様は、僕達を助けに来てくれたのに。
獣人の女の人が何か言うと、広い部屋は静かになった。
そして……勇者様は口を開いた。
「つまり、レナードは報酬が足りない。ヴァルカは案内を出せってことだろ?」
勇者様の仲間は頷いた。
「それなら、報酬をこちらの言い値で支払うか、森の洞窟までの案内を出すか、どちらか選べ。それなら依頼を引き受けてやる。嫌ならこの話はなしだ」
勇者様が助けてくれる!
だけど、村の人達は口々に無理だ、出来ないと言う。
「出来ないなら、俺達はもう村を出る。こっちにも予定があるんだ」
勇者様が行っちゃう!
なんで誰も、お金を出すって言わないの?
なんで誰も、森を案内するって言わないの?
森……。
暗い部屋の中。
あいつの真っ赤な目を思い出す。
体が震える。
森……。
僕達の庭。
僕なら案内できる。
あそこには何度も行った。
だけど……。
森にはあいつがいる。
怖い。
行きたくない。
思い出す……。
あいつの足音。
あいつの息遣い。
あいつの唸り声。
そして、あいつの獲物を見る目……。
「時間を無駄にした。ヴァルカ、レナード行くぞ」
勇者様が背を向けて出口へ向かう。
遠ざかって行く。
涙で視界が歪む。
ふと……。
父さんと母さんの顔が浮かんだ。
「僕が案内する」
勇者様とその仲間は振り返って僕を見る。
「へぇ、この村にも気概のある奴がいるじゃないか」
ハンスさんが怒鳴る。
「あんたらいい加減にしろ! 子供を危険な目に合わせるのか? 見ろ、震えて泣いているじゃないか!」
他の人も続く。
「この子の両親は殺されたんだぞ!」
勇者様が村の人達を見て言う。
「だからこそじゃないか?」
村の人達が静かになる。
勇者様が僕の目の前まで近づき、立ち止まる。
目線を合わせ、真っ直ぐな目で、僕を見る。
「案内できるか?」
僕は袖で涙を拭う。
「うん」
「おまえ、名前は?」
「カイル」
「よろしく頼む、カイル」
勇者様が僕に手を差し出す。
僕は勇者様の手を握ると、体の震えが止まった。
もう、怖くない。
勇者様が僕を頼ってくれた。
僕は、誇らしい気持ちになった。




