セリオン――戦争
ボックス将軍は短い茶髪に、茶色のひげを伸ばした人だった。
ボックス将軍はこの国で軍の最高司令官を務めていた。
「この国の戦況はそれほど悪いのですか?」
シベルスクスが尋ねた。
「ああ、そうだ。この国は帝国に追いつめられている。次の戦争で負ければ、良くて属州、最悪国の滅亡となるだろうな……」
「では、次の戦争では何としても勝たねばなりませんね」
「勝つか……簡単に言ってくれるな。帝国軍は強い。だがわが軍はこれ以上負けるわけにはいかぬ。次の戦いでは必ず勝たなくてはならない。ああ、それと、これを渡しておこう」
ボックス将軍は一枚のカードをシベルスクスへ手渡した。
「これは?」
「市民証だ。これがこの国で君の身分を保証してくれる。門を出入りする際にも役立つだろう」
「ありがとうございます」
一方、ディナヴィア帝国では――
女帝ディアナ(Diana キャスト・ディオドラ)が優雅にお茶を楽しんでいた。
ティーカップにはロイヤル・ミルクティーが入っている。
「シベルスクスか……その男がロッキナ街道でガイアントを倒したのだな?」
「はっ! スパイからの情報でございます」
ディアナは豪奢な金髪の髪を三つ編みにして垂らしていた。
服は黒い衣だった。
爪は紅に塗られていた。
その瞳は青で、抜きんでた美しさを誇っていた。
ディアナの近くには二人のメイド(キャスト・シエル、ノエル)をはべらせていた。
「スパイにはシベルスクスと言う男の情報を集めるよう、引き続き、指示を出せ」
「はっ!」
「それからアクスト将軍を呼べ」
「はい、かしこまりました」
ディアナは吸血鬼である。
そしてその優雅で、優美なさまは大貴族を連想させた。
ディアナの指示が及ぶと、しばらくたってから一人の男が入ってきた。
アクスト将軍である。
アクスト将軍も吸血鬼であった。
「お呼びでしょうか、女帝陛下!」
アクスト将軍が恭しく頭をたれる。
「来たか、アクスト将軍。次の戦いで、スカンダリア王国を滅ぼせ」
「はっ! わが命にかけて!」
「うむ。次の戦いではシベルスクスという若者がおまえの前に立ちはだかるだろう。だが、所詮は小僧にすぎん。おまえに『ゴリアテ(Goliath)』を与える。巨人ゴリアテの力で、シベルスクスを亡き者にせよ」
「はっ!」
アクスト将軍は退室していった。
「フフフ……それでよい。なあ、フローネ姫 (キャスト・エスカローネ)よ。次の戦いでおまえの王国は滅びるのだ」
ディアナは部屋の一室にいた一人の女性に語りかけた。
両手は鎖によって縛られている。ディアナの趣味で首輪をつけられていた。
フローネは長いストレートの金髪に、青いドレスを着ていた。
「……」
フローネ姫は無言でディアナをにらみつけた。
フローネは人質として、帝国にいるのだ。
「フフフ……そのにらみつけるまなざしも心地よいぞ?」
ディアナはそれすら嘲笑してみせた。
「フッフフフフ! スカンダリアはヴァレンティアと同じ運命をたどるのだ。シベルスクスなどと言う小僧など力でひねりつぶしてくれるわ。アッハッハッハ!」
ディアナのあざけりが夜の一室にこだました。
戦争の始まり。スカンダリア王国軍とディナヴィア帝国軍はエパミノンダス平原で対峙した。
王国軍2万5千に対して、帝国軍は5万――
まともに戦ったら王国軍に勝ち目はない。
今回王国軍は編成を変えてきた。
具体的には兵を戦力に従って分類、配置した。
つまり、歩兵(剣兵)、槍兵、弓兵、騎兵と四つの兵種の分けたのだ。
これはシベルスクスの知恵だった。
それに対して帝国軍は武器も人も魔物も入り混じれての混成軍――
勝利がどちらの側に転がり込むか……会戦前にはわからなかった。
叩きの火ぶたが切って落とされた。
王国軍槍兵部隊が弓兵部隊の支援射撃を受けて、突撃した。
帝国軍は騎兵部隊を前進させた。
帝国軍の騎兵とは貴族の証であり、上流階級の華だった。
帝国軍の主力、騎兵部隊は王国軍の槍兵部隊に押されて撤退を余儀なくされた。
次いで、王国軍歩兵部隊が槍兵部隊と入れ替わるように前に出た。
この歩兵部隊の指揮はシベルスクスが執っていた。
シベルスクスは獅子奮迅の大活躍を見せた。
シベルスクスは神剣を操り、魔族の軍団をけちょんけちょんにやっつけた。
シベルスクスの活躍によって、歩兵部隊も勇敢に戦った。
徐々に王国軍は帝国軍を追いつめていく。
「おまえがシベルスクスか?」
「誰だ、おまえは?」
シベルスクス前に二メートルはあろう長身でマッチョな男が現れた。
「我が名はゴリアテ! シベルスクスよ! おまえに一騎打ちの勝負を申し込む!」
「……俺自身は引き受けてもいいが、ボックス将軍の許可が必要だ。それを待ってもらえるか?」
「いいだろう」
シベルスクスはボックス将軍に使者を送った。
帰ってきた使者は、決闘に許可を出した。
「俺が勝ったらどうする?」
「その時は帝国軍は兵を引き上げる! その代わり、俺が勝ったらスカンダリア王国は滅亡だ! ガッハハハハ!」
ゴリアテが大きな声で叫んだ。
リスクはある。
