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Das Heldenlied   ヘルデンリート 20 Die Hymne  作者: Siberius
セリオンの章
59/59

セリオン――イザナミ

映画が終わった。

大聖堂では興奮が支配した。

映画の余韻が場を覆いこむ。

アンシャルが代表として、兄弟姉妹の前に現れた。

「今回はいつものように演劇ではなく、映画になった。これには一部の者は演劇のほうがよかったと思っていることも私は知っている。今回の自主製作映画はシロウトが集まって作ったものとしては質が高かったと思う。今年は未知のチャレンジができたと喜ばしく思う。最後にキャストとして映画の製作に関与したもの、そして映画の製作にかかわったすべての者たちにこの場を借りてお礼を言いたい。ありがとう。この作品は誰か一人の協力でも欠かせないものだった。私もキャストとして参加できて希少な経験を……!?」

その時大聖堂の扉が開かれた。

暖かい空気が抜けて、冷たい空気が中に入ってくる。

外には手の形をした黒い影が無数にうごめいていた。

「皆の者! 武器を構えよ! 敵襲だ!」

アンシャルがとっさに指示を出した。

こんな時のアンシャルの指揮と判断は正確で聖堂騎士団のリーダーとしてふさわしい資質を見せた。

セリオンもエスカローネもアリオンも武装する。

黒い手は大聖堂に侵入し、中にいた人々を混乱の渦中に陥れた。

「こいつら、いったい何が目的だ?」

セリオンが黒い影に斬りかかる。

「エスカローネ!  ユリオンを頼む!」

「わかったわ!」

エスカローネはユリオンらを守ることに全力を注いでいた。

アンシャルの前に三つの手が集まる。

「フッ、数でくればこの私を倒せると思ったか? 甘いな!」

アンシャルに対して黒い手が襲いかかった。

鋭い爪が研ぎ澄まされる。

それをアンシャルは光をまとった長剣で一掃した。

「敵の弱点は光だ! 光の技で黒い手を攻撃せよ!」

アンシャルが叫んだ。

「「きゃああああ」」

黒い手がシエル、ノエル、アイーダの三人をつかんだ。

セリオンはすぐにそれに気づいた。

「シエル! ノエル! アイーダ!」

敵の目的は不明だが、この三人を連れ去ることが目的なのは間違いない。

黒い穴が開いた。

三人を捕まえていた手は黒い穴の中に、三人を連れて消えていった。

「そうはさせない!」

セリオンはすぐさま黒い穴の中に跳びこんだ。

「セリオン!」

エスカローネはセリオンの存在を見失った。

黒いたちは黒い穴の中に次々と入っていく。

エスカローネは呆然とするよりほかがなかった。



セリオンは黒い手を追って、黒い筒の中に身を躍らせた。

シエル、ノエル、アイーダの三人を見失わないように。

「くっ! こいつら、いきなり現れてどこから来た!? どこに三人を連れて行くつもりだ!?」

黒い通路は突然開けて、白い花と白い草の園へと姿を現した。

「ここは……?」

セリオンは周囲を見わたした。

周囲は花と草が一面に生え出ていた。

亜空間であるのは間違いない。

「ようこそ。ここは虚無の園」

「誰だ!」

「ウフフフフ……私はイザナミ。虚無の母」

セリオンの前に妙齢の美女が現れた。

彼女は黒くて長い髪に、白い着物を着ていた。

帯も白だった。

「虚無の園だと? いったい何が目的だ?」

「私の目的は虚無で世界を支配すること。そして、それを邪魔する可能性があるものを始末すること――つまりおまえだ、セリオン・シベルスクよ」

「何のために三人をさらった?」

「この三人は虚無の宴のゲストとしてここに招いたのだ。お気に召さなかったかな?」

「俺が狙いなら、俺をねらえばいいだろう? 三人まで巻き込むな!」

