第十話 世界最強を目指す少年
ヴァルカの激しい攻撃を受けつつ、喜一は反撃の隙を探していた。
だが、姿を目で追いきれない、手数が多すぎて捌ききれない、一瞬の判断ミスが命取りになる。
今だ、反撃の糸口すら見えずにいた。
(どうすればいい?)
そう思ったその時、ヴァルカの体勢がわずかに崩れた。
(ここだ!)
喜一は一瞬の隙を見逃さず、剣を打ち込んだ。
……はずだった。
甲高い金属音。
喜一の剣は受け止められ、次の瞬間、腹部に強烈な衝撃。
「くっ!」
身体が宙に浮き、後方へ吹き飛ばされる。
(誘われた! わざと隙を見せ、打ち込んだところに合わせられた)
だが、致命傷ではない。
当たる瞬間、自ら後ろへ跳び、衝撃を逃していた。
地面を滑りながら、呼吸を整えようとする。
追撃はない。
視線を上げると、ヴァルカも息を荒げていた。
それも当然だ。
縦横無尽に動き回りながら攻撃を続けている。
体力の消耗は激しいはず。
(しかし……体力切れを狙うのは難しい)
ヴァルカの体力が尽きる前に、こちらが尽きる。
隙を探すのも困難。
隙を見せないどころか、わざと作り出し、こちらの攻撃に合わせてくる。
強い、勝てる気がしない。
(これが……最強の闘士)
ヴァルカは息を整えながら、喜一を見る。
「あんた……」
大きな耳が、ぴくりと動く。
「笑ってるのかい?」
喜一は、無意識に口角が上がっていた。
次の瞬間、一直線に駆け出す。
今度は自分から、守りではなく、攻める。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
(守りに徹するな、攻めろ! 受けに回ったら、手数に圧倒される)
剣撃が始まり、激しい金属音が鳴り響く。
(受けるのではなく、受け流せ! 攻撃と防御を分けるな、一体にしろ)
刃の軌道をそらし、そのまま斬りつける。
(視覚に頼るな! 五感を全て使え)
風の流れを肌で感じ取り、視界外からの斬撃を躱す。
(アルベルトとの戦いを思い出せ! 無理に回避するな、防具で受けられるなら、防具で受けろ)
突きを籠手ではたき落とす。
(ガルドとの戦いを思い出せ! 隙を探すな、隙を作れ)
重心を崩して打ち込む。
徐々に形勢が傾く、ヴァルカから、喜一へ。
ヴァルカが体勢を整えようと後退するが、喜一も同時に踏み込み、距離を詰める。
(セシウスとの戦いを思い出せ! 相手のしたいことを、させるな!)
───
ヴァルカは焦っていた。
今まで、自分の速さについて来れる者はいなかった。
試合はすぐに終わる。
だからこそついた二つ名、疾風。
だが、この少年には通用しない。
速さも手数も自分が上、それなのに、食らいついてくる。
いや、追いついてきている。
試合開始時、確実に実力は自分の方が上だった。
だけど今は……。
(試合中に、成長している……?)
───
会場の熱気は最高潮に達する。
観客は総立ち、熱狂のるつぼ。
激しい切り合いの中、喜一は思う。
疾風のヴァルカ。
確かにお前は俺より速い、手数もお前のほうが上だ。
俺は、お前より遅いし、お前より手数も少ない。
(だが……強いのは、この俺だ!)
ヴァルカの双剣が、一瞬交差する。
その瞬間、喜一は刃を絡め取る。
力ではない、軌道と重心を読んだ一撃。
双剣が弾かれ、宙を舞う。
空気が凍りつく。
次の瞬間、喜一の剣が、ヴァルカの首筋に当てられていた。
静寂。
そして……ヴァルカが小さく笑う。
「……まいった」
審判の声が響く。
「勝者! 世界最強を目指す少年、キーチ!」
爆発する歓声、地鳴りのような拍手。
喜一は観客席を見る。
ルドリックが顔を真っ赤にして号泣していた。
ヴァルカが喜一に歩み寄り、手を差し出す。
「優勝おめでとう、世界最強」
その言葉に嘲りはない、純粋な敬意。
喜一は、その手を握る。
「あんたも強かった」
互いの手を強く握り、認め合う二人。
会場は拍手と喝采に包まれた。




