セリオン――讃歌
そのころフローネ姫は地面に立てられた十字架にはりつけにされていた。
夜の中、フローネ姫の長い金髪が光っているように見えた。
フローネ姫はもはや自分の命の最期を覚悟した。
死にたくないという思いはある。
しかし、自分は父から、母から、そしてツァラトからも愛された。
周囲の人々から愛されて育つということが普遍的ではないとわかってからは、自分の幸せを神に感謝した。
悔いがあるとすれば、それは一人の殿方を愛することがなかったことくらいだろうか。
だとしても、20年も生きていない自分にしては周囲の人々から愛され、国民からも愛された。
これ以上望むべくこともない。
「お父様、お母さま、フローネは幸せでした。お二人より早く死ぬこの身を不幸とは思わないでください」
フローネ姫が独白する。
海の中から何かが膨れ上がった。
海水が落ちると、そこには金色の竜がいた。
フローネ姫は恐れた。
それから、目を閉じてすべてを運命にゆだねた。
金竜が鋭いアギトを開き、フローネ姫を喰らおうとする。
その時だった。
光の刃が放たれ、金竜の首を切断した。
「フローネ姫、ご無事ですか?」
「え? あなたは?」
そこに一人の若者が現れた。
「失礼、私はシベルスクス。ポリナイケス島の出身で、スカンダリア王国に仕える戦士です。血の魔女ディアナは死にました。私はあなたを助けるために、この島へとやってきたのです」
フローネ姫は胸が高鳴るのを感じた。
それはフローネにとって初めての経験だった。
(ああ、私はこの方を愛してしまったんだわ)
シベルスクスは内心の動揺を抑えるのに必死だった。
シベルスクスはフローネから発せられるその在り方に、胸をときめかせた。
確かにフローネ姫は美しい。
だが、そんなものはシベルスクスを感化しない。
フローネから発せられるオーラのようなものが、シベルスクスを魅了するのだった。
(俺はいったいどうしたんだろう? これは……こんなものは初めてだ)
二人はしばしのあいだ沈黙した。
そして二人は見つめ合った。
「そんなに見ないでください。胸がどきどきしてしまいますわ」
「ああ、申しわけない。こういう気持ちは初めてで俺にもよくわからないんです」
シベルスクスも視線をそらした。
しばらくまた沈黙する。
「先ほど言ったように、ディアナは死にました。俺といっしょにウプサルまで帰りましょう」
「ええ、喜んで」
二人はペガサスにまたがって夜の闇を抜けていった。
二人はすぐにうちとけた。
そんな体験は二人にとって今までなかったものだった。
その後シベルスクスはスカンダリア王国王都ウプサルにまで帰った。
そしてシベルスクスは夜のパーティーでフローネ姫に結婚を申し込んだ。
国王も、王妃もツァラトも、みな祝福してくれた。
一部の国民の中のフローネ姫信者は嘆き悲しんだという……
二人はマリアがいるポリナイケスの戻ってきた。
「お帰りなさい、シベルスクス」
マリアは笑顔で、シベルスクスとフローネを迎え入れた。
さて、最後に予言にあった「父を殺す」ということについて。
それは実の父を殺害することではなく、「新しい文化の創始者になる」という意味だった。
ツァラトはそれをシベルスクスに教えた。
「英雄讃歌」おしまい。