「ウッフフフフ! おまえがいけないのだぞ、セリオン・シベルスクよ? おまえは世界の調和を破壊する存在だからだ」

イザナミが妖しく笑う。

「よく言う。その調和とやらも、おまえの支配において、という意味だろう? だとすれば俺は斬るだけだ。俺はそんな幻想には悩まない。俺は破壊する!」

セリオンが大剣を構えた。

「さあ、来い、セリオン・シベルスク! カミの力を思い知らせてやろう!」

イザナミが複数の氷の矢を形成した。

氷の矢は正確にセリオンの体を狙って飛んでいく。

セリオンは大剣でそれらを叩き落す。

まるで氷を割るように、セリオンは大剣を振るった。

氷の矢は次々と粉砕された。

イザナミが両手を広げた。

氷の槍がつららとなってセリオンに降り注ぐ。

セリオンはそれらを軽快なステップで回避する。

「こしゃくな!」

イザナミが広範囲につららを同時に落とした。

セリオンに回避の場所はない。

セリオンは大剣を上に上げた。

それから、大剣に蒼気をまとわせて氷のつららを貫通した。

蒼気の刃をセリオンはイザナミに向けて振り下ろす。

「くっ!?」

イザナミはそれを横によけてかわした。

「私を追いつめるとはな……だが、まだ氷の術はある! くらうがいい! 氷結花!」

氷の花がイザナミを中心にして咲き誇る。

花の先は刃と化してセリオンを襲った。

セリオンはそれに対して蒼気を波として放った。 

セリオンの技「翔破斬」である。氷の花は蒼気の衝撃波の前に音もなく消えていった。

「氷結花まで破るとは……やはりきさまは危険だ! 世界の調和のためにここで死んでもらう! 氷獄ひょうごく!」

三角形の大きな氷がセリオンの周囲に現れた。

「氷の地獄に堕するがよい!」

イザナミが喜び、哄笑する。

セリオンは大剣を上にかかげた。

光が集まる。

「光、在れ! 閃光剣!」

光が周囲に満ちた。

「うぎゃあああああ!?」

イザナミが悲鳴を上げる。

イザナミの体からは黒いもやが生じていた。

「許さん……許さんぞお……!」

イザナミの姿が変化する。

おぞましい生物の体へとイザナミは変わっていった。

「これは……宇宙生物か!?」

イザナミはその本性――アザトータ(Azatootha)へと姿を変えた。

イザナミ=アザトータである。 

「こしゃくな奴め! カミの力を思い知れ! ケノン(Kenon)!」

白いエネルギー波がセリオンを襲った。

セリオンは蒼気を叩きつけて迎撃する。

「たかが人間の分際でカミにたてつくか! 忌々しい奴よ!」

「たとえ相手がカミであろうとも、俺は負けない!」

「な、何だと!?」

イザナミのケノンが押されて、セリオンの蒼気が優勢になる。

ケノン――白いエネルギー波――虚無の光線は蒼気によって両断された。

「くっ!? この私がここまで追い詰められるとは……やはりきさまは危険な人物だ! ゆえにここで死んでもらう!」

イザナミは奥の手を出した。

「これで死ねえ!!」

イザナミから力が放たれた。

「!? なんだ?」

ガラスがヒビ入るような音がした。

それからガラスが砕ける音がした。

それは精神破壊攻撃であった。

「フッハッハッハッハ! どうじゃ! おまえの精神も、これには耐えられ……!? なっ、なんだと!?」

イザナミの必殺の攻撃はセリオンには効かなかった。

「? そんなに驚くことか? 俺は気息で動いている。気息は精神より上位の領域だ。その気息で動いている俺に、精神破壊攻撃は通用しない」

「…………」

「終わりだ。シエルたちは返してもらう! 天地神気斬!」

光がセリオンの神剣に集まる。

光は収束されて刃と化した。

その刃でセリオンはイザナミを斬りつける。

「ぎいいやあああああああ!!??」

セリオンはすべての力をかけてイザナミ=アザトータを斬った。

斬り刻んだ。

