セリオン――ディアナ
シベルスクスは帝国軍が軍を再編する前にディアナを倒すべきだと、主張した。
国王やボックス将軍もそれを支持したため、シベルスクスは旅人の恰好でディナヴィア帝国の帝都ユピテル(Jupiter)に向かった。
「何もおまえまでついてくることはなかったんだよ」
「あーら、いいじゃない。私がいて迷惑でもあるの?」
ルキアが口をとがらせる。
「さて、どうやって皇宮に潜入するかだな」
帝都につくと、シベルスクスは皇宮に入る方法を探した。
そのときふしぎなことが起こった。
皇宮の兵士たちが眠りこけたのだ。
これは魔女の魔法だった。
皇宮務めの兵士はいずれもエリートで占められており、居眠りをする者などいないからだ。
「シベルスクスよ、そちがいることはわらわにはわかっておる。フフフ、わらわの命が欲しいか? ならば正面から堂々と入ってくるがよい。わらわは逃げも隠れもせぬ。血の魔女ディアナの恐ろしさを、骨身に染みるまで教えてやろう」
シベルスクスはディアナの声に従い、堂々と正面から皇宮の中を進んだ。
ディアナは玉座の間にいた。
ディアナは脚を組み、玉座に腰かけていた。
開かれた胸元から、豊かなバストが見える。
ディアナは妖艶な女だった。
「血の魔女ディアナ! おまえの命をここでもらい受ける!」
シベルスクスは神剣をディアナの前に突き付けた。
「フフフ……よくやってきた。わらわのしもべたちを壊滅したその強さだけは褒めてやろう。だが、わらわの強さはまだ知るまい? フッフフフフ! この時をどんなに待ちわびたことか……シベルスクスよ、そちが絶叫と悲鳴で許しを請いながらのたうち回るその様をな」
ディアナがイスに頬杖をついた。
その瞳が妖しく光る。
「俺には神剣グランツァイドがある! おまえの魔法は俺には通用しない!」
「フッ、神剣頼りの小僧が言うではないか」
「俺は神剣に頼って戦いに勝ってきたわけじゃない! 俺の力をおまえに見せてやる!」
「フッ、そうこなくてはな。よかろう。いでよ、ケルベロス(Kerberos)!」
三頭の魔犬がディアナとシベルスクスのあいだに現れた。
黒い皮膚をしており、その目はぎらついていた。
シベルスクスはこの魔物から殺意を感じた。
ケルベロスは三つの頭で大声を上げた。
「さあ、やれ、ケルベロス! おまえの牙と爪で奴を引き裂け!」
ケルベロスがシベルスクスに突撃する。
シベルスクスはそれを見てすばやくかわす。
ケルベロスが鋭い牙を出して、突進してきた。
ケルベロスは大きく跳んでシベルスクスを押しつぶそうとする。
シベルスクスはそれも見切って回避する。
ケルベロスは三つの口から炎の息をはいた。
すさまじい炎がシベルスクスを呑み込んでいく。
シベルスクスは焼き尽くされたはずだった。
「アッハッハッハ! しょせんは小僧! ケルベロスの前には手も足も出ぬか!」
ディアナが嘲笑する。
しかし、シベルスクスは光の壁を出して炎を耐えていた。
「な、なに!? そんなことが!?」
ディアナが驚愕する。
ケルベロスは再び炎の息をはいた。
シベルスクスはそれを見切っていた。
シベルスクスは光を神剣にまとわせると、その力でケルベロスの背を貫いた。
その刃はケルベロスの心臓を正確に貫いていた。
ケルベロスは黒い粒子と化して消滅する。
「まさか!? ケルベロスが倒されただと!?」
ディアナが身を乗り出した。
「これでおまえの飼い犬は撃退されたな? あとはおまえだけだ」
シベルスクスが冷静に言う。
ディアナは玉座から立ち上がった。
「よかろう。わらわ自身がおまえの相手をしてくれるわ!」
ディアナは両手から紅い爪を出した。
爪が伸びて形を成す。
ディアナは鋭い爪をシベルスクスに向けた。
紅い爪が伸びてシベルスクスを襲う。
シベルスクスは神剣でガードした。
さらにディアナは鋭い長い紅い爪で薙ぎ払ってきた。
吸血鬼はその爪を魔力によって硬化させて自在に操ることができる。
ディアナは一方的に遠距離から長い爪を繰り出し、シベルスクスの接近を許さない。
ディアナは弑逆的な笑みを漏らした。
「アッハッハッハ! どうだ? わらわの爪の前にひざまずくがよい! そして死ぬがいい!」
シベルスクスは一方的にディアナの攻撃をガードし続けた。
しかし、その顔に焦りはない。
むしろ、一方的に攻めているはずのディアナのほうに焦りが出ていく。
「くっ! わらわの攻撃を受け止めるか!」
シベルスクスはディアナの爪を斬り払った。
「なっ!?」
ディアナに隙が生まれる。
シベルスクスはそれを逃さなかった。
シベルスクスはディアナによって追いつめられるふりをしていたのだ。
シベルスクスは神剣でディアナの腹部を貫いた。
「がっ!?」
ディアナの体が雷で打たれたようにしなだれる。
「フッフフフフ……」
「? 何がおかしい?」
「フハハハハ……わらわを倒してももう遅い」
「何が遅いんだ?」
「フローネ姫は金竜のいけにえとして孤島ケトン(Keton)に送るよう命じてある。フローネ姫は金竜のエサとなるのだ……フフフ、残念だったな、英雄シベルスクス!」
ディアナは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
そしてディアナは玉座の背後にあるバルコニーまで歩いた。
バルコニーに背を預けると。
「フフフ……さらばだ、シベルスクスよ」
ディアナはバルコニーから落ちた。
「くっ! フローネ姫は孤島に送られたのか。今の俺では助けることは……」
そこに翼の生えた白い馬がシベルスクスの前に現れた。
天馬ペガサスだった。
ペガサスには城の祭司ツァラトが乗っていた。
「無事だったか、シベルスクス?」
「ツァラト?」
「フローネ姫を助けに行きたいんだろう? この馬ペガサスを使え! これならフローネ姫のもとまで一直線に行ける」
「ありがとう、ツァラト。それと」
「言われなくてもわかっているわ。シベルスクス、いっしょに旅をしてくれてありがとう! 私はここに残るわね」
「さようなら、ルキア」
「フフフ……少し見ないあいだに立派になったな。フローネ姫は幼少のころ、私が教育を任されていた。私としてもフローネ姫を助けたい。さあ、行け!」
「わかった。行ってくる!」
シベルスクスはペガサスにまたがった。
そして夜のうちに孤島ケトンにまでペガサスの力で赴いた。