しかし、シベルスクスは勝算ありと判断した。
シベルスクスは計算されたリスクを取った。
「いいだろう。俺とおまえの戦いで、この会戦の勝敗を決めるのだな?」
「その通りだ!」
「わかった。俺が相手だ」
王国軍と帝国軍は双方後退していく。
そして全兵士が見守る中で、シベルスクスとゴリアテの一騎討が行われることになった。
帝国側からのシベルスクスへの表情は侮蔑だった。
彼らはこの戦いを楽しんでいた。
ゴリアテを応援する声で周囲は満ちていた。
一方、王国側の兵士たちはシベルスクスに尊敬のまなざしを向けていた。
ゴリアテはシベルスクスに露骨な敵意を向けていた。
それどころか、シベルスクスを見下していた。
傲慢にもほどがある。
しかしシベルスクスにとってはそれは悪くないことだった。
敵がこちらをなめているのであれば、むしろこちら側に勝利の可能性が生まれるからだ。
シベルスクスとゴリアテは双方歩み寄り、互いの武器を取って構えた。
巨体のゴリアテの武器はこん棒だった。
「クックック! さあ、逝きな!」
ゴリアテがこん棒を叩き落す。シベルスクスはガードすれば危険と判断し、すぐさま後方に跳んだ。
「今のをかわすか。やるじゃねえか。クックック! 死にさらせ! おらああ!」
ゴリアテがめちゃくちゃにこん棒を振り回す。。
ゴリアテに「技」はなかった。
純粋な「力」があるのみだ。
この「力」は危ないが、接触しなければ意味がなかった。
シベルスクスはゴリアテの攻撃を巧みにかわした。
ゴリアテの攻撃を巧みにかわした。
ゴリアテの攻撃はシベルスクスにかすりもしなかった。
焦ってきたのはゴリアテの方だった。
「ちっ、くそがあ! くらいやがれ!」
ゴリアテは焦って隙のある攻撃を仕掛けてきた。
シベルスクスはそれを見逃さなかった。
シベルスクスは神剣でゴリアテのこん棒を切断した。
「なっ!?」
そのままシベルスクスは光の斬撃を放ち、ゴリアテを斬った。
「んな!? ウソだろ……!?」
ゴリアテは大の字に倒れた。
ゴリアテは草原の上で死んだ。
「王国の勝利だ!」
「うおおおおおおおお!!」
兵士たちが大きな雄たけびを上げる。
シベルスクスのおかげでスカンダリア兵の士気は最高潮にまで昇り上がった。
「くっ、こんな……こんなことが……」
アクスト将軍が顔をしかめる。
「これでわかったろう、アクスト将軍よ。この会戦は我らが王国側の勝利だ。さあ、すぐに兵を引き上げてもらおうか」
そうボックス将軍がアクスト将軍に告げた。
「くっ!? きさまら……覚えておくがよい! 引くぞ!」
アクスト将軍の怒号が平原の上にこだました。
王国軍はフィリッピ(Philippi)で帝国軍と対峙した。
フィリッピの会戦である。
戦闘開始直後、両軍に特別おかしなところはなかった。
しかしスカンダリア王国軍はシベルスクスの知恵によって、左翼側の戦力を最大化し、中央を次いで厚くし、右翼を敵の引きつけのみの任務に限定させた。
帝国軍の司令官はアクスト将軍。王国側の指揮はボックス将軍が執った。
王国軍は左翼を集中的に強化し、帝国軍右翼を攻撃させた。
まるでハンマーが回転するかのように戦いは進んだ。
王国軍左翼は帝国軍右翼を破り、帝国軍中央、左翼に対して背後から襲いかかった。
この戦術によって帝国軍は壊滅的打撃を受けた。
アクスト将軍は戦死した。
アクスト将軍は戦死によって「処罰」をまぬがれた。
ディアナは無能な将軍の罪――「敗北」を許さなかった。
シルミウムの会戦――帝国軍領内で戦われた会戦で、特徴的なのは西に川が流れていることだった。
王国軍の司令官はボックス将軍。帝国軍の司令官はシュペーア(Speer)将軍だった。
帝国軍は敗北したにもかかわらず、相変わらずの混成軍だった。
人は邪教僧と邪教兵が配置された。
魔物はただの「力」のみで編成されていた。
ケンタウロスの機動打撃力や、ミノタウロスのパワー、鳥人の空戦能力は省みられなかった。
王国軍はシベルスクスの知恵により、左翼に槍兵、中央に歩兵、右翼に騎兵、後方に弓兵と布陣した。
特に川の向こう側に右翼に集中して騎兵を配置した。
戦況はシベルスクスが考えていた通りに進んだ。
王国軍右翼の騎兵がその機動打撃力を生かして帝国軍左翼を撃破し、その勢いをもって、帝国軍中央を背後から襲いかかった。
帝国軍中央は前面の歩兵部隊と後方の騎兵部隊から挟み撃ちにあった。
それによりシュペーア将軍は戦死、帝国軍右翼は敗走した。
シュペーア将軍はその死によって、ディアナからの粛清をまぬがれた。
ディアナは敗北した将軍にその命で責任を取らせた。
そのため、帝国軍の将軍は勝つことより、負けないことに重きを置くことになり、ディアナの粛清をまぬがれるために保身に余念がなかった。
もし、シュペーア将軍が生きてディアナの前に現れたら、ディアナは彼を殺害しただろう。
二度の会戦で帝国軍は壊滅した。
帝国軍敗北の報を受けたディアナは激高し、飲んでいたワイングラスを床に叩きつけて、割った。
メイド二人がそれ掃除した。