そして最大の光の一撃を叩き込む。

もはやイザナミは原型をとどめていなかった。

「おのれ……この私をよくも……!? きさまはただでは済まない……きさまは呪われる。カミガミに逆らった者として……世界のあるべき調和を破壊するがゆえに……」

「Ich glaube an Gott.(俺は神を信じる)。カミガミの正体は宇宙生物だろう? おまえたちはそんなに人を支配したいのか?」

「ククク……何もわかってはおらぬのだな……! それはきさまが「英雄」だからだ! 英雄は世界の調和と相いれない! それゆえに我らはおまえと敵対するのだ! カミガミの敵対者! 世界の調和の破壊者よ! 私は死ぬが、それで終わりではない! 私以外のカミと必ずきさまは戦うだろう。きさまの存在そのものゆえに!」

そう言いたいことを言いつくしてから、イザナミは虚空に消えた。

黒い手は消滅した。

シエル、ノエル、アイーダが解放された。

「三人とも! 大丈夫なようだな……!?」

ゴゴゴと地響くような音が鳴った。

「この亜空間が消えようとしているのか」

白い草花が虚無の園から舞い上がり、消えていった。

白い扉が大聖堂内に開いた。

その中からセリオン、シエル、ノエル、アイーダが出てきた。

「ああ、セリオン、おかえりなさい! みんな無事だったのね」

エスカローネがユリオンを抱きながらセリオンに近づいた。

「ああ、向こうで戦いがあったが、俺は勝利して戻ってきた」

するとアンシャルがセリオンの前に来た。

「結局おまえが戦ったのは何だったんだ?」

「アンシャル、『イザナミ』という名を聞いたことはあるか?」

「イザナミ!?」

「? どうかしたのか?」

アンシャルは衝撃を受けているようだった。

「何か、知っているのか?」

「ああ、我ら西方世界の神とは異なる神格の名だ。たしか極東世界の支配者の名だな。そのイザナミと戦ったのか?」

「そうだ。奴は自分を虚無の母と言っていた。それがどういうことだかわかるか?」

アンシャルは悩んで。

「いや、私にもそこまではわからない。そうか……よく生還できたな」

「奴らにとって英雄は敵だそうだ」

「英雄が敵だと?」

「そうだ。世界の調和を破壊するからだと……」

「なんにしてもそれは異教の神格かもしれないな。私たちの信仰とは異なるものだ。そうか、イザナミか……」

アンシャルはしばらく考え込んで。

「三人には異常がないかこちらで調べよう。おまえはエスカローネやユリオンといっしょにいてやってくれ。育児休暇の続きだ」

「ありがとう、アンシャル」

「私は少し、調べてみるつもりだ。何かわかったら知らせる。次の戦いに備えて、おまえは英気を養っておけ」

アンシャルは去っていった。

おそらく図書館の向かったのだろう。

セリオンはユリオンの顔を見た。

ユリオンはすやすやと寝ていた。

「セリオン、私も育児休暇の続きね。ねえ、セリオン、三人でどこか行かない? 例えば海とか?」

「海か……季節外れだな」

「いいじゃない。海を見てみたいんだから」

「そうだな」

セリオンはうなずいた。

敵の存在がおのれをかっこずける。

セリオンの戦いは終わらないのだった。

長かったHymneもここで終わりです。ここまで読んでくださった方には心からの感謝とお礼を申し上げます。ヘルデンリートはいったんここで終わりになります。そしてヘルデンリート・ノイとして再び連載を開始する予定です。今までの分はヘルデンリート・オリジナル編として呼び分けるつもりです。ノイでは一部設定が変わっていたり、敵キャラクターが再登場します。興味を持ってくれる方は後でチェックしてください。なお、しばらくは「海の子供たち」を連載します。

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